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40. 任務より帰還せし狩魔師たち

エリオたちは列車でナディラ国境へ向かった。

そこで乗り換えを行い、ザヒール軍司令部行きの列車へ乗車する。そして午後には中央軍司令部へ帰還した。


軍司令部へ足を踏み入れた途端、一人の兵士が近づいてきた。

「エリオ・ヴレス殿、グレン・フォグラー殿、それからコーディア・キャスター殿ですね」


兵士は丁寧に一礼した。

「アージ大将がお待ちです」


兵士に案内され、エリオたちはアージ大将の執務室へ向かう。部屋の前まで来ると、兵士は一礼して退出した。


「三人とも、ご苦労だった」

アージ大将は山積みの書類の向こうから顔を出し、軽くうなずいた。


「ナディラ軍からある程度の報告は受けている。今回の任務では重傷者が出たそうだな?」


「はい」

グレンが答えた

「ナディラの狩魔師、ヴィクター・ホールです。現在はナディラ王立病院で治療を受けており、危険な状態は脱しました」


「そうか。幻域への侵入には当然危険が伴う。

だが今回は機密研究成果が収められた黄の匣が関わっている。

そのため、大規模な狩魔師部隊を投入することはできなかった」


「問題ありません。今回の調査で、魔獣たちの要塞についてある程度の情報を得ることができました。

黄の匣の所在も判明しています。

次の任務までにさらに訓練を重ね、必ず黄の匣を奪還します」


「こちらも必要な訓練や支援は惜しまない」

アージ大将はうなずいた。


そして視線をエリオへ向ける。

「それと聞いたぞ。我々の任務部隊に独眼の狩魔師が加わったそうだな?」


エリオの胸が一瞬だけざわついた。

バルバス博士に頼み込み、独断で視覚改造手術を受けた。


さらに独断で幻域へ入り、任務部隊へ参加した。

軍規違反になっているのではないか。

そんな不安が頭をよぎる。


「アージ大将、申し訳ありません。勝手に任務へ参加してしまいました。ただ俺は――」


「両親の研究成果のために力になりたかった。そうだろう?」

アージ大将は穏やかに言った。


その表情に怒りは見えない。

エリオは胸をなで下ろした。


「黄の匣はヴレス夫妻が遺した重要なものだ」

アージ大将は続ける

「その息子が奪還作戦に参加する。我々としても歓迎すべきことだ」


紫色の瞳がエリオを見据える。


「だが視覚改造手術は簡単なものではない。バルバス博士から話は聞いている。

左目の移植自体は成功した。しかし手術中には極めて大きな危険があったそうだ。

もし今後、右目もプルプラの眼へ置き換えるとなれば……」

アージ大将はそこで言葉を切った。だが誰もが意味を理解していた。


「分かっています、アージ大将」

エリオはうなずく

「独眼の状態に慣れてみせます。そしてもっと強くなります」


「それでいい」

アージ大将は静かに言った。


「それから、もう一つ報告があります」

グレンが口を開いた。


「魔獣たちの第二要塞で、魔獣と交渉しているプルプラ族を発見しました。

魔獣たちは彼を『イートン博士』と呼んでいました」


「イートン博士?」

アージ大将の眉が寄る

「プルプラ族だと?」


「はい。ナディラへ報告した際にも確認しましたが、彼らもその人物を知りませんでした」


アージ大将は腕を組んだまま考え込む。


「ザヒール軍の資料庫にも、その名は存在しない。聞いたこともない人物だ」


部屋の中に沈黙が落ちた。


やがてアージ大将が低く呟く。

「だとすれば……北方のサマン国が送り込んだ狩魔師という可能性もあるな」


そう言うと、アージ大将は深い思索に沈んだ。



◆ ◆ ◆



彼らがアージ大将の執務室を出ると、茶髪の兵士が扉の前で待っていた。


三人の姿を見るなり、大きく手を振る。


「コーディア、帰ってきたんだな!」

彼は笑顔でコーディアに声をかけた。


「テスラン!」

コーディアも嬉しそうに手を振り返り、エリオたちへ紹介する

「こちらはテスラン・デヴィル。私の幼なじみなの」


「やあ、グレン・フォグラー。こうして話すのは初めてだけど、前から君のことは見たことがあるんだよな~。

それからこっちの人が、最近軍司令部でみんなが噂してる独眼の狩魔師だろ?」


テスランの朗らかな口調には、不思議と人を安心させる親しみやすさがあった。


「こんにちは。エリオ・ヴレスです」

エリオも笑顔で応じる。


まさか今では皆が陰で自分を「独眼の狩魔師」と呼んでいるとは。


「俺とコーディアは軍直属の孤児院で育ったんだ。

まさか小さい頃のコーディアが、将来こんな格好いい狩魔師になるなんて思わなかったよ!」

テスランが言う。


「もう、プルプラ族なんだから狩魔師にならないほうがもったいないでしょ」

コーディアも笑った。


「その通り。俺も魔獣さえ見えたら狩魔師になりたかったんだけどな」

テスランは肩をすくめた。


「ところで、幻域では大丈夫だったのか? 何に遭遇して、どんな怪我をしたのかも含めて、今回はお前たちがちゃんと『上』に説明を通さなきゃダメだからな」


「え? 私たち、さっきアージ大将に任務の詳細を報告したばかりだけど」

コーディアが言う。


「いやいや」

テスランは首を振った。

「俺が言ってるのは、別の人に今回の任務についてしっかり報告する必要があるってことさ」


「あ……」

コーディアの笑顔が突然消えた。


少し不安そうにエリオを見る。

「あの、その……私たち、さっきアージ大将のところで報告しすぎちゃったよね?」


エリオは怪訝そうな顔でコーディアを見た。

アージ大将の執務室には、そんなに長居した覚えがない。


むしろ彼は効率重視の人間だった。

必要なことだけを素早く伝えると、すぐに仕事へ戻っていたからだ。


コーディアは今度はグレンを見る。

「私たち、この後ご飯を食べに行く約束だったよね? もう予定の時間をかなり過ぎてるし……あ、それにエリオも外で待ってる人がいるって……」


「いや?」

エリオはきょとんとした

「俺たち、ご飯食べに行く約束なんてしたっけ? グレン」


「えっと……」

グレンは必死に目配せしてくるコーディアを見た

「まあ、夕食を食べに行く予定ではあったな」


「今から? まだ全然早いだろ?」

エリオが壁の時計を見る。


コーディアは盛大に白い目を向けた。


その横でテスランがゆっくり口を開く。

「たとえ今が真夜中だったとしても、君たちには行ってもらうよ。

なにしろ、これは立派な『軍令』だからね」


テスランはお茶目な笑みを浮かべながら、そう言い放った。

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