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20. 暗闇の中の足掻き

「このムムロって魔獣、マイビーより慎重そうだな」

グレンが小声で言った。


「ああ」

エリオも囁く。


「上の部屋に比べたら、ここから逃げる難易度は百倍くらい高そうだ。五人入っただけで、ほとんど身動きが取れない。余計な動きも、破壊もやりにくいな」


「馬鹿馬鹿しいにもほどがあるだろ」

ソーンが吐き捨てる。


「すぐ殺せばいいものを、わざわざ見張りまで立てるなんてさ。

長老が戻ってきて、俺たちの処刑見物を楽しむためだけに?」


「この要塞の人間への憎しみは、私たちが想像していた以上みたいね」

コーディアが言った。


「おそらく、あの拉致行動を主導したのはマイビーだと思うわ。

あいつらは本当に、私たちを殺したいだけだった。それも、とても祝うべき集団行事のように考えているみたい」


彼女は少しの間、当時のことを回想する。

「上の部屋に縛られていた時、私は魔獣が私から何か情報を聞き出すつもりなのかと思っていたの。

でも、何も聞かれなかった。ただ、人間を生け捕りにしたって、皆で嬉しそうに話していただけだったわ」


「君が上の部屋にいた時、マイビーとムムロは君をどう扱うかで揉めていたのか?」

グレンが尋ねる。


「その時は、マイビーが部下に命じて私を鎖で縛らせ、剣を取り上げさせたの。

それから何か急ぎの用があるみたいで先に出て行ったわ。

その後、ムムロが一度だけ現れた。私の前に立って、何も言わずにしばらく私を見つめていた。それからまた出て行ったの」


「だから今、僕たちはさらに厳重に見張られているんでしょうか」

ヴィクターが言った。


「一度に五人の人間を捕らえたとなれば、要塞の指導者の前で大きな功績として示せるでしょうし」


五人は暗闇の中、小声で話しながら周囲を探った。


どこかに逃げ道がないか探す。だが壁はどこも滑らかだった。指先に隙間は一切触れない。


壁を叩いてみても、返ってくるのは鈍く分厚い音だけ。その向こうに別の空間があるようには思えなかった。


唯一の出口は、内側から開けられない扉。

しかも外には魔獣が見張っている。


エリオは剣の背で扉の縁を軽く叩いてみた。しかし異変はない。本当に外側からしか開けられないらしい。


他の者たちも暗闇の中で、この陰気な小部屋を探り続けた。だが時間が経つほど、焦りだけが増していく。


まず、この低く狭い部屋そのものがひどく圧迫感を与えていた。


五人が立っているだけで、互いの身体がぶつかりそうになる。

床に座れば、さらにぎゅうぎゅうに詰め込まれることになる。


そのうえ窓もなく、室内は真っ暗だ。今どれくらい時間が経ったのかも分からない。

扉の外からは、魔獣たちの気配がかすかに聞こえるだけ。


いつ魔獣が動き出すのか分からない。逃げる計画すら立てづらかった。


「もうさ、魔獣が扉を開けた瞬間に全員で斬り込めばいいんじゃないか?」

ソーンが言った。


「確かに、それが今のところ唯一できそうな方法ではあるけど」

エリオが答える。


「でも俺たちはこの暗い部屋に長くいる。扉が開いた瞬間、外の光に目が慣れるまで少し時間がかかるんじゃないか?」


「じゃあ暗号を決めるか? 扉が開いて何秒後に全員で攻撃、とか」


「勝算はあるのか? 外に何体の魔獣が待ってると思う?」


「じゃあ戦わないで全員そろって絞首台に送られるつもりかよ?」

ソーンの声に苛立ちが混じる。


「落ち着け」

グレンが間に入った

「全員、焦っているのは分かる。だが、今はこうして話せる時間がある。この時間を使って、きちんと脱出策を考えよう」


その時、ずっと黙っていたコーディアが口を開いた。


「私の勘が正しいかは分からないけど……この地下宮殿には、あちこちに隠し通路がある気がするの。

私がここへ引きずり込まれた時、途中で一度意識を失ったけれど……いくつもの隠し通路を通らされたような記憶があるわ」


「そう言われると。俺たちが地上から君を探しに降りてきた時も、確かにそんな感じがあった」


「覚えているか? 上の部屋で檻に閉じ込められた後、妙な仕掛けを動かして、ようやくこの要塞の中心らしき場所へ来たんだ」


「つまり、この部屋にも隠し通路があるかもしれないってこと?」

エリオが尋ねる

「でも、さっきから一通り探したけど、それらしい仕掛けは見つからなかったよ」


「うん……」

ヴィクターが記憶を辿るように言った

「上のあの妙な部屋には、操作できる石杭がいくつもありました。それで隠し通路を開けたんですよね。でもここには、そういうものがまったく見当たりません」


「でも、この要塞には他にも隠し通路を開ける方法があったはず。上の部屋で縛られていた時、魔獣が隠し通路を開けるのを見たの。そうだ……ムムロ!」


コーディアは必死に思い出そうとしていた。

「あの時、ムムロは部屋の入口から入ってきたのに、出る時は隠し通路から出て行った。だから私は、あいつが隠し通路を開けるところを見ていたんだわ」


コーディアは立ち上がった。もう一度、壁を探り始める。


ただし今度はしゃがみ込み、壁と床が接する角を指先でなぞった。


上の部屋で縛られていた時。ムムロという魔獣が何をしたのか。

それを必死に思い出しながら、ゆっくりと探していく。


しばらくして、彼女の指先はある場所で止まった。


壁の隅に、不自然な突起があった。床へ埋め込まれた、小さな四角い石のようなものだ。


「ムムロは、確か……」


コーディアは剣を抜いた。

そして剣の背で、その小さな石を軽く三回叩く。数秒待つ。さらにもう三回。


壁の奥から、低く鈍い轟音が響いた。

部屋の片側の壁が、ゆっくりと後ろへ下がっていく。


そして――

隠し通路が現れた。


エリオが真っ先に前へ進んだ。隠し通路の中も真っ暗だった。


彼は壁に手を添え、慎重に数歩進む。狭く、低く、曲がりくねった通路だった。そして緩やかに上へ続いている。


「この隠し通路、進んで大丈夫なのか?」

ソーンが小声で尋ねた。


「罠とかないだろうな?」

エリオは真っ暗な前方を見つめた。少し迷いがあった。


だが、生き延びたい。皆と一緒に生きて帰りたい。


このまま閉じ込められているくらいなら、逃げる道に賭けた方がいい。

何もしないまま終わるのは、どうしても嫌だった。


「行ってみよう」

エリオは深く息を吸って言った。


どうか愚かな判断ではありませんように。心の中でそう祈る。


五人は一列になり、隠し通路をできるだけ早く進んだ。


暗闇の中、誰も言葉を発しない。聞こえるのは、互いの呼吸音だけだった。

片手を壁に添え、足元に注意しながら歩く。


また罠があるかもしれない。

エリオは剣を握り締めていた。手のひらに汗が滲む。


そうして十分ほど歩いただろうか。曲がり角を越えたところで、前方にかすかな光が見えた。五人は足を速める。


隠し通路の出口は、そのまま要塞の外へ繋がっていた。

長い間暗闇にいたせいで、外へ出た瞬間、陽光がやけに眩しく感じられた。


最後にグレンが出てくる。

ひとまず魔獣が追ってきていないことを確認し、五人はようやく息をついた。


彼らが立っていたのは、小さな崖の足場だった。背後には今出てきたばかりの隠し通路の出口。


周囲には険しい岩壁がそびえている。崖の下には第一要塞。


そして上へ向かって岩壁を登れば、幻域の地上へ戻れるはずだった。


「次は、地上へ戻る方法を考えないといけませんね」

ヴィクターが言った。


「ああ」

グレンはそう言って、背後の岩壁へと向き直った

「どうやら、あの崖を登るしかなさそうだな」


他の四人もそれに続いて背後を仰ぎ見――

然後全員が、その場で凍りついた。


岩壁から小さく突き出した石の上に、ムムロが座っていた。


銀色の髪が風に揺れている。

金色の瞳が、高みから彼らを見下ろしていた。その顔に驚きはない。


まるで、彼らがここへ現れることを最初から知っていたかのようだった。

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● 毎週 【日・月・火・木・金】18:10 更新


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