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33. ヴィクター救命

一行はナディラ国境から皇都へ向かって走った。


先頭ではソーンが小走りで道を案内している。他の者たちも必死に後を追った。

ソーン自身も焦っていたが、ときどき立ち止まっては全員がついてきているか確認した。


コーディアの足の傷は深刻だった。

一歩走るたび、鉄槌で足を叩かれるような痛みが走る。顔は苦痛に歪んでいた。

それでも彼女は何も言わなかった。


皇都へ近づくにつれ、ナディラが「豊穣の国」と呼ばれる理由がよく分かった。


通りには白い石畳が整然と敷き詰められ、その上には幾何学模様に切り出された色鮮やかなタイルが埋め込まれている。


道の両側には四階建て、五階建ての建物が並び、一階部分には様々な店が軒を連ねていた。


往来は人で溢れ、小商人たちの呼び声や値段交渉の声が飛び交う。

露店の脇には金貨が小山のように積まれていた。


広場の中央には白い彫像を備えた噴水がある。その傍では奇抜な衣装を着た芸人たちが珍しい芸を披露し、観客の笑いを誘っていた。


少し先では若い男がアコーディオンを奏でている。


近くのベンチには若い女性たちが腰掛け、長いドレスをまとい、首や手首には宝石を飾り、日傘を差しながら優雅に演奏を楽しんでいた。


だがエリオたちには、その賑わいを楽しむ余裕などなかった。気にかけているのはヴィクターの容体だけだ。


やがて、ナディラの壮麗な王宮が視界に入る。目的地はもうすぐだった。


「あそこだ。王立病院だよ」

ソーンが前方の建物を指差す。


王宮の隣に建つ三階建ての建物だった。堂々とした外観で、入口には厳重な警備が敷かれている。


ソーンに続いて病院の入口へ向かうと、いかつい顔つきの衛兵二人が立ちはだかった。


「ここは王立病院だ。一般人は立ち入り禁止だぞ」

一人の衛兵が言う。


「俺は王家直属の狩魔師だ。お前たちに俺を止める権限はない」

ソーンは胸元の金色の徽章を見せた。


衛兵たちは徽章を見た瞬間、顔色を変えた。

「あ……カウェンディシュ家の方でしたか。大変失礼いたしました」


慌てて敬礼する。だがその後ろにいるエリオたちを見ると、困ったような表情になった。


エリオはそこでようやく気づいた。

幻域での激戦を経た今の自分たちは、ひどい有様だった。

泥と血にまみれ、全身傷だらけ。服も破れ、ぼろぼろだ。


衛兵たちには、どこかから流れてきた浮浪者の集団に見えたのかもしれない。


ソーンはエリオをちらりと見た後、衛兵へ向き直った。

「こいつらはナディラ皇とザヒール皇帝の命令で、共同任務に就いている狩魔師たちだ」


「それより重要なのは、あの狩魔師が背負っている少年が見えるか?」

ソーンは目を細め、冷然と衛兵たちを見上げながら睨みつけると、わざと声を低くして……

「ホール家の人間だ。もし今ここで手間取らせて、その子に何かあったらどうなると思う? ホール家が、お前たちを簡単に許すと思うか?」


衛兵たちは青ざめた。何度も謝罪しながら急いで道を開ける。


「ったく、失礼な奴らだな」

ソーンは白目をむきながらぶつぶつ文句を言った。


「ソーンとヴィクターの家って、ナディラではそんなに有名なのか?」

エリオが首を傾げる。


「当たり前だろ」

ソーンは不機嫌そうに答えた。


「ナディラで三大名家って言ったら、ナディラ家を除けば俺たちカウェンディシュ家と、ヴィクターたちホール家だ。

さっきの二人、よく俺たちを止める度胸があったもんだぜ」


彼らは急いで医師のもとへ向かった。


ホール家の者だと聞いた医師は、すぐに仕事の手を止めて駆け寄ってくる。


エリオはそっとヴィクターを病床へ寝かせた。耳元で囁く。

「死ぬなよ……絶対に……」


「なんてことだ」

医師は傷口を覆っていた上着を慎重にめくった

「かなり重傷だ。どうして今まで運ばれてこなかったんだ?」


皆、顔を見合わせる。

ここまでの出来事は、とても一言二言では説明できなかった。


だが医師は傷口を調べながら目を細めた。


「それでも応急処置は見事だ。この薬草はどこで手に入れた?

ずいぶん古い処方だぞ。まさか今でも残っているとはな。

これがなければ、この子は失血で助からなかっただろう」


「その薬草は……」

グレンは少し言葉を選んだ

「ある人にもらいました」


これ以上聞かないでくれ。そんな願いが込められていた。


幸い、医師は追及しなかった。別の薬材を用意しながら治療を始める。


「安心しなさい」

医師はエリオたちに向かって言った。

「ここは私に任せてくれ。君たちも傷だらけだ。早く治療を受けなさい」


エリオ、グレン、コーディア、ソーンがそれぞれ治療を受けていると、一人の中年男性が病院へ入ってきた。

長いローブをまとい、顎には山羊髭を蓄えている。


「ソーン様」

男は手を振った。


「あっ、マレン叔父さん!」

ソーンも笑顔で手を振り返す。


「ソーン様、ご無事でしたか」

マレンの口調は穏やかで親しみ深い。


だが礼儀正しさも失われていなかった。

「ナディラ皇三世陛下が、皆様の帰還をお聞きになりました。陛下が、皆様をお呼びです」

ご覧いただきありがとうございます。

【更新スケジュールのお知らせ】


● 毎週 【日・月・火・木・金】18:10 更新


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