35. 華やぎたる宮廷の宴
彼らはキャロライン王女に案内され、食堂へ入った。
卓上にはすでに真っ白な卓布が敷かれ、蝋燭が灯されている。
両側には十二人の侍女と使用人が一列に並んでいた。
エリオは食卓に六人分の食器が並んでいることに気づいた。だが、自分たちは五人しかいないはずだ。
グレンもそれに気づいたらしい。
「他にも、どなたか一緒に食事をされるのですか?」
「ええ、アンビーです」
マレンが答えた。
「アンビーは侍女ではありますが、少し特別な立場におります。
幼い頃からキャロライン王女のお世話をしてきた専属侍女であり、王女の親しいご友人でもあります。
ですので、彼女も同じ卓で食事を共にいたします」
マレンは彼らを順に席へ案内した。その後、一礼して食堂を出ていく。
両側に控えていた使用人たちは、整然と料理を運び始めた。
王室の食事は非常に洗練されていた。
だがエリオはヴィクターのことを思い出し、あまり食欲が湧かなかった。
グレンとコーディアを見る。二人も目の前の料理にはほとんど手をつけていなかった。
ソーンは彼らの不安を察したのだろう。小さな声で言った。
「心配するな。ヴィクターは絶対に大丈夫だ」
エリオたちは頷いた。
そうだ。
ヴィクターはナディラの王立病院で治療を受けている。きっと大丈夫だ。
「ああ、腹減ったあ」
ソーンが長く息を吐いた。
「父上が長くお話しにならなくてよかったです。
そのおかげで、皆さまも早く夕食に来られましたから」
キャロラインが笑う。そしてエリオたちを見る
「皆さま、父上にお会いするのは初めてですよね?」
「はい」
コーディアが答える。
「伝説の不老不死の皇帝、ナディラ皇三世のお噂は以前から伺っておりました。
今日初めてお目にかかれて光栄です」
「ちょうど良い時にいらっしゃいました」
キャロラインが言った。
「明日はナディラ国全土で、父上の百九十七歳のお誕生日を祝う大典が開かれます」
「百九十七歳か!すごいな!」
エリオは料理を一口頬張りながら言った
「花を召し上がったからだと聞きました」
コーディアが尋ねる。
「ミンガン樹の花ですよね?」
「そうだよ」
ソーンが答える。
「世界に一本しかない、火のミンガン樹だ。その花はおよそ百五十年の周期で一度しか咲かず、しかもたった一輪しか開かない。
ナディラ皇三世は、百年以上前にちょうどその開花の瞬間に立ち会ったんだ」
「正確には、百四十一年前のことです」
キャロラインが誇らしげに補足した。
「父上は百四十一年前、見事に咲き誇った火のミンガン樹の花を召し上がりました。
その前にあの花を口にしたのは、三百年前の古の大帝コーウィン……つまり、父上は史上二人目に不老不死の力を得た方なのです」
「火のミンガン樹の花は、すぐに枯れてしまうと聞いたことがあります」
グレンが言った
「ちょうど良い時に食べられたというのは、本当に信じられない話ですね」
「それこそ神に選ばれた者ってことだろ」
ソーンは皿の肉を切りながら言った
「ナディラ皇三世は、伝説の君主になる運命だったんだよ」
「興味があるなら、夕食の後でその不思議なミンガン樹を見にお連れしますよ」
キャロラインが微笑んだ。
皆が話に夢中になっていると、食堂の扉が再び開いた。
キャロライン王女と同じくらいの年頃に見える少女が入ってくる。
髪型は他の侍女たちと同じように二本の三つ編みにまとめられ、左右で髷のように結われていた。
だが服装は、他の侍女とは少し違っている。
キャロライン王女ほど華やかではないものの、明らかに上質な絹地が使われていた。
「キャロライン様、ソーン様、遅くなって申し訳ありません」
少女はそう言ってから、エリオたちへ向き直り、一礼した
「三名様が、ザヒールからいらした狩魔師の方々ですね」
「アンビー!」
ソーンが明るく手を振る。
どうやらこの少女が、先ほどマレンの言っていた特別な立場の侍女らしい。
「早く食べましょう」
キャロラインも隣の席を軽く叩いた。
アンビーは優雅な所作で、キャロラインの隣へ腰を下ろした。
ソーン、キャロライン、アンビーの三人は、久しぶりに再会した友人同士のように楽しげに話し始めた。三人の仲が非常に良いことは、見ているだけで分かる。
だがアンビーは、決して侍女としての立場を越えるような振る舞いはしなかった。
同じ卓で食事をしながらも、キャロライン王女の世話を細やかに続けている。
グレンは、その三人だけの小さな世界をぼんやりと見つめていた。
ふと、その顔に寂しげな表情が浮かぶ。
彼はすぐに我に返った。
だが、その一瞬を、目ざといコーディアは見逃さなかった。
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