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31. 古い抜け道

グレンは呆然としたまま、地面へ座り込んだ。


本当は、皆を連れて黄の匣を取り戻したかった。だが、仲間を一人でも失いたくはなかった。


冷静になって考えなければ。

しばらくして、彼はようやく口を開いた。


「みんな、ずっと考えていた。任務を果たしたい気持ちは、俺も同じだ。

だが今は、一度ナディラへ戻るべきだと思う。ヴィクターが……」


そこで言葉が途切れた。


グレンは、自分の声が乱れないよう必死に抑えているようだった。

「ヴィクターには、きちんとした治療が必要だ。それに俺たちも全員、傷を負っている。このまま任務を続けても、勝算はかなり低い」


他の者たちは黙って頷いた。


コーディアは顔を背け、目尻の涙をそっと拭った。


ソーンは膝を抱えて隅にうずくまり、両手をきつく握り締めている。顔は壁の方を向いていて、どんな表情をしているのか見えない。


しばらくして、彼は突然、壁を強く殴った。

そして低い声で、何かを呪うように吐き捨てた。


虫の息となったヴィクターを見つめるエリオの胸に、不吉な妄想が次々と鎌首をもたげてくる。彼は慌てて目を閉じた。


考えるな。

ヴィクターは大丈夫だ。


それからしばらく、誰も口を開かなかった。

張り詰めた空気が、息苦しいほど重くのしかかる。


その時、エリオはふと思い出した。


皆を見回し、沈黙を破るように口を開く。

「さっきの女の子、ここは百日殲滅作戦の時に残された通路だって言ってたよな。

それって、どういう意味なんだ?」


他の四人は困惑した顔でエリオを見る。


「お前、百日殲滅作戦を知らないのか?」

ソーンが怪訝そうに問い詰める。


エリオは肩をすくめる。

「知ってなきゃいけないのか?」


「エリオはもともと狩魔師として育てられたわけじゃないもの。知らなくても無理はないわ」

コーディアがソーンへ言った。


「彼女が言っていた百日殲滅作戦は、今から三百年近く前に行われた、魔獣との大規模な戦いよ。

その頃はまだ四国に分裂していなくて、すべての民がオルシア帝国に統治されていたの。


帝国最後の君主、大帝コーウィンがその百日殲滅作戦を発動した。そのおかげで、魔獣は幻域へ追いやられたのよ」


「ああ、大帝コーウィンって、あの不老不死になった古の大帝だろ?」

エリオが言った。


「そうだ。大帝コーウィンがいなければ、今の魔獣による人間の捕食被害はもっとひどかったはずだ」

グレンが頷く。


「百日殲滅作戦で魔獣の大半が討ち滅ぼされたからな。

俺が聞いた話では、あの作戦よりも前は、魔獣の数は今の四、五倍はあったらしい。当時の人々は毎日、見えない悪魔の悪夢に怯えて暮らしていたんだ」


「惜しいよな」

ソーンが言った。


「オルシア帝国の内乱の後、大帝コーウィンが遠方へ逃げちまったのは。

もし今も四国にいてくれたら、もう一度みんなを率いて魔獣を攻められたかもしれないのに」


「でも、大帝コーウィンはそんなに遠くへ逃げていないって噂もあるわ」

コーディアは辺りを見回した

「もしかすると、この地下密道に身を隠しているのかもしれないって」


「ああ、その話なら俺も聞いたことがある」


「昔から、この地下密道へ入り込んで大帝コーウィンを探そうとした者はいた。

だが、入った者は誰一人として戻ってこなかったらしい」


その瞬間、全員が沈黙した。


大帝コーウィンは、誰もが知る伝説の帝王だった。彼が最初に不老不死を得た存在であること。そして、誰にも及ばぬ剣技を持っていたこと。


それは今でも語り継がれている。戦場の大帝コーウィンは、たった一人で百人の敵を相手にできたという。


だが帝国内部の反乱によって逃亡して以来、彼の行方は誰にも分からなくなった。


もし、その大帝がこの地下密道に潜んでいるとしたら......


「前に密道へ入った連中って、最後は大帝コーウィンに殺されたんじゃないのか?」

ソーンが言った。


「あり得るな。彼にとって、侵入者に見えたのかもしれない」


「でも、仮に今出会ったとしても、大帝コーウィンはもう三百歳を超えてるんだろ? 昔みたいに戦えるのかな」


「分からない。そもそも誰も彼を見つけられていないからな」


「自分たちで怖がりすぎるのはやめましょう。

大帝コーウィンは本当に四国を離れて、遠くへ逃げている可能性だってあるわ」


結局、彼らはできるだけ早く密道を離れることに決めた。


だが、あまりにも疲れていた。それにマントの少女は、しばらくヴィクターを動かすべきではないと言っていた。そこでグレンは、皆に少し休むよう指示した。


地下密道は静かだった。分厚い壁に囲まれていることもあり、少しだけ安心できた。


大帝コーウィンに出会うかもしれないという不安はあった。それでも、幻域の地上で眠る時ほどの緊張はない。


エリオはだんだんとまぶたが重くなり、意識も霞んでいく。


そして、抗う間もなく、そのまま深い眠りへと落ちていった。

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● 毎週 【日・月・火・木・金】18:10 更新


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