↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
78/84

77. 当てもなく手がかりを探して

村の向こうにそびえる巨大な城壁が、少しずつ近づいてくる。


エリオたちはついに、北の国の権力中枢――サマンの大神殿区へとたどり着こうとしていた。その広大な区域は、高くそびえる城壁によってぐるりと囲まれていた。


国境の村で起きた生贄騒ぎのせいで、一行は以前にも増して慎重になっていた。

夜になれば必ず一人が見張りに立ち、武器を手放すことはない。周囲の物音や気配にも常に神経を尖らせていた。


国境の宿屋で、ヘイゼルの密偵が残した合図を受け取って以来、丸二日、新たな暗号は見つかっていない。


アレクは少し焦っていた。

それはつまり、ヘイゼルがまだ決定的な作戦を見つけられていないということだからだ。


それにもう一つ、気がかりがあった。

コーディアの様子だ。


魔獣から逃げ帰ってきて以来、彼女はすっかり口数が減ってしまった。


仲間の指示にはきちんと従う。警戒任務も真面目にこなし、道中で何度か魔獣と遭遇した時も、全力で戦っていた。

だが、一息つける時間になると、彼女は決まって一人、隅の方へ行ってしまう。何か重いものを抱え込んでいるように見えた。


皆も異変には気づいていたが、誰も聞こうとはしなかった。


魔獣にさらわれた時、きっと何か恐ろしい目に遭ったのだろう――そう思っていたからだ。


四日目。それでもヘイゼルからの連絡はなかった。


仕方なく、一行は二手に分かれ、大神殿区の外に広がる街を歩き回って手がかりを探すことにした。


エリオ、コーディア、アレクの三人は、細い路地や入り組んだ裏道を抜けながら、人々の行き交う街を歩いていた。


エリオは辺りをきょろきょろ見回していたが、内心では困っていた。

何を探せばいいのか、自分でもよく分からなかったのだ。


そんな時だった。路地を抜けた角で、一頭のロバを引いた老人が突然アレクにぶつかった。

ロバの背に積まれていた布袋が、ばさばさと地面に散らばる。


「す、すまん、すまん!」

老人は頭を下げながら、小さな声で謝った。


アレクは老人を見た。


サマンの冷え込む空気の中、老人は分厚い綿入りの上着を着込んでいる。

だが妙なことに、ズボンの裾だけは膝近くまでまくり上げ、すね毛のない、つるりとしたふくらはぎをさらしていた。足元は分厚い短靴。


雨も降っていない、こんな寒い日に。誰がわざわざ裾をまくる?


アレクはしゃがみ込みながら声をかけた。

「お怪我はありませんか? 私の方こそ、うっかり余所見をしておりました。本当に申し訳ない」


散らばった布袋を拾うのを手伝う。


「ありがとうございます、お方様!」

老人は何度も礼を言い、背を丸めたままロバを引いて人混みへ消えていった。


エリオがその背中を見送っていると、不意に振り返った。

アレクが薄く笑いながら、袖の中から小さな紙切れを取り出していた。


あの老人こそ、彼らが探していた密偵だった。

さっき布袋を拾うふりをして身を寄せた時、誰にも気づかれず紙を袖へ滑り込ませていたのだ。


アレクは素早く紙を開いた。

ヘイゼルの暗号は、他人が見ればただの市場の買い物メモにしか見えない。だがアレクは、頭の中で一瞬のうちに内容を読み解いていく。


そしてもう一度目を通し、すべてを記憶に刻み込んだ。


「行くぞ」

何事もなかったように、エリオとコーディアへ声をかける。


三人は街を歩き出した。


道端では屋台が火を起こして食べ物を焼いており、子どもたちが楽しそうに火を囲んでいた。


その横を通り過ぎる時、アレクはそっと指を離す。

紙切れが火の中へ落ち、炎はあっという間にそれを飲み込んだ。


さらにいくつか通りを曲がると、一軒の果物屋へ入った。

ふくよかな女主人が山積みの果物の向こうで本を読んでいる。客が入ってきても、本を閉じようとはしない。


「すみません、リンゴを買いたいんですが」

アレクが言う。


「左にあるよ」

女主人は頭の上で髪を団子にまとめ、顎で左側をしゃくった。


アレクは積み上げられたリンゴをちらりと見てから言った。

「いや、こっちじゃなくて。もっと上等なリンゴが欲しいんです。贈り物用の」


女主人はアレクをじっと見つめた。数秒後、ようやく本を閉じて立ち上がる。

「奥だよ。ついてきな」


三人は店の奥へ案内された。

女主人が壁に掛かったタペストリーをめくると、その裏には隠し扉があった。


「中だ」

扉を開け、自分は外に立ったまま。


……本当に罠じゃないよな?

エリオは不安になった。

だがアレクは迷うことなく中へ入っていく。


扉の向こうには、細く急な階段が地下へ伸びていた。

降りていくと、少し禿げ上がった頭に金縁眼鏡をかけた中年の男が待っていた。


地下室は広くない。壁にはさまざまな形の彫刻刀や定規、金槌が並び、小さな炉の横には大小の金属板が積まれている。

細長い換気管が壁を伝って天井へ伸び、中央の机には筆記具や帳面、無数の設計図が散らばっていた。


石炭と金属、油の匂いが重たく空気に漂っている。


「ブレイか?」

男が短く尋ねた。


「そうだ」

アレクが答える。


「これを預かってる」

男は小さな布包みを差し出した。


アレクが布包みの結び目を解く。エリオとコーディアも、思わず身を乗り出した。

中には何が入っているのか。


結び目がほどける。アレクは静かに中の物を取り出した。

その瞬間。エリオもコーディアも、信じられないというように目を見開いた。


アレクの手の中にあったのは、灯りに照らされてキラキラと輝く金属製の八面体――。

彼らが追い求めてきた、あの黄の匣だった。


記憶が一気によみがえる。


初めて幻域へ足を踏み入れた時の不安。

目の前でコーディアが魔獣に引きずられていった恐怖。

そして、瀕死の重傷を負ったヴィクターの姿。


命がけで取り戻そうとしてきた黄の匣が。今、確かに彼らの目の前にあった。

ご覧いただきありがとうございます。

【更新スケジュールのお知らせ】


● 毎週 【日・月・火・木・金】18:10 更新


ぜひブックマークして、続きをお楽しみいただけると嬉しいです。

本作を気に入っていただけましたら、評価(★★★★★)やご感想、レビューなどをいただけると大変執筆の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。