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12. 合流への試み

向こう側ではエリオとコーディアがこちらへ向かって手を振っている。

グレンは地溝の先、幻域中心部の方向を指差し、そちらへ進んで合流するよう手振りで伝えた。


ソーンとヴィクターも立ち上がる。


地溝によって二手に分かれてしまったものの、五人とも考えることは同じだった。

できるだけ早く地溝の終点を見つけ、再び合流する。


だが、それはどうやら魔獣たちの望む展開ではなかったらしい。


地溝の奥底から、不気味な低いうなり声が響いた。

次の瞬間、何体もの魔獣が地下から飛び出し、両側へ一斉に襲いかかってきた。


こうなっては互いに援護することもできない。


グレンは飛びかかってきた魔獣を身をひねってかわす。

そのまま細長い尾を片手で掴み、勢いよく地面へ叩きつけた。


剣を構え、心臓目掛けて突き刺そうとする。

だが魔獣は素早く身をかわした。


次の瞬間、その尾がグレンの右腕へ巻き付く。

まるで大蛇のように締め上げ、腕ごとへし折ろうとしていた。


グレンの顔が苦痛に歪む。

しかし彼もそう簡単にはやられない。


歯を食いしばり、左手の剣を振り下ろした。

尾を断ち切られた魔獣は悲鳴を上げる。何度も地面を転がりながら距離を取った。


だが問題は終わらなかった。

切断された尾だけがなお強い力で腕へ巻き付き続けていたのだ。


ヴィクターは一体の魔獣を地溝へ蹴り落とし、そのままグレンの援護へ回る。

隙を見つけると剣先を引っかけ、ようやく尾をグレンの腕から引き剥がした。


一方その頃、ソーンも忙しく立ち回っていた。


最年少の彼は体格も最も小さい。

そのせいか、三体の魔獣が同時に彼を包囲していた。

だがソーン本人はまるで気にしていない。


右手をポケットへ突っ込んだまま、左手だけで剣を振るう。

その速度は驚異的だった。

魔獣たちもなかなか攻め込む隙を見つけられない。


一体が背後から飛びかかる。

ソーンは身を沈めると、そのまま蹴りを叩き込んだ。


吹き飛ばされた魔獣は別の魔獣へ激突する。

二体は地面を転がったあと、近くの地穴へ逃げ込んでいった。


「ふん。勝てないから逃げるのかよ?」

ソーンは首を回しながら鼻を鳴らした。


「これじゃ埒が明かないな」

グレンがため息をつく

「追うのはやめて、先へ進もう」


逃げた魔獣を追わず、一行は地溝の終点を目指して走り出した。


走りながら向こう側へ目をやる。

エリオとコーディアも数体の魔獣と戦っているのが見えた。


「あの二人、大丈夫でしょうか?」

ヴィクターが言う

「この辺りの魔獣は、山で遭遇した連中より厄介そうですが」


「大丈夫だ。信じよう」

グレンは即答した。


「コーディアは女だからって侮れない。格闘技術を教えた人物が特別なんだ。

それにエリオもな。最初は片目だけで魔獣を見る状態が心配だったが、この程度の相手でやられる二人じゃない」


「ほんと面倒くさいな」

ソーンがうんざりした顔で言う

「とっとと合流してくれよ。俺たちの足引っ張るなっての」


三人は地穴を避けながら進んだ。

同時に耳を澄ませ、地下の気配を探る。


だが奇妙なことに、いつの間にか周囲は再び静まり返っていた。


しばらく走ると、地溝の両岸が徐々に近づいているのが見えてきた。


彼らは終点近くの小高い丘へ登る。周囲を警戒しながら、エリオとコーディアを待つことにした。


ヴィクターは荷物から保存食を取り出し、皆へ配った。


見た目は小さなパンのようなもので、拳の半分ほどしかない。

だが一日分の栄養と水分を補給できる優れものだった。


これは技術大国ナディラが開発した軍用携行食である。現在では、軍事同盟を結ぶザヒールのみが供給を受けていた。


三人は食事を取りながら、何度も向こう側を見た。


遠くは静まり返っている。おそらく二人もこちらへ向かっているのだろう。丘に遮られて見えないだけかもしれない。


やがて太陽が傾き始めた。

その頃になると、地溝の奥底でちらちらと光が瞬き始める。

火の明かりだった。


「本当に地下世界があるんじゃないか?」

グレンは目を細める。


「コーディアの計算だと、第一要塞の近くまで来ているはずですよね」

ヴィクターは地図を見ながら呟いた

「もしかして、その要塞は地下にあるんじゃ……?」


「あり得るな」

グレンも頷く。


「そもそも幻域へ実際に入った狩魔師は少ない。この地図には空白が多すぎる。

だが地下要塞だと考えれば辻褄は合う。見渡しても魔獣の居住地らしいものは何一つ見当たらないからな」


「そんなことよりさ」

ソーンは地面へ寝転んだ。


「コーディアとエリオ、遅すぎないか?

地溝沿いに歩いてくるだけだろ。どんなに遅くても着くはずじゃん。

まさか、あの程度でバテたとか?」


確かにその通りだった。

グレンも違和感を覚え始めていた。


地溝の向こうでエリオが送ってきた手振りを思い返してみても、前方の終点で合流することは分かっていたはずだ。


仮に勘違いしたとしても、コーディアなら気づく。

彼女はそういう細かな部分を見落とさない。


「迎えに行こう」

グレンは立ち上がった。


「うわ、またかよ。ほんと面倒だな」

ソーンは不満そうに起き上がる。


三人はエリオたちのいる方向へ向かって、再び引き返した。 亀裂に沿って進みながら、丘の裏側をひとつひとつ確認していく。 だが、二人の姿は見当たらない。


ソーンは終始ぶつぶつ文句を言っていたが、それでも隅々まで真面目に探していた。


夜が訪れる。荒れ果てた大地には薄い霧が立ち込め始めた。地溝の奥では火の明かりがさらに増えている。


それを見て三人は確信した。

この地下には本当に巨大な世界が広がっている。

ただ、その規模までは分からない。


やがて彼らは、五人が分断された地点の近くまで戻ってきた。

その時だった。


「あれ……?」

ヴィクターが前方を指差す。その声には確信がなかった。


グレンは指差された方向を見る。地面に何かが倒れている。


ソーンも丘の上から飛び降りてきた。


数歩近づいたところで、それが何なのかはっきり見えた。


倒れていたのはエリオだった。


グレンの胸が強く締め付けられる。それでも冷静さを失わず、急いで駆け寄った。


目立った外傷はない。どうやら気絶しているだけらしい。


グレンは少しだけ安堵する。


だが顔を上げた瞬間、その安堵は消え去った。

ヴィクターとソーンが、真っ青な顔でこちらを見ていたのだ。


「コーディアが見つからないんです……」

ヴィクターは唇を強く噛む。声の震えを抑えようとしているのが分かった。


「それに……あれを見てください……」


グレンはヴィクターの指差す先を見る。

その瞬間、全身が凍りついた。


そこには――


血だまりが残されていた。

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