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5. 狩魔隊、結成!

「黄の匣の形は、記憶を頼りに描いてみました」

エリオは病院の病室で、一枚の紙を指差しながら目の前の四人へ説明していた。


二人は自分より数歳年上に見える少年。

一人は同年代くらいの少女。

そして最後の一人は、どう見ても子供にしか見えない少年だった。


彼らは皆、エリオと同じ雪のように白い肌と漆黒の髪を持っている。


そして、そのプルプラ族特有の紫色の瞳こそが、彼らが今回、匣の奪還任務に指名された「狩魔師」であることを何よりも雄弁に物語っていた。


病院で療養していた数日の間に、エリオは周囲の話から少しずつ事件の全貌を知った。


ザヒール軍はすでに大規模な調査を開始している。

さらに、幻域へ調査隊を送り込み、魔獣に奪われた黄の匣の奪還を目指すという。


だがエリオの頭にあったのは、別のことだった。


自分には魔獣が見えない。


だから襲撃された時も、隠れていることしかできなかった。

両親が魔獣に囲まれていた時も。何一つ力になれなかった。


大切な黄の匣すら守れなかった。


自分自身への失望と怒りが、胸の奥に燻り続けていた。


「心配しないで、エリオ」

ポニーテールの少女が微笑んだ。


先ほど自己紹介を受けたばかりだ。第五情報調査隊隊長、ミレイナ・レイヴン。

「ザヒールとナディラから、実力も信頼もある狩魔師を四人選んで派遣してるの。きっと黄の匣は取り戻してみせるわ」


エリオは四人の狩魔師を見回した。


特に気になったのはナディラ出身の少年だった。

どう見ても十四、十五歳くらいにしか見えない。

本当に任せて大丈夫なのか……?


「情報調査局の分析では、今回の襲撃を主導したのは魔獣側の有力な長の一体だと考えられています」


ミレイナは机の上に紙を広げた。

「名前はモルゴロス。

魔獣たちはすでに幻域へ戻った可能性が高いので、幻域の地図も用意しました。

この赤い印が、魔獣社会の三大要塞です」


全員が地図を覗き込む。

とはいえ、それは地図というより位置関係を示した概略図に近かった。


幻域と四か国のおおよその位置。領土の範囲。周辺の地形。

幻域中央には三つの赤い印。


あとは山や川、谷、集落が少し描かれている程度で、それ以外はほとんど空白だった。


「ごめんなさいね」

ミレイナが苦笑する

「私たち一般人は幻域に入れないから、地図は実際に入ったことのある狩魔師たちの記憶頼りなの。

情報もかなり欠けてるわ。役に立つかどうか分からないけど……」


「十分ですよ」

ザヒールの青い外套を羽織った狩魔師が答えた。


短く刈り込んだ髪。大柄でがっしりした体格。

落ち着いた雰囲気の男だった。


「道中で新しい発見があれば、地図へ書き加えていきます」


「ありがとう」

ミレイナは少し安心したように笑った

「何か必要なものがあったら遠慮なく言ってね。

それから、本当に気をつけて。あなたたちが向かうのは魔獣の本拠地なんだから」


「別に問題ないさ!」

そう言ったのは、最年少のナディラ出身の狩魔師だった。


赤い外套を翻しながら胸を張る。

ナディラ貴族特有の訛りが強い。髪は後ろへ綺麗に撫でつけられていた。


背丈は一番低い。だが、自信だけは誰よりも大きそうだった。

「魔獣なんて俺の相手じゃないからな」


「幻域には凶暴で攻撃的な魔獣も多いって聞いています」

長い黒髪の少女が口を開く。


髪は腰まで届いていた。左側だけ数束を三つ編みにし、プルプラ族伝統の紫と白の編み飾りが巻かれている。


その髪はザヒールの青い外套の上へ静かに流れていた。

「私たち四人でも油断は禁物だと思います」


最年少のナディラの狩魔師は変顔を作った。


そして誰にも聞こえないような声で呟く。

「面倒くさいなぁ。俺一人で行った方が早いのに」


「これが回収対象の黄の匣か」

平頭の狩魔師がエリオの描いた絵を手に取った。


残りの三人も覗き込む。そして見た瞬間、全員の表情が固まった。


「絵、下手すぎないか……?」

最年少の狩魔師が真っ先に言った。


「えっと……」

長髪の少女が慌ててフォローに入る。

「でも、黄色い……八面体の箱だということは分かりますよ?」


「う、うん……」


「そうだな……」


「とりあえずモルゴロスって魔獣を見つけるところから始めるべきか」


エリオは四人の会話を黙って聞いていた。


だが、ついに我慢できなくなる。

「出発はいつ頃の予定なんですか? 俺、まだ任務の詳細をよく聞いてなくて」


その場の全員が驚いたようにエリオを見た。だが誰も答えない。

数秒間、気まずい沈黙が流れる。


ようやくミレイナが口を開いた。

「エリオ……今回の任務は、あなたは参加しなくても大丈夫よ。

だって、ついこの前まで魔獣に襲われていたんだから……」


「俺、別に重傷じゃないですよ」

エリオは腕を軽く振った

「今だって普通に動けます」


「それはそうなんだけど……」


「傷の問題じゃないだろ」


最年少の狩魔師が高圧的な口調で言った。

「俺たちが行くのは幻域だぞ。魔獣の縄張りだ。

お前、魔獣が見えないんだろ?

そんな状態でどうやって一緒に戦うんだよ」


エリオは突然、冷水を浴びせられたような気分になった。

思わず肩が縮こまる。


平頭の狩魔師が一歩近づいた。

「エリオ」


穏やかな声だった

「君の格闘技術は皆認めている。でも今回の相手は魔獣なんだ。やはり君を連れて行くのは難しいと思う」


「そうそう」

最年少の狩魔師がまた口を挟む

「お前はここで大人しく待ってろよ。無理について来られても、今度は俺たちがお前を守らなきゃならなくなる」


他の三人が慌てて彼へ視線を送った。

もう余計なことを言うな、とでも言いたげだった。


ずいぶん生意気なガキだな。エリオは少し腹が立った。だが反論できない。

怒りよりも、胸を刺されるような痛みの方が大きかった。


彼は俯いた。誰とも目を合わせられなかった。

特に、あの狩魔師たちの紫色の瞳を見るのが怖かった。


まるでそれが、自分は欠陥のあるプルプラ族なのだと突きつけてくるようだった。


両親が危険な目に遭った時も何もできなかった。

そして今もまた、任務の足手まといにしかなれない。

そんな現実を、嫌というほど思い知らされていた。


他の者たちが病室を出て行った後、エリオは急に落ち着かなくなった。

自分には、本当に何もできないのだろうか。


その時、病室の扉が開いた。エリオが顔を上げると、入り口にはアージ大将が立っていた。


「エリオ、お前に伝えておかなければならないことがある」

アージ大将の表情は重かった

「国家情報調査局の最新報告によると、お前の両親が所属していた研究班の残り三名も襲撃を受けた」


「え……」

エリオは呆然とアージ大将を見つめた。


「正確に言えば、そのうち二名は魔獣によって殺害された。

デイモン・ウォーカー教授は自宅で魔獣に襲われ、その後、家ごと放火された。

軍が現場へ到着した時には、遺体は炭化して誰だか分からないほど判別できなかった。

だが身につけていた鋼製の耳飾りと指輪から、本人であることが確認された」


アージ大将はそこで一度言葉を切った。


「フォークナー博士については、ナディラから情報が入っている。

今朝、人通りのない路地で遺体となって発見されたそうだ」

そして深いため息を吐く

「最後の一人、ジュリアナ・ヴォーン教授も自宅から行方不明になっている。

現在、軍が捜索中だが……おそらく厳しいだろう」


エリオは言葉を失ったままだった。


父さんと母さんは、一体どんな研究をしていたんだ……?

研究班全員が狙われるほど危険な研究なんて。


「お前の両親から何か聞いていないか?」

アージ大将が尋ねる

「研究についてでもいい。何でもいいんだ」


エリオは首を横に振った。瞳には隠しきれない無力感が滲んでいる。


「そうか……」

アージ大将は小さく頷いた

「まあいい。情報調査局でも調査を進めている。

それに、お前も知っている通り、狩魔師たちはすでに幻域へ向かった。黄の匣を探すためにな」


「アージ大将……」

エリオは唇を噛んだ

「俺に……何かできることはありませんか?」


やっとの思いで絞り出した言葉だった。


アージ大将は頭を掻いた。


そして慎重に言葉を選ぶように口を開く。

「今回の件は魔獣が関わっている。だが、お前には魔獣が見えないからな……

無理をする必要はない。もし何か思い出したことや、役に立ちそうな情報があれば教えてくれ」


そう言いながらアージ大将は扉へ向かった。


だが途中で何かを思い出したように振り返る。

「ああ、それから。魔獣がお前を狙う可能性も否定できない。

念のため、病室の外には狩魔師を配置してある。安心して休め」


エリオは去っていくアージ大将の背中を見送った。

その瞬間、妙な違和感が胸をよぎる。思わず身震いした。


両親は黄の匣の秘密を話そうとしていた。その直後に殺された。


そして研究班の他のメンバーまでが、次々と魔獣の犠牲になった。そんな偶然があるだろうか。


エリオは頭を抱えた。考えれば考えるほど分からなくなる。


だが一つだけはっきりしていた。

ここで何もせず待っているだけでは駄目だ。


絶対に。

エリオは目を閉じた。


ふと、一人の人物の噂を思い出す。

もしかしたら、あの人なら何か方法を知っているかもしれない。


エリオはそっとベッドから降りた。足音を殺しながら扉へ近づく。


わずかに扉を開いて外を覗いた。

案の定、狩魔師が見張りについている。


エリオは静かに扉を閉めた。そして視線を窓へ向ける。開け放たれたままの窓。


その瞬間、ある考えが頭の中で形になった。


エリオは靴を履き、窓枠へよじ登ると――躊躇なく身を躍らせた


次の瞬間、エリオの姿は病室の窓から消えていた。

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