17. 部屋に仕掛けられたギミック
「さてと、そこの太っちょさん」
ソーンはしゃがみ込み、片手で鼻をつまみながら、もう片方の手を太った魔獣の肩に置いた。
「手荒な真似をして悪いんだけどさ、今から一つ手伝ってもらうぜ。
この部屋から、お前らの本当の地下世界へ行く方法を教えてくれないか?」
太った魔獣は地面の上で必死にもがいていた。腕を激しく捻り、縄を切れる角度を探そうとしている。
だが、ソーンの縄の掛け方は見事だった。少なくとも今すぐ逃げ出すのは無理そうだ。
「今お前が相手にしてるのはな」
グレンが見下ろしながら言った。
「お前みたいな奴を専門に相手してる人間が四人だ。
ついでに教えてやるよ。人間の世界じゃ、俺たちのことを狩魔師って呼ぶ。
だから無駄な抵抗はやめろ。大人しく協力してくれ。
俺たちは、お前たちの本当の地下世界へ行く必要があるんだ」
だが太った魔獣はなおも暴れ続けた。目には剥き出しの殺意が宿り、四人を睨みつけている。
ソーンが口に詰められていた布を引き抜く。すると魔獣は大声で叫び始めた。
「うわ、うるせぇ!」
ソーンは慌てて布を押し戻した。
「もう無理だわ」
ソーンは立ち上がった。
「こいつ、臭すぎる。協力する気になるまで待ってらんねぇよ。
それに、さっきこいつが檻を開けるところは見ただろ?
この石杭も似たような仕組みなんじゃね?」
「これは……照明のスイッチみたいだな」
エリオは近くの石杭へ向かった。
先ほどの魔獣と同じように、石杭を叩いてから反時計回りに回す。すると室内の明かりが消えた。もう一度同じ操作をすると再び灯りが点く。
ただし石杭はかなり頑丈で重く、回すだけでも相当な力が必要で、かなりの時間を取られてしまった。
「じゃあ、一個ずつ試してみるか?」
ソーンが半信半疑で言う。
しかし部屋の中には十本近い石杭がある。一つずつ試していては時間がかかりすぎる。
しかも最悪なことに、遠くのトンネルから再び足音が聞こえ始めていた。
一体ではない。複数の魔獣がこちらへ近づいてきている。
「もっと効率のいい方法はないか……」
グレンは考え込んだ。
その時だった。観察力に優れるヴィクターが口を開く。
「……この石杭を見てくれ。大きさはそれぞれ違うけど、ほとんど全部が円柱形なんだ。
でも一本だけ、直方体の石杭がある。ということは、あれだけ用途が違うんじゃないか?」
「なるほど」
グレンが頷く。
「円柱の石杭が部屋の機能を操作するものだとしたら……」
「直方体の方は――」
「出口を開くための装置かもしれないってことだろ?」
四人はその直方体の石杭へ集まった。他の石杭よりもさらに重そうだ。四人がかりで力を込め、ようやく回し始める。
次の瞬間。部屋全体が激しく揺れた。そして床がゆっくりと沈み始める。
下へ降りていく途中、壁の隙間から新たな床がせり出してきた。それは少しずつ天井を覆い、元いた部屋そのものを閉じていく。
頭上が完全に閉じる直前。彼らはトンネルの入口に現れた何組もの魔獣の足を見た。
まさに間一髪だった。
彼らは魔獣たちの到着寸前に、その場を脱出したのである。
◆ ◆ ◆
足元の床はゆっくりと沈み続け、やがて静かに停止した。そして彼らの目の前に現れたのは――本物の地下王国だった。
四人は息を呑む。
上で見た簡素な空間とはまるで違う。そこには煌々と灯りがともる地下宮殿が広がっていた。
中央の吹き抜けは四階建てほどの高さがある。幅広い階段が壁沿いに螺旋状に伸び、その向こうには無数の部屋が並んでいた。
床は磨き上げられた大理石。天井まで届く巨大な柱がいくつも立ち並び、その表面には精巧な彫刻が刻まれている。
反対側には広い回廊が続き、その先がどこへ繋がっているのかは分からない。
通路の両脇には石造りの長椅子が整然と並べられていた。
「魔獣の世界って、もっと遅れた場所だと思ってた」
エリオが小声で呟く。
「俺もだ……」
グレンも目を見張ったまま答えた。
「なあ、この太っちょはどうする?」
ソーンが縛られたままの魔獣を見下ろした。
周囲を見回すと、すぐ近くの壁に小さな扉がある。開けてみると、中は物置のような空間だった。
四人は力を合わせ、太った魔獣をそこへ放り込む。そして扉をしっかり閉めた。
「それで……」
ヴィクターが周囲を見渡す
「コーディアをどこで探せばいいんだ?」
四人は地下宮殿の隅に身を潜めた。見渡す限り、そこは魔獣の群れで埋め尽くされていた。 思わず全員の背筋に寒気が走った。
人を喰らう獣たちの巣穴。
言葉にするだけで最悪だった。
――コーディアは、本当にまだ生きているのだろうか。
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