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第9話:魔王様の休日、魔界が震えた日

魔族がひっくり返った日w


魔界の城下町は

今日も怪しげな活気に溢れていた。


露店には発光する果実や

歌う宝石が並び

多種多様な魔族たちが闊歩している。


そんな喧騒が

ある一点を境に「しん……」と静まり返った。


「見て、武流! あのリンゴ、浮いてるわよ!

食べたら私も浮いちゃうかな?」


楽しそうに声を弾ませ

露店に駆け寄る一人の少女。


その隣には、漆黒の翼を畳み

穏やかな……あまりにも穏やかすぎる笑みを浮かべた

銀髪の青年がいた。


「あれは浮遊林檎グラビティ・アップルだ。

更紗、浮くのが嫌なら

俺がずっと抱きしめていてやろうか?」


 

魔界の頂点、絶対強者デストロイド。


彼が、人間の娘(にしか見えない更紗)の

荷物を両手に抱え

まるで初恋に浮かれる少年のように

鼻歌を混じらせている。



「「「…………っ!!(声にならない悲鳴)」」」



通りすがりの上位悪魔は

持っていた杖を落とし

屈強なオークの戦士は「あれは幻覚か?」と

自分の目をこすった。


『おい、見ろ

……あの冷酷無比なデストロイド様が

笑っているぞ……』


『しかも、あんな可愛い娘の後ろを

尻尾を振る犬みたいについて回って……』


『魔界が終わる。

あるいは、新しい時代の幕開けだ……』


住人たちが震える中

更紗はそんな視線に気づかず

串焼きの屋台に目を輝かせた。


「ねぇ武流、これ美味しそう!

ひとつ買っていい?」


「あぁ、全部買い占めてもいいぞ。

おい、店主。これを一……」


「一つでいいのよ!

武流はすぐ買い占めようとするんだから」


更紗に「めっ!」と嗜められ

魔王デストロイドは「……そうか、すまない」と

しゅんとして引き下がった。



「「「魔王様が謝ったぁぁぁ!!!」」」



影で見ていた魔族たちが

ショックのあまり泡を吹いて倒れていく。


そんな中、二人は広場のベンチに座り

一本の串焼きを仲良く分け合った。


「……武流。あっちの世界にいた時は

公園でアイスを食べる時間さえなかったね」


更紗がふと、寂しげに笑う。


デストロイドはその指先に付いた

ソースを指で拭い

そのまま自分の口へ運んだ。


「あぁ。あんなに狭い世界で

お前を一人で戦わせていた。

……今は、この広い魔界のすべてがお前の庭だ。

好きなところへ行き

好きなものを食べ

好きな時に眠ればいい。

俺がそれをすべて守る」


更紗は、デストロイドの肩に

そっと頭を預けた。


魔族たちが遠巻きに

「尊い……」

「もはや、浄化される……」と

涙を流していることなど

二人の世界には関係なかった。




その時、広場の巨大モニター(魔界式水晶ビジョン)に

あるニュース映像が流れた。


『――速報です。

魔界最下層、永久労働施設。

新入りの「剛田」受刑者が

本日の岩運びノルマ100万個を達成できず

監督官リアンによって

「残業(エンドレス・ムチ打ち)」を

宣告されました――』


映像の中の社長は

「もう勘弁してくれぇぇ!」と泣き叫んでいる。


更紗は一瞬、眉をひそめたが

すぐにデストロイドの胸に顔を埋めて笑った。


「……ねぇ、武流。あっちの『残業』は

本当に終わらないの?」


「あぁ、永遠だ。

……だが、俺たちの『デート』も

永遠に終わらせるつもりはないぞ」


デストロイドは更紗を抱き寄せ

その額に深い口づけを落とした。



魔界の住人たちは

愛の力に当てられてバタバタと倒れ伏したが

その顔はどこか

慈愛に満ちた平穏を感じていたという。



お読み頂きありがとうございます

次回も楽しみに♡

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