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57. 神秘の魔の手

「グレン?」

エリオは指を向けた。

「……あれ、見えるか?」


グレンも眉をひそめる。

「なんだ、あれは」


「ちょっと見てくる」

エリオはそう言うと、身を低くして岩へ向かった。


岩の根元には、小さな穴があった。白煙はその奥から漏れ出している。


地下。魔獣の巣かもしれない。

そう考えた瞬間、背筋が冷える。


エリオは慎重に地面へ伏せ、狭い隙間へ顔を差し込んだ。


暗い。何も見えない。だが煙だけは、奥から絶えず流れ出している。


耳を澄ます――静かすぎる。

音がないことが、逆に不気味だった。


エリオはゆっくりと身体を引こうとした。

その瞬間。右手首に、何かが強く絡みついた。


爪だ。暗闇の穴から伸びた、鋭い爪。


「っ……!」


エリオは必死に腕を引いた。だが地面に伏せた姿勢では力が入らない。

地下からの力は、逆に強く引きずり込もうとしてくる。


左手が地面を探る。剣はすぐそばにあるはずだ。

だが――さっき岩の隙間を覗いた時、邪魔になるからと右側へ置いてしまっていた。


焦りが一気に広がる。

このまま引きずられたら。右腕ごと食いちぎられるかもしれない。


心臓が暴れるように跳ねた。汗が一気に噴き出す。


「……おい」


声がした。地下の奥からだ。

エリオは一瞬、幻聴かと思った。


だが、違う。その声は、確かに“意思”を持っていた。


「……聞いて」

それは女の声だった。魔獣のようでもあり、人間のようでもある、不思議な響き

「そこにいるなら、こっちへ来て」


エリオはその瞬間を逃さず、腕を全力で引いた。

爪から右手が抜ける。地面を転がるように後退した。

剣を拾い、即座に距離を取る。


「……誰だ!」

エリオは息を荒げながら叫んだ。


「私は前に第二要塞であなたたちを助けた者」


「は?」

エリオの思考が一瞬止まる。


「第二要塞……地下通路。覚えてる? その時、仲間が重傷だったはず」


エリオの記憶が一気に蘇る。

「……あの時の、女か?」


「そう。だから今は無駄話してる時間ない」

声は冷静で、少し苛立ちを含んでいた

「周囲に魔獣が多い。すぐ地下に入れ」


エリオは一瞬迷った。だが――その声には、妙な確信があった。


彼はすぐに洞窟へ戻る。


「グレン!みんな!」


状況を短く伝える。三人は戸惑いながらも、エリオについてきた。

岩の下へ戻ると、白煙はすでに消されていた。


「早く、ここから入って!」

地下から声が響く。


四人は顔を見合わせる。そして――エリオが先に身を低くした。狭い穴へと潜り込む。真っ暗な空間。

続いてグレン、コーディア、ソーンが入る。全員が入り切った瞬間。


「閉じるわよ」


どこかの機構が動く音。岩の上の入り口が、完全に塞がれた。


そして火が灯る。


揺れる光の中に、あの少女が立っていた。

前回と同じ。魔獣が“見えない”と言っていた少女。


エリオたちは言葉を失う。


やがてソーンが口を開いた。

「で、お前……誰だ?」


少女は瞬きをして、少し考えたあと答えた。

「私は東オルシア帝国のサラ・ロック」


空気が一瞬止まる。


グレンが眉をひそめる。

「お前、魔獣が見えないんだろ?よくそんな場所に一人でいられるな」


「大丈夫。この地下通路は安全そのものだし、魔獣は入ってこられないわ。

それに、魔獣どもはこんな地下通路が存在することすら、逆立ちしたって知り得ないのよ」

サラは勝ち誇ったように不敵な笑みを浮かべた。


コーディアが微笑む。

「前に助けてくれたこと、ありがとう。私はコーディア・キャスター。こっちは――」


彼女は仲間を順に紹介する。エリオ、グレン、ソーン――。

名指しされた面々は、それぞれサラに向かって微笑みながら軽く会釈を返した。


それから、グレンが周囲の暗がりを見渡しながら尋ねた。

「この地下道、“百日殲滅作戦”の遺構ってやつだろ?なんでそんな場所に詳しいんだ?」


サラは少しだけ目を伏せた。

「ずっと小さい頃、東国の境界から間違って抜け道に迷い込んじゃったことがあってね。そこで、あの抜け道の中にいる男の人と出会ったの。

それから時々、こっそり忍び込んではその人と一緒に遊んでたんだ。そうしているうちに、気づいたらここへ詳しくなってただけだよ」


あまりにも軽く言う。だが四人の方が、むしろ固まった。


「ここに……人が住んでるのか?」

エリオが思わず聞く。


サラは首を傾げる。

「住んでるというか……一人だけ、かな」


その言葉のあと、サラは視線を上げた。

「それより、あなたたち。なんで幻域に来たの?どこへ行くつもり?」


四人は一瞬黙る。互いに目を合わせる。話すべきか。


そして――決めた。


エリオたちは、すべてを語り始めた。

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● 毎週 【日・月・火・木・金】18:10 更新


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