59. 地下道で見つけたもの
エリオは大きく息を吸った。
そして肺いっぱいの空気を使って叫ぶ。
「グーーレーーン!!」
「コーーーディーーアーー!!」
「ソーーーンフィーーールドーーー!!」
静寂。
返事はない。
エリオはもう一度息を吸う。
そして叫ぶ。
さらに叫ぶ。
「グレンーー!!」
「コーディアーー!!」
「ソーーーン――」
「聞こえてるっつーの!!」
遠くから声が返ってきた
「だから何回も叫ぶなよ!」
聞き慣れた、少し苛立ったソーンの声だった。
永遠みたいに長く感じられた時間の後。遠くの闇の中に、小さな明かりが見えた。
やがてその光は近づいてくる。
そして――サラたちの姿が見えた。
「なんだよ! どうやってこんな所に落ちたんだ?」
先頭のサラが火把を掲げて驚いたように言った。
「ほんと、仲間の面倒見がいいんだか悪いんだか……俺がいなくなったのも気づかないとはな」
エリオはぼやきながら立ち上がる。
よく見ると、この地穴はそれほど深くない。せいぜいすねほどの深さしかない。
暗闇の中では、人間の想像力がいかに勝手に膨らむかがよく分かる。
「すみません、サラに付いていくのに必死で、あなたが遅れているのに気づきませんでした。大丈夫ですか?」
コーディアが手を差し出し、エリオを引き上げた。
「お前も遅すぎるぜ! それに、なんでこんな変な場所に落ちてんだ?」
ソーンが言う。
「知らねぇよ! マントが引っかかっててさ、それを外してる間にお前ら消えてたんだよ」
エリオが答えた。
サラは火把で周囲を照らす。どうやらこの道は行き止まりだ。途中で掘るのをやめたような形跡がある。
そして彼女が地面の穴を照らした瞬間、全員が思わず声を上げた。
そこには人骨の骸があった。腐敗臭はない。だがエリオが踏みつけた部分はすでに崩れている。
触れただけで砕けるほど、そこに長い年月が積み重なっているのが分かる。
「え……俺、今この骸の上に落ちたのか!?」
エリオは青ざめて言った。
「そりゃ硬いもの踏んだ感じがしたわけだ……」
「これは……誰の骨だ?」
ソーンが問う。
「心配はいらないわよ」
サラは落ち着いた声で言った
「この地下密道でこういう骸を見るのは普通よ。三百年以上前、魔獣との戦争のために作られた道だから。戦士がここで死んで、そのまま見つからなかっただけ」
「へぇ……古代帝国の戦士か」
エリオは妙に安心したように呟いた。
「私も昔、似たような骨を見つけたことがあるわ」
サラは地面の隅を火把で照らした。
「もしお前らが俺を見つけなかったら、俺もこうなってたわけか」
エリオがぼそっと言う。
コーディアは思わず吹き出した。
「そんなことあるわけないじゃないですか。絶対探しますよ」
そのときサラが土の中で光る何かを見つけた。
彼女は地穴に飛び降り、土を払うとそれを拾い上げる。
それは一本の剣だった。
刃は錆びているが、柄に嵌められた宝石だけは火の光を受けて輝いている。
「見て。たぶんこの骸の持ち主の剣よ」
「この剣……作りが尋常じゃないな」
コーディアが思わず身を乗り出し、柄の埃を払った。
全員が改めて剣を見る。
錆びついた刃には緻密に対称を成す細かな浮き彫りが刻まれており、柄にはさらに精巧な幾何学模様と黄金の装飾、そして花の意匠が施され、そのすべての花芯に赤い宝石が嵌め込まれていた。
一目で分かる。これはただの兵士の剣ではない。
その横には鞘が落ちていた。硬木に革が巻かれているが、すでにひび割れ、金属装飾も錆びている。
それでも紋章のような模様だけはかすかに残っていた。
「面白いわね」
サラは剣を鞘に収めながら言った
「ここでこんな立派な剣を拾うのは初めて。持ち主が誰なのか気になるわ」
「このレベルの装飾なら、貴族か王族クラスだな」
コーディアが言う。
「紋様には家系を示す暗号が入ってることもありますし」
「確かに気になるな」
「持ち帰って調べてみるわ」
サラは剣を背負うようにしまい込んだ。
「東オルシア帝国は旧オルシア帝国の正統を継ぐ国だし、古文書も工匠も残ってる。調べる手段はあるはずよ」
「よし、じゃあエリオが見つかったし、先に進むぞ」
グレンが言う。
「エリオ、お前先頭な。次ははぐれるなよ」
ソーンが鼻で笑うように言った。
エリオは拳を握りしめた。殴りたい衝動を必死で抑える。
その後、一行はサラの後を無言で進んだ。
上下に揺れ、左右に折れ曲がる複雑な道。方向感覚はすぐに崩れ、コーディアでさえ道順を覚えられなくなる。
それでもサラは一切迷わない。
毎回の分岐で、当然のように進む道を選んでいく。
そして彼らが第二要塞に辿り着いたのは深夜だった。
サラは石壁の機構を押し込み、上に小さな隙間を開ける。そこから一人ずつ地上へ這い出ることができた。
最後にソーンが出た後、四人は振り返る。
「正午にはここに戻る。ザヒールまで送ってあげるわ」
サラは淡々と言った。
「……戻れたら、の話だけど」
まるで散歩の予定でも告げるような口調だった。
四人は無言で息を吸う。
「魔獣とは正面から戦うな。偵察優先だ」
グレンが小声で釘を刺す。
次に振り返ったとき、サラの姿はもうなかった。
エリオたちは中央の石柱へ向かい、前回魔獣とイートン博士が会談した高所へ潜り込む。
今回はより隠密性の高い天井の陰を選ぶ。
エリオとコーディアは片側、グレンとソーンは反対側だ。
そして夜明けを待った。
最初の陽光が会議場に差し込むと、石柱の下から騒めきが広がる。魔獣が次々と入ってくる。
やがてモルゴロスが悠然と現れ、その後ろにイスマリス、ナウセク、他の魔獣が続く。
さらに長老サーカノンが入場し、その横に黒いマントの三人が並んでいた。
長老が現れると、魔獣たちは一斉に立ち上がる。ただモルゴロスだけは座ったまま動かない。
「ようこそ、イートン博士」
長老は対面を指し示した。
「また第二要塞に来られて嬉しいです」
イートン博士は席に座る。
左右の二人もマントを脱いだ。
そこには紫の瞳を持つプルプラ族の男女がいた。
同じプルプラ族でも、人類のために戦う者もいれば、魔獣と手を組む者もいる。
コーディアは複雑な表情を浮かべる。
そして横を見ると、エリオの顔は凍りついたように固まっていた。
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