65. わけも分からず拉致された!?
どうして私はこんなところにいるの……?
ミレイナは心の中で呟いた。
周囲を見回そうと首を動かす。だが何も見えない。
真っ暗なのだ――いや、違う。
ミレイナは気づいた。
目隠しをされている。
口には布を詰め込まれ、両手は後ろ手に縛られていた。
しかも、自分がなぜこうなったのか全く覚えていない。
頭がぼんやりしていた。
必死に記憶を辿る。
サマンへ向かう任務部隊への参加命令を受けた時のこと。
国家情報調査局のオードリー・モーガン将軍とブレイ団長と共に、事前の極秘会議を行った。
任務の流れを一つひとつ確認し、その中でヘイゼルという女性についても話し合った。
ヘイゼル。
何年も前にザヒール軍が極秘裏にサマンへ送り込んだ諜報員だ。
情報調査軍団の隊長であるミレイナは、もちろんその存在を知っていた。ただし会ったことはない。
知っているのは、ザヒール軍が保有するサマン関連の情報の大半が、権力中枢へ潜入したヘイゼルと、その協力者たちからもたらされたものだということだけだった。
ヘイゼルから届いた情報によれば――。
魔獣たちが語っていたイートン博士は、やはりエリオの言う通りデイモン・ウォーカー本人だった。
そしてデイモン・ウォーカーは黄の匣を持ち帰ると、真っ先にサマン教皇へ極秘謁見している。
つまり黄の匣を奪還するには、教皇がいる大神殿区へ向かわなければならない。
黒の森を抜けて国境の宿屋へ到着した時。
アレクがしばらく宿屋の外にいたのも理由があった。
ヘイゼルが協力者を通じて残した合図を探していたのだ。
一見ただの小石。だがそこには、ザヒール軍の暗号が小さく刻まれていた。
アレクはその石を回収した。それによってヘイゼルへ、自分たちが無事にサマン領へ入ったことを知らせたのである。
ミレイナは覚えている。宿屋へ戻ってきたアレクが、さりげなく目配せしたことを。
――順調だ。
その意味だった。
その後は皆で夕食を食べた。豪華ではなかったが十分だった。
そして二階へ上がった。男部屋と女部屋に分かれた。
八人まで泊まれる相部屋だったが、その夜は他の宿泊客はいなかった。
そこから先の記憶が曖昧になる。
コーディアが「なんだかすごく疲れた」と言っていた。
自分も異様に眠かった。そして、そのまま眠ったはずだ。
――いや。
おかしい。
ミレイナは必死に思い返す。
あの突然襲ってきた眠気。あれは疲労ではない。まるで体の中で何かが急に作用したような……。
まさか。
薬を盛られたのでは?
その考えに背筋が凍った。だが、それなら全て説明がつく。
さらに記憶を掘り起こす。
眠りの中で。誰かが歩く音。小声で話す声。そして誰かに担ぎ上げられたような感覚。どこかへ運ばれていく感覚。
だが体が重すぎて目を開けられなかった。だから夢だと思っていた。
けれど違う。
夢だったなら、こんな場所にいるはずがない。
周囲は静まり返っている。
背中には冷たい壁。腰の下には藁のような感触。
他のみんなもここにいるのだろうか。
どれほど時間が経ったのか分からない。
永遠にも思える沈黙の後――。
遠くから人の話し声が聞こえてきた。徐々に近づいてくる。
「……捕まえたぞ……女だ……そうだ、間違いない……黒の森へ最初に入った女だ……」
「子供は?」
「バールの連中が確保した」
「何人だ?」
「二人だな……双子っぽい?」
「双子?」
「本当に双子かは知らねえ。俺が言いたいのは、バールの連中が一度に二人も仕留めてきたってことだ」
「ほう?」
「これで生贄は揃ったな」
「ああ。だが、バールの連中はまだ着いてねえ。まだ道中らしい」
「問題ない。時間には間に合うだろう」
その時。扉が開く音がした。誰かが入ってくる。
次の瞬間。たくましい腕が乱暴にミレイナを掴み上げた。
強烈な酒の臭いが鼻を刺す。
そして目隠しの布が勢いよく引き剥がされた。髪まで何本か引きちぎられる。
「っ……!」
突然差し込んだ光が眩しすぎて、目を開けていられない。
「そろそろ時間だな」
低く掠れた男の声が響いた。
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