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70. 二者択一の選択

「みんな無事でよかった」

アレクは拳銃をしまいながら言った。


それからミレイナへ向き直る。

「どうだ? 歩けそうか?」


「ありがとうございます、ブレイ団長。もうだいぶ楽になりました」

ミレイナは答えた。


「じゃあ、とりあえずここを離れないか?」

フレデリックが周囲を見回しながら言う。


「ああ。この村に長居は危険だ。すぐ出発するぞ」

アレクが頷いた。


だがミレイナは少し迷うような表情を浮かべた。

「その……言うべきか迷ったんですが……」


彼女はおずおずと口を開く。

「祭壇に、まだ二人の女の子が残っているんです。たぶん五歳か六歳くらいの……」


「何だって? 残りの二人の生贄のことか?」

アレクが眉をひそめた。


「はい……私が祭壇へ連れて行かれた時に見ました。姉妹らしい女の子が二人、それから老人と牛がいました。私たちが、あの人たちの言う『五つの供物』だったんです」


ミレイナの声は震えていた。必死に感情を抑え込んでいるのが伝わってくる。


「結局、あの儀式は何だったんだ?」

エリオが尋ねる。


「話を聞く限りでは、今日は年に一度の『奉献の日』みたいです。そして村では決まった規則で供物を選ぶんです。

私の理解が正しければ、家畜一頭、老人一人、それから奉献の日の前日に最初に黒の森へ入った女性……」


「最初に黒の森へ入った女性? だから君が生贄にされたのか?」

グレンが聞く。


「たぶんそうです。それに、彼らは『欠けた怪物』も探していました」


「欠けた怪物?」


「生まれつき障害のある子供たちのことです。あの人たちは、そういう子供は穢れているから神に連れて行ってもらうべきだと考えているんです。

祭壇にいた姉妹も、一人は足が不自由で、もう一人は目が見えなかったと思います」


「なんてこと……」

コーディアが顔を曇らせた。


「ええ……。あの子たちのお母さんもいました。何人もの男に押さえつけられて、自分の娘たちが祭壇へ連れて行かれるのを見ているしかなかったんです」


ミレイナは唇を噛む。

「だから……その……私たちに、何かできないかなって……」


「まさか、その姉妹を助けに戻りたいって言うのか?」

フレデリックが信じられないという顔をした。


「危険なのはわかっています。任務全体を考えれば、余計なことをするべきじゃないのかもしれません。でも……」

ミレイナは俯いた。


上官の命令に従うことには慣れている。

任務の途中で自分の希望を口にするのは、これが初めてだった。


胸の奥に重たい罪悪感が渦巻いている。


任務を乱そうとしているからなのか。

それとも、自分だけが助かり、あの姉妹は魔獣に食われようとしているからなのか。


自分でもわからなかった。


誰もすぐには答えなかった。


数秒にも満たない奇襲でミレイナを救出し、さらに魔獣の群れからも逃げ切ったばかりだ。

今さら生死もわからない姉妹を助けに戻るなど、自ら危険へ飛び込むようなものだった。


「戻るなんて絶対に無理だろ!」

フレデリックが勢いよく首を振る

「考えてみろよ。あの暴徒どもが俺たちを見たらどうなる? それに魔獣だってまだいるかもしれないんだぞ!」


「……わかっています」

ミレイナはさらに俯いた。


「ミレイナ、お前だって隊長クラスの兵士だろ。俺たちは本来の任務に集中しなきゃならないってわかってるはずだ。

それに、あの姉妹はもう死んでる可能性の方が高い。そんなことで危険を冒す必要なんてない」

フレデリックは続けた。


「はい……その通りです。皆さんの任務計画を乱してしまって申し訳ありません」

ミレイナは深く頭を下げる

「やっぱり先へ進みましょう」


皆の視線がアレクへ集まる。


アレクが腕を組み思考に沈む傍らで、フレデリックだけは恐怖を隠せぬ様子で、せわしなく周囲を何度も見回していた。


その時だった。


「待ってくれ」

グレンが口を開く

「だったら俺が戻るよ。みんなは先へ進んでくれ。俺が祭壇を見てきて、助けられるならあの姉妹を助ける」


「おい、やめろよグレン!」

フレデリックが苛立った声を上げる

「頼むから少しは理性的になってくれ。また問題を増やす気か?」


「申し訳ありません、ブレイ団長」

グレンは真っ直ぐアレクを見た。


「わがままだとはわかっています。でも、もしほんの少しでも助けられる可能性があるなら試してみたいんです。もちろん無理だと思ったらすぐ撤退します。必ず慎重に行動します」

その瞳には迷いがなかった。


皆の議論を黙って聞いていたエリオも、ついに口を開く。

「ブレイ団長。俺もグレンと一緒に行きます。二人なら成功率も上がるし、互いに援護もできます」


グレンが感謝するようにエリオを見た。


「私も行くわ」

今度はコーディアが言った。


アレクは彼女を見た。何か言いたそうだったが、結局は飲み込む。


「……わかった」

しばらくしてアレクが口を開いた

「お前たち三人は祭壇へ戻って状況を確認しろ。残りは俺と先へ進む。

ソーンはこっちに残れ。こちらにも最低一人は狩魔師が必要だ。魔獣に遭遇しても、俺とお前で対処できるだろう」


「はい!」

皆が声を揃えて答えた。ただ一人、フレデリックだけが不満そうな顔をしていた。


「現地での行動はすべてお前たちの判断に委ねる。お前たちの実力を信じての決定だ」

アレクは三人を力強く見据えた

「救出が済み次第、速やかに本隊へ合流しろ」

ご覧いただきありがとうございます。

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● 毎週 【日・月・火・木・金】18:10 更新


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