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49. 葛藤の果ての選択

それからの日々。ジュリアナはカイソンによって、ナディラ国家機密センター内の小部屋へ密かに匿われた。

そこで彼女は、多くの事実を知ることになる。


イアン。デイモン。そしてヴレス夫妻。

最も親しかった研究仲間たちは、すでに全員魔獣に殺されていた。

さらに謎の黄の匣が奪われたことも。


事件はあまりにも不可解だった。ナディラ軍もザヒール軍も、いまだ魔獣たちの動機を突き止められていない。


そのためカイソンは提案した。ジュリアナは行方不明。おそらく魔獣に食われて死亡。そう公表するべきだと。


実際に彼女が生きていることを知っていたのは、カイソンとナディラ皇三世だけだった。


本来なら。軍が事件を解決し、黄の匣を取り戻すまで。そのまま隠れているはずだった。

だが。ジュリアナは待てなかった。


「どうして魔獣が私たちの研究機密を知っていたの?」

ある日、食事を届けに来たカイソンへ彼女は問いかけた

「どうして幻葉水の配方表を、研究員たちが交代で保管していることまで知っていたの?」


「ん?」

カイソンが顔を上げる

「幻葉水の配方表はザヒールの国家機密研究開発局に保管されていたんじゃないのか?」


「違うわ。私たちは配方表が極めて重要な機密資料だと分かっていた。

だから研究室には置かなかったの。そんな場所じゃ、真っ先に疑われるもの。

研究班のメンバーが順番に預かる方が安全だと考えたのよ。誰かが盗もうとしても、今どこにあるか分からないから」


カイソンは腕を組んだ。


「そのことを知っていたのは五人だけか?」


「本来ならね。でも私は、誰かが会話を聞いていたんだと思う。

そして魔獣をそそのかして配方表を奪わせた。だから研究班の五人全員が同じ日に襲われたのよ。魔獣たちは、誰が持っているか分からなかったんだから」


「……つまり」

カイソンが目を細める

「我がナディラ国家機密センターの内部に、魔獣と通じる共犯者がいると?」


「いるわ! そうじゃなきゃ説明がつかないもの! お願いよ、カイソン。もうここへ閉じ込めないで。私にも捜査を手伝わせて。絶対に役に立つから」


「駄目だ。危険すぎる」


「せめて現場だけでも見せて!」


ジュリアナは必死に訴えた。


「私は唯一生き残った研究班のメンバーなのよ! 私にしか気づけない手掛かりだってあるはず! 現場を見れば黒幕が分かるかもしれない!」


だが。カイソンは最後まで首を縦に振らなかった。


だからこそ。ナディラ皇三世の誕生祝典の日。ジュリアナは隠れ家を抜け出した。


誰もが祝典へ気を取られている。

その隙にイアンの家を調べようと思ったのだ。

ところが。軍に不審人物と間違われて捕まってしまった。


牢の中で、ジュリアナは脱出方法を考えていた。

カイソンは彼女がここにいることを知らない。かといって本名を名乗るわけにもいかなかった。


その時。牢の奥で囚人同士の喧嘩が始まった。他の囚人たちは面白がって囃し立てる。牢内は一気に騒然となった。


だがその騒ぎのおかげで、外の兵士が駆け込んできた。


「全員静かにしろ!このクズどもが!」

兵士が怒鳴る。


ジュリアナはその好機を逃さなかった。鉄格子の隙間から強引に手を突き出し、その兵士の腕を強く掴んだ。

「ねえ!話を聞いて!」


兵士は冷たい目で見下ろした。

「手を離せ。さもないと、その腕を切り落とすぞ」


「分かった、分かった」

ジュリアナは慌てて手を放した

「でも聞いて。大変なことが起きてるの。カイソン・ストーン副将へ伝えてほしいのよ」


「何を馬鹿なことを」

兵士は背を向けた。


「待って!」

ジュリアナは叫ぶ。


「もし報告しなかったせいで問題になったら、あなたも巻き込まれるわよ! でも伝えてくれたら、その手柄は全部あなたのもの!」


兵士の足が止まった。効果はあったらしい。


「……分かった。何を伝えろというんだ?」


ジュリアナは深呼吸した。そして静かに言った。

「国家機密研究開発局の機密が漏洩している、と」


兵士は眉をひそめた。何も答えない。そのまま立ち去る。


ジュリアナは祈るしかなかった。


時間が過ぎる。一秒が何時間にも感じられた。

どれほど経っただろう。再び足音が聞こえる。今度は違った。


兵士の後ろに、カイソンがいた。

顔は怒りで引きつっている。今にも爆発しそうだった。


「副将殿」

兵士が敬礼する。

「この囚人です」


カイソンは何も言わない。ただ眉間に皺を寄せていた。

ジュリアナは必死に目配せする。


「副将殿、この囚人が意味不明なことを――」


「その女をつまみ出せ」

カイソンは冷たく言い放った。


安全な場所へ移動した直後だった。カイソンは振り返る。

「お前、自分が何をしたか分かっているのか!? 勝手に抜け出して――」


「カイソン!」

ジュリアナが遮った

「私は現場を見たかっただけなの! 時間が経つほど証拠は消えるわ! だから急がなきゃいけなかったのよ!」


彼女の声は震えていた。

「魔獣が襲った家には、きっと何か残っている。私はそう思うの。それを見つけなきゃ。じゃないと、みんなが死んだ意味がなくなるじゃない……」


今にも泣き出しそうな顔だった。


カイソンは長く息を吐く。しばらく考えた後、ようやく口を開いた。

「……分かった。一人、頼れそうな人間がいる」



◆ ◆ ◆



「――それが、我々がここへ来た理由だ」

カーター大将が説明を終えた。


「ジュリアナはナディラでイアン・フォークナー博士の家を調べた。次は他の被害者たちの家も調査したいと考えている。

そこでカイソン・ストーン副将が私へ極秘に連絡を寄越した。ジュリアナをザヒールへ連れて来るためにな」


部屋の空気はまだ混乱していた。

死んだはずのジュリアナ・ヴォーンが、今ここにいる。

その事実を誰も整理しきれていない。


数秒の沈黙の後。エリオが口を開いた。

「それで……僕に何ができるんですか?」


ジュリアナが真っ直ぐ彼を見る。

「ソロモンとレイラの家を調べたいの。それから、あなたが知っていることも聞かせてほしい」


彼女の瞳には強い決意が宿っていた。

「エリオ。私は見つけたいの。あなたの両親を殺させた人物を。そして、私の友人たちを殺した黒幕を」

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● 毎週 【日・月・火・木・金】18:10 更新


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