表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
11/22

10. 独眼の狩魔師、誕生

エリオ・ヴレスは目を覚ました。

頭の中は真っ白だった。


ただ、光が眩しくて目を開けていられない。

何度か瞬きをする。左目が少し痛んだ。


体を起こそうとしたが、全身に力が入らない。異様なほど疲れていた。


やがて目が光に慣れてくる。

少しずつ、ここがどこなのかを思い出した。


バルバス博士が、自分に視覚改造手術を施すと約束してくれたこと。

小さな手術室へ連れて行かれたこと。

心臓が激しく鳴っていたこと。


博士が何かを話していたが、ほとんど耳に入っていなかったこと。


そしてその先は、何も覚えていない。


「ようやく目を覚ましたか」

バルバスの低い声が響いた。

「三日間、意識が戻らなかったんだぞ」


「博士……」

エリオはかすれた声で尋ねる

「私は……手術に成功したんですか?」


バルバスは何も言わなかった。ただ楕円形の小さな鏡を取り出し、エリオの前へ差し出す。


エリオは鏡の中の自分を見つめた。数秒後。ようやく理解が追いつく。


左目は水晶のように眩い紫色に輝くプルプラの眼であるのに対し、右目は黒いままの、元からある自分の眼――


鏡に映っていたのは、左右の瞳の色が異なる己の姿だった。


「君がプルプラ族であっても、手術中に拒絶反応は避けられなかった」

バルバスは眉をひそめていた。


その声には不安が混じっている。

「左目を移植した段階で、私は手術を中断することにした。

まずは君を生かすことを優先したんだ。

今、体調はどうだ?」


エリオは鏡の中の自分を見つめ続けた。

左目は腫れている。わずかに充血していて、奥に鈍い痛みもあった。


彼は周囲を見回す。

左目で見る世界と、右目で見る世界に大きな違いはない。

ただ、左目の方が少しだけ輪郭がはっきりしているように感じた。


エリオはベッドから降りようとした。少し歩いてみたかった。


だが左右の視差がわずかにずれている。その違和感に足元が揺れた。体勢を崩し、危うく床へ倒れそうになる。


バルバスが慌てて手を伸ばした。だがエリオはすぐに踏みとどまる。


目を閉じた。ゆっくりと息を吸う。


――早く慣れろ。

――この新しい眼に。

――ここで時間を使っている暇はない。


心の中で、そう激しく叫んだ。


エリオは目を開く。真っ直ぐ窓の外を見た。両目の不均衡に、少しずつ体を慣らしていく。


窓の外には草地が広がっていた。少し離れたところに、一軒の家がある。


その瞬間。人型の影のようなものが、一瞬だけ視界を横切った。

そしてその家の裏へ消える。


輪郭は人に似ていた。だが背丈は異様に高い。背後には尾のようなものまで見えた気がした。


エリオは、自分の見間違いなのか判断できなかった。


彼は頭を振る。視線を室内へ戻した。そして一歩を踏み出す。


ゆっくりと部屋の中を歩きながら、強引に両目を動かしてキョロキョロと辺りを見回し続けた。

額には冷たい汗が滲んでいた。


「私の意見としては、まず左目に慣れることだ」


バルバスが口を開く。

「それから体力を回復させる。

少なくとも一か月は様子を見た方がいい。

手術による副作用が出ないか確認する必要がある。この一か月は、まず――」


「大丈夫です」

エリオが言った。


彼の両目はバルバスを見据えていた。背筋は真っ直ぐ伸びている。


疲れきっていたはずの瞳は、いつの間にか澄み切っていた。

そして、揺るぎない決意が宿っている。


「これで十分です。ありがとうございます、バルバス博士」


「君は何をするつもりだ……?」

バルバスは困惑した表情でエリオを見る。


だが次の瞬間、何かに気づいたように目を見開いた。

「まさか。まさか君は……」


エリオは服を手に取った。そして着替え始める。


「その状態で魔獣と戦えると思っているなら、大間違いだぞ、若者!」

バルバスの声が強くなる

「冗談で言っているんじゃない。君は片方の眼でしか魔獣を見られないんだ。そんな状態で戦うなんて、そんなものは――」


「大丈夫です、博士」

エリオはバルバスの言葉を遮るように言った

「本当にありがとうございました」


彼は深く頭を下げた。そして振り返ることなく歩き出す。


バルバスは、その背中が遠ざかっていくのを見ていた。

数秒の間、息をすることさえ忘れていた。


やがて彼は、静かに息を吐く。


「そんなもの……死にに行くようなものじゃないか……」


ご覧いただきありがとうございます。

【更新スケジュールのお知らせ】


● 7/22 ~ 8/1: 毎日 18:10 最新話更新

● 8/2 以降: 毎週 【日・月・火・木・金】18:10 更新


ぜひブックマークして、続きをお楽しみいただけると嬉しいです。

本作を気に入っていただけましたら、評価(★★★★★)やご感想、レビューなどをいただけると大変執筆の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ