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58. はぐれた者

予想に反して、サラは彼らの目的について深く追及しなかった。


「そこまで決めてるなら、第二要塞まで案内できるわよ」

そう言って、彼女は火の灯った松明を軽く持ち上げる

「もちろん、この地下通路を使ってだけどね。ついてきて」


サラは辺りを照らしながら少し考え込み、いくつも分かれている通路の中から、ひときわ狭い一本を選んだ。慌てて他の四人も後を追う。


こんな広大な地下通路で一人だけ取り残されたら、生きて戻れる気がしなかった。


「いたっ……! ちょっと、ソーン! 踏んだわよ!」

コーディアが小声で文句を言う。


彼らは松明を持っていない。しかもサラは先頭をかなりの速さで進んでいく。

後ろを歩く彼らは、ほとんど暗闇の中を手探りで進んでいるような状態だった。


「見えねえんだから仕方ないだろ!」

そう言ったソーンが、次の瞬間ごつごつした地面に足を取られた

「あっ――!」


派手に前へ転ぶ。そのままコーディアに激突した。


「きゃっ!」


コーディアはバランスを崩し、今度は前を歩いていたグレンへぶつかる。三人まとめて転がるように倒れ込んだ。


後ろの騒ぎを聞いたサラが振り返る。状況を見た途端、吹き出した。


「あははっ。みんな、暗闇を歩くの慣れてないんだね~」

からかうように言う。


「誰が慣れるんだよ、こんなの!」

ソーンは起き上がろうとして、今度は低い天井に頭をぶつけた。


「っっ!!」

額を押さえながら悪態をつく

「この通路、照明くらい付けられなかったのかよ!」


「ごめんね~」

サラは舌をぺろりと出した。


「こんな広い地下通路全部に照明を付けるなんて、たぶんナディラくらいしかできないと思うけど?」


「確かに歩きにくいけどな」

グレンが汗を拭いながら言う。


「百日殲滅作戦の時に掘られた通路なんだろ? たぶん急ごしらえだったんじゃねえか」


「そうね」

サラが頷く。


「その後、帝国が四つの国に分裂してからは完全な空白地帯になっちゃったし。

当時の地図も失われてるから、誰も整備しないの。

だから歩きにくいだけじゃなくて、たまーに変なものにも遭遇するわよ?」


「へ、変なもの……?」

コーディアの声が少し震えた。


「もしかしてぇ~……」

ソーンが急に声色を変える。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

化け物の真似をしながら奇声を上げた。


「きゃああああっ!!」

コーディアが本気で悲鳴を上げる。


「これのことか?」

突然グレンがソーンの背後へ手を伸ばした。何かをつまみ上げて引っ込める。


「うわっ!?」

「きゃっ!?」


グレンの指先には、小さな蛇がぶら下がっていた。コーディアとソーンが同時に飛び退く。


「ああ、それね」

サラは笑った

「この辺、そういう小動物が結構いるの。安心して。人間に害はないから」


そんな調子でしばらく騒ぎながら歩いていたが、

ふとグレンが周囲を見回した。


「……あれ? エリオは?」


全員が立ち止まる。

そういえば。いつからいなくなった?


慌てて後ろを振り返る。そこには真っ暗な通路が続いているだけだった。


「すぐ来るんじゃない?」

コーディアが言う。


彼らは数分ほど、その場で待ってみた。

だが、数分が経過してもエリオは現れない。


その時だった。遠くから悲鳴が響いた。


「うわあああああああああああっ!!」



◆ ◆ ◆


  

サラが第二要塞へ案内すると言った時、他の皆はすぐに彼女の後を追った。


エリオも最後尾のソーンについて行こうとした、その時。

ぐいっ。背中が引っ張られた。


「ん?」

振り返る。見ると、マントが岩の隙間に挟まっていた。


エリオはしゃがみ込み、布を傷つけないよう慎重に引っ張る。

だが、落ちていた石がちょうど上に乗っているらしく、なかなか抜けない。


「ちょっと!俺の服が……!」

エリオは振り返って仲間たちを呼び止めようとしたが、その声が届くことはなかった。


前を見た時には、すでに皆かなり先へ進んでいた。誰も気付いていない。


エリオはため息をつく。

仕方なく暗闇の中で石を探り、一つずつどかしていった。


真っ暗な中での作業は思った以上に大変だった。

ようやくマントを引き抜いた頃には、皆の気配はすっかり遠ざかっていた。


「やばっ……!」

エリオは慌てて走り出した。


最初のうちは通路がほぼ一直線だった。だから遅れながらも、サラの松明の明かりだけは遠くに見えていた。


だが地面はひどく歩きにくい。走ろうにも思うように速度が出ない。

そのうち先の光が角を曲がった。そして消えた。


「おーい!!」


「グレン!! コーディア!! 聞こえてるかー!!」


必死に叫ぶ。だが返事はない。

エリオは焦りながら前へ進んだ。


次の瞬間。

ゴンッ!!思いきり壁に激突した。


「いっっったぁ!?」

涙目になりながら両手で壁を探る。


せめて壁沿いに進もう。そう考えて歩いていた時だった。突然、足元が消えた。


「え?」


どさっ!! エリオの身体が大穴へ落ちる。

何かの上に背中から叩きつけられた。鋭い痛みが走る。


「うわああああああっ!!」


暗闇の中、エリオは何とか身体を起こした。手探りで周囲を触る。

穴の中には何かが散らばっている。小物のようなもの。生活用品のようなもの。


サラが言っていた。

『地下通路に住んでいる男』


もしかして。これがその人の持ち物なのだろうか。

地下通路で暮らすって、どんな生活なんだ……?


そこまで考えて。エリオは急に現実へ引き戻された。

いや、そんな場合じゃない。


怖い。

ものすごく怖い。


グレンたちは何をやってるんだ?

自分がいなくなったことに気付いてないのか?


「……いや、もしかして俺って、そこまで影が薄いのか……?」


周囲の闇が、生き物みたいに迫ってくる。

息苦しい。嫌な想像ばかりが浮かんでくる。


もし誰も来なかったら。もしこのまま見つからなかったら。

俺、このまま訳も分からず死ぬのか……?


嫌だ。


まだ若いんだぞ。俺の人生、これからじゃないか……!

ご覧いただきありがとうございます。

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● 毎週 【日・月・火・木・金】18:10 更新


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