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67. 奉納という名の祭典

村の外れには小さな広場があった。そこはすでに村人たちで埋め尽くされている。


広場の中央には祭壇らしき台が設けられ、その上には木製の円柱が五本立っていた。高さは大人の背丈よりさらに頭二つ分ほど高い。


五本の柱には何かが縛り付けられていたが、その上から灰色の布が掛けられていて、中身は見えない。


だがアレクたちはほぼ確信していた。

ミレイナは、そのうちの一本に縛られている。


「連中、何をするつもりなんだ?」

エリオは小声でコーディアに尋ねた。


どう動くべきか、少しでも手掛かりが欲しかった。

だがコーディアは不安げな目を向けるだけだった。


「私にも分かりません。北国の密教については資料を読んだことがないんです。

ただ、サマンを統治する教皇はヴィサトゥ教派に属していて、その教派には国内にたくさんの分派があります。

もしかしたら、これはその一つが行っている生贄の儀式なのかもしれません……」


「生贄? じゃあ……火あぶりにでもするのか?」

エリオが尋ねる。


「生きた人間の胸を抉り、その心臟を生きたまま掴み出して捧げた例も――」

そこまで言ったところで、コーディアは言葉を失った。


無理やり気持ちを落ち着かせる。


「野蛮すぎるだろ……。連中の神って、いったい何なんだよ」

グレンが眉をひそめた。


「そんなのは後だ」

ソーンが口を挟む

「問題は、あの布を被せられてる五本の柱のどれにミレイナがいるかだろ?」


全員が祭壇を見つめた。だが、どれがミレイナなのか見当もつかない。


「いっそ一つずつ布を剥がしていけばいいんじゃないか? ミレイナを見つけたら、そのまま連れて逃げる」

フレデリックが言った。


だがアレクは首を横に振る。

「危険すぎる。今は村人全員が祭壇を注視している。救出の途中で止められる可能性が高い」


アレクは周囲を慎重に観察した。

戦闘力だけなら、この場の村人は誰一人として自分たちに及ばない。


だが数が違う。混乱になれば、不要な死傷者が出る恐れがある。

しかも今回の任務は極秘だ。できる限り騒ぎは避けなければならない。


――厄介だな。

状況は思った以上に扱いづらい。


ただ、一つだけこちらに有利な点がある。

戦闘速度だ。


アレクは判断した。

今は動かない。儀式をそのまま進行させる。

村人たちの警戒が緩む瞬間を待つ。


儀式が始まれば、連中の注意は祭司か儀式そのものへ向くだろう。

その時だ。誰も見ていない一瞬。そのわずかな隙にミレイナを救出する。


五秒……いや、下手をすれば三秒にも満たないかもしれない。


だからこそ、機会を見極めなければならない。そして反応される前に村を離脱する。


奇襲が前提だ。

アレクは目配せで指示を出した。できるだけ人混みに紛れ込み、祭壇へ近づけ。


エリオ、ソーン、フレデリックは一組となり祭壇の反対側へ移動する。

アレクはコーディアとグレンを連れてこちら側に残った。


全員が身にまとった黒いロングコートのおかげで、人波の中へ自然に溶け込んでいる。

あとはアレクの合図を待つだけだった。


黒い尖り帽子を被った男が祭壇へ上がった。その男が手を掲げると、広場は静まり返る。


エリオは気付いた。その男の手にも、宿屋の主人と同じような紋様の刺青がびっしり刻まれている。


「これより数十分の間、我らは神が遣わした使者へ、敬虔にして謙虚なる供物を捧げる」

男は広場中に響く声で告げた

「そして諸君らは、その奉献を自らの目で見届けることになる」


「例年の慣わしに従い、本年も五つの供物を捧げる。一頭の牛。死を間近にした老人一名。異邦より来た女一名。そして異なる者たる子供二名」


男は数秒黙り、再び口を開いた。

「この奉献を見届けた者には神の加護が与えられる。来たる一年、神は諸君らの暮らしを守護するだろう。では祈りの言葉をもって、神の使者を迎えよう」


村人たちは一斉に両手を合わせた。目を閉じ、頭を垂れる。


祭壇の男が詠唱を始める。


「大風は大地を渡り、嘆きを攫う。

大雪は荒野を覆い、万象を静寂へ還す。

我らは光の下に首を垂れ、この世ならざるものを、あなたへ捧ぐ。


第一の奉献――

歳月に削られし身を返さん。


第二の奉献――

秩序を宿せぬ形を去らせん。


第三の奉献――

正しき道を外れし心を鎮めん。


第四の奉献――

不完全なるものを、完全へ至る前へ還さん。


第五の奉献――

一年の平穏と無災を乞い願う。


我ら民は頭を垂れ、あなたに仕える。

どうか、その眼差しをこの地へ向けぬように」


男は三秒ほど沈黙した。そして再び口を開く。


すると今度は村人全員が声を揃えた。

「世界が、その形を保たんことを」


再び静寂が訪れる。


男は一本目の柱へ歩み寄った。布を剥ぎ取る。そこに縛られていたのは、痩せた乳牛だった。

村人たちは息を呑む。


誰もが緊張した顔で空を見回していた。

不穏な空気が広場を満たしていく。


――祭司の動きをよく見ろ。

アレクは目を細めた。


だが何も起こらない。


祭司は第一の供物から数歩離れた場所に立ったまま、厳しい表情で何かを待っているだけだった。


「何なんだよ、これ……」

フレデリックが呟いた、その瞬間だった。


牛の体が突然、何かに引き裂かれた。牛の頭部が胴体から切り離される。

鮮血が四方へ飛び散った。

祭壇近くにいた村人たちへ降り注ぎ、祭司の顔と体も半分ほど真っ赤に染まる。


人々が悲鳴を上げた。

「神よ……!」

あちこちから震える声が上がる。


だが――違う。

それは神なんかじゃない。


エリオには見えていた。

左目が、はっきりと捉えていた。


――魔獣だ!

ご覧いただきありがとうございます。

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● 毎週 【日・月・火・木・金】18:10 更新


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