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幕間:悪魔たちの密やかな念話

リアンとシャーネスが更紗を甘やかす理由は主の指示ではないのです


それは

更紗がまだ魔界に来たばかりの頃。


デストロイドが更紗を自室のベッドに寝かせ

その寝顔を壊れ物を守る聖騎士のような目で

見つめていた時のことだ。



部屋の隅で控えていたシャーネスとリアンの間で

不可視の念話が飛び交う。


『……ねえ、シャーネス。聞こえる?』


リアンの声が、シャーネスの脳内に響く。

彼女は扇子で口元を隠しているが

その瞳はデストロイドの背中に釘付けだ。


『我が主の思考……漏れ出しすぎていて

防壁ブロックが役に立ちませんわ。

「可愛い、愛おしい、今すぐ抱きしめたい

でも俺は魔王だから我慢しろ自分

でもやっぱり指先に触れるくらいなら……」って

これ、千年生きた魔王の思考回路かしら?』


シャーネスは感情を殺した執事の顔を保ちつつ

短く返した。


『……リアン。

向こうの部屋にいるアンデス様も同じですよ。

「陽子、陽子、陽子……更紗を陽子に会わせてやりてぇ

でも俺がパパだってバレたら嫌われるか?

いや、それより先にこの城の飯が

更紗の口に合うかの方が死活問題だ」と。

……正直、頭が痛くなってきました』


二人は、悪魔だ。


本来、人間の愛憎など、彼らにとっては

「面白い見世物」か「取引の材料」に過ぎない。


だが、今の彼らが仕える二柱の魔王は

更紗という一人の娘のために

執念だけでこの世界の頂点にまで上り詰めた

規格外の存在だった。



『……でも、見て。シャーネス』

リアンの念話に、少しだけ温かな色が混じる。


『あの娘、更紗様の手。

あんなにボロボロで、爪の間まで汚れが入り込んで……。

あちらの世界でどれほど惨めな思いをしてきたのか

思考を読まなくても分かってしまいますわ』


シャーネスは静かに更紗の寝顔に視線を向けた。


かつての更紗の記憶

――怒鳴り声、鳴り止まない電話

冷たいコンビニ飯。

その断片が、彼女の無意識から

わずかに漏れ出している。


『……ええ。我ら悪魔でさえ

これほど一方的な搾取はいたしません。

人間というのは、時として我らより

よほど残酷な種族のようだ』


デストロイドが、更紗の髪にそっと触れた。

その瞬間の、彼の「魂が震えるほどの歓喜」が

念話を通じて二人に流れ込み

リアンは思わず胸元を押さえた。


『……あぁ、もう! 眩しすぎますわ!』


リアンは少し赤くなって

ぷいと顔をそむける。


『決めましたわ。

私、あの方を全力で甘やかします。

人間界の流行も、ドレスも、宝石も

あの方が望むなら世界中から略奪

……いえ、調達してきて差し上げますわ』


『珍しく意見が合いましたね、リアン』

シャーネスも、眼鏡の奥の瞳を細めた。


『主様たちがこれほどまでに

「愛」という名の狂気に身を捧げているのです。

我々が、その対象である更紗殿を

大切にしない理由がありません。

……彼女が、二度とあのような「枯れた顔」をしないよう

徹底的に管理サポートいたしましょう』



二人は無言で深く一礼し

影のように部屋を退室した。


その日の午後

魔王城の厨房ではシャーネスが

「更紗様の胃腸に最も優しい魔界の薬膳スープ」を厳選し

リアンが「更紗様の寝室に飾る最高級の香料」を求めて

隣国までひとっ飛びする姿があったという。


「……ふふ、あちらの社長という男?

もしこちらに来るようなことがあれば

わたくしが特別に

一番えげつない悪夢を見せてあげますわ」


リアンの呟きに

シャーネスが静かに同意の頷きを返した。


魔王たちだけでなく

二人の上位悪魔までもが

「最強の味方」に変わった瞬間であった。




お読み頂きありがとうございます

本編に戻ります

次回も楽しみに♡

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