15. 地下世界への侵入
入口の奥は真っ暗だった。
グレンとヴィクターがそれぞれ提灯に火を入れる。四人は慎重に、地穴の中へ足を踏み入れた。
足元の地面はひどくでこぼこしていた。何度もつまずきそうになる。
奥へ進むほど洞窟の天井は低くなり、四人は身をかがめて進むしかなかった。
しばらくすると、足元の地面が急に下り始める。
どうやら本格的に地下世界へ入っていくらしい。
八階か九階ほどの高さを下ったように感じた頃、ようやく地面は少しずつ平らになっていった。
四人は左側の岩壁に手を添えながら進む。やがて右側から水の流れる音が聞こえ始めた。
ヴィクターが提灯を向ける。
そこには、ごく浅い地下水が流れていた。
どこから入り込んできたのか分からないが、細い水の流れが洞窟の奥へ続いている。
さらに進むと、地下水は少しずつ幅を広げていった。
やがて前方に小さな池が現れる。
その池を中心に、六本の隧道が放射状に伸びていた。それぞれが別々の方向へ続いている。
「どれにする?」
ソーンが尋ねた
「それとも一人一本ずつ選んで探ってみるか?」
「分かれて行動するのは勧めない」
グレンは即座に言った。
「静かに。何か聞こえないか?」
四人は耳を澄ませた。
しばらくすると、洞窟のどこかから魔獣たちの話し声が聞こえてくる。
ただ、距離はかなり遠いようだった。何を言っているのかまでは、ぼんやりとして聞き取れない。
グレンは右側を指差した。
「声はあちらから聞こえるな」
他の三人もその方向を見る。そこには、入口の近い隧道が二本並んでいた。
エリオは少し考える。
「でも、声が聞こえるからって、そこにコーディアがいるとは限らないよな。
この地下世界が繋がってるなら、どこへ連れて行かれていてもおかしくない。
魔獣だって、あちこちに散っているかもしれない」
必ず何か手掛かりがあるはずだ。
エリオはグレンから提灯を受け取った。それぞれの隧道の入口を照らしながら、何か痕跡がないか探し始める。
一度目は、何も見つからなかった。そこでエリオは、もう少し奥まで入ってみることにした。
各隧道へ三メートルほど進む。
提灯を上下左右へ向けて照らす。それから戻り、次の隧道を調べる。
他の三人も静かに後ろへ続き、目を凝らして手掛かりを探した。
五本目まで調べても、何も見つからなかった。
エリオは失望しながら振り返る。第六の隧道を確認しようとした時だった。
足元を見てつまずかないようにしようとした、その瞬間。視界の端に何かが映った。
周囲の岩とは違う色のもの。
エリオはしゃがみ込み、提灯を近づける。
それは爪ほどの大きさしかない、青い布切れだった。
「これを見てくれ」
エリオは声を潜めた
「コーディアの外套の切れ端じゃないか?」
グレンが近づき、布切れを提灯の明かりにかざした。
間違いない。その青は、グレンが身につけている外套と同じ色だった。ザヒールの軍用外套に使われる青。
その染料はザヒール南東部の山脈で採れる、特殊で希少な鉱物から作られている。
非常に高価なものだ。
そのためザヒール国内でも、王家と軍の制服にしか使われていない。
「行くぞ」
ソーンが先頭に立ち、隧道へ入っていった。
隧道の中は上下にうねり、何度も曲がっていた。すぐに方角が分からなくなる。
それでも道は一本だけだった。前へ進めばいい。
しばらく歩くと、前方が少し開けてきた。そして、かすかな火の明かりが見え始める。
グレンとヴィクターは提灯の火を消した。四人は慎重に近づいていく。
隧道の先には、円形の空間が広がっていた。
壁には松明が灯されている。中央部分の地面だけが意図的に掘り下げられており、深さは膝ほどあった。
空間の中には、高さの違う石杭がいくつも立っている。
四人は壁沿いに一周した。だが、他の出入口は見つからない。
「魔獣がコーディアをここへ連れてきたなら、どこへ消えたんだ?」
ソーンが言った。
彼らは壁を叩いて回った。隠し扉がないか探す。
しかし、しばらく調べても何も見つからなかった。
グレンとエリオは、中央の窪んだ場所へ足を踏み入れた。他に手掛かりがないか調べるためだ。ヴィクターもその後ろについてくる。
その瞬間だった。
ガシャンッ!!
大きな金属音が響いた。
天井から円形に並んだ鉄格子が落ちてくる。
まるで檻のように、三人を中央の窪地へ閉じ込めた。
「罠だ!」
グレンが叫ぶ。同時に剣で鉄格子を斬ろうとする。
外側にいたソーンも、檻の外から破壊を試みた。だが、この檻は異様なほど頑丈だった。しばらく試しても、びくともしない。
さらに悪いことに、隧道の奥から足音が聞こえてきた。こちらへ近づいている。
「おお?」
粗く掠れた声が響いた
「め、珍しいなあ。今日捕まえたのは……人間かあ?」
声に続いて、魔獣の姿が見えた。
光の中へ入ってきたそれは、背が高く、異様に太った魔獣だった。
全身は病的なほど白い。皮膚には大小さまざまな床ずれのようなものが浮かんでいる。
そして、その身体からは腐敗した吐き気を催す悪臭が、空間全体に立ち込めていた。
細い目が、檻の中のエリオたち三人を覗き込む。
次の瞬間、魔獣は白痴のようにあざ笑った。その笑い声は、金属を擦り合わせるように耳障りだった。
エリオは檻の外を見回した。そこで気づく。
ソーンの姿がない。
だが考える暇もなく、檻の外で鈍い衝撃音が響いた――
あの太った魔獣が血沫の飛ぶ大口を開け、突如として彼らに襲いかかってきたのだ。
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