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第8話:闇に咲く夫婦花(めおとばな)


魔王城の中庭で開かれたパーティーも

夜が更けて少し落ち着きを見せていた。


更紗はデストロイドと寄り添いながら

少し離れた場所で一輪の青い花を見つめている大男

――アンデスの背中を見守っていた。



デストロイドが更紗の耳元で囁く。


「アンデスは、君の母親

……陽子ようこさんのことを

一日たりとも忘れたことはなかった。

彼が魔界で略奪も破壊もせず

ただひたすらに領地を豊かにしたのは

いつか君たちが迷い込んできた時

そこを花でいっぱいにしたかったからなんだ」


更紗が頷くと、その青い花がひときわ強く発光し

小さな精霊が実体化した。


精霊は、かつての陽子の姿

――優しく、少しおっとりとした

女性の姿へと形を変えていく。


「……あなた。そんなに怖い顔をして

何を睨んでいるの?」


鈴を転がすような、けれど芯の強い声。


アンデスの肩が、ビクンと大きく跳ねた。

魔界で二番目に恐れられる魔王の拳が

見たこともないほど小刻みに震えている。


「……その、声……」

アンデスがゆっくりと振り返る。


そこには、かつて病で

泣く泣く置いていくしか無かった

愛する妻の姿があった。


精霊となった彼女は

透き通るような羽を羽ばたかせ

アンデスの無骨な顔を覗き込んだ。


「相変わらず、目の下のクマが凄いわね。

ちゃんと寝ていたの? たけしさん」


前世の名前を呼ばれた瞬間

アンデスの瞳から

堪えていたものが決壊した。


「……陽子。陽子なのか……っ!」

アンデスは、壊れ物を扱うように

その小さな精霊の体を両手で包み込もうとした。


だが、彼は今の自分の姿を思い出し

ハッと手を止める。


「……すまねぇ。

俺は、こんな化け物になっちまった。

お前みたいな綺麗な精霊に

触れていい体じゃねえんだ……」


すると、陽子はフフッと笑って

自分からアンデスの大きな鼻先に触れた。


「何を言っているの。

その不器用な指先も、ちょっと乱暴な口調も

更紗を想ってボロボロになるまで働いちゃうところも

……全部、私が愛した剛さんのままじゃない」


陽子の体が光に包まれ

アンデスの胸元へと飛び込んだ。


アンデスは、かつて何度もそうしたように

彼女を力いっぱい抱きしめた。


角が生え、体躯が数倍になろうとも

魂が覚えている「愛する人の形」は変わらない。


「遅くなって悪かった……。

お前を一人にして、先に逝っちまって……。

寂しい思いをさせたな」


「いいえ。……あなたがずっと頑張っているの

風に乗って聞こえてきたわよ。

『娘を幸せにする』って

毎日叫んでいたでしょう?」


二人の周囲に、祝福の花びらが舞い上がる。



アンデスは、自分を「魔王」としてではなく

ただの「夫」として見つめてくれる彼女の腕の中で

千年の孤独が溶けていくのを感じていた。


少し離れたところで

更紗が涙を拭いながら微笑んでいる。


「……パパ、ママに会えてよかったね」


デストロイドもまた

更紗の肩を抱き寄せ

幸せそうな夫婦を見つめた。


「あぁ。……俺たちも、負けてられないな。

千年後の更紗に

今より愛してると言わせるつもりだ」


魔界の静かな夜。


かつて引き裂かれた家族は

こうして一つの場所に集まった。


ブラック企業の冷たいオフィスでは

決して手に入らなかった

本当の「家族の絆」が

魔界の夜空の下で永遠に輝き続けている。




お読み頂きありがとうございます

次回も楽しみに♡

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