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第10話:魔界一ホワイトな「お仕事」


「……ねぇ、武流。

私、このままじゃ本当に

ダメ人間になっちゃう」


ふかふかのソファに埋もれながら

更紗は深刻な顔で訴えた。


魔界に来てからというもの

彼女が動こうとすると

どこからともなく誰かが現れて

先回りしてしまうのだ。


「ダメ人間になっても

俺が一生養うと言っているだろう」


「そういう問題じゃないの!

私は、自分の手で何かを成し遂げたいの。

……適度に、働きたいの!」


その必死の訴えに

デストロイドは渋々ながら頷いた。


こうして始まったのが

更紗のお仕事

「魔王城・温室の管理補助」である。


精霊となった母親(陽子)が住まう花園の世話なら

安全だし、更紗も喜ぶだろうという配慮だった。


翌朝、更紗は気合を入れて

動きやすいエプロン姿で温室へ向かった。


「よし、今日こそはしっかり働くわよ!」

まずは、萎れかけた魔界植物に

水をやろうとジョウロを手に取る。


だが、その指先が取っ手に触れるよりも早く

影からシャーネスが滑り出してきた。


「更紗殿、ジョウロは重ございます。

……水やりは、私がこの『魔導全自動散水システム』で

一瞬のうちに終わらせておきました」


「……えっ。じゃ、じゃあ

あそこの雑草を抜くわ」


更紗が腰をかがめようとすると

今度はリアンが空から舞い降りる。


「あら、更紗様!

土が爪に入ったら大変ですわ。

……雑草たちは、わたくしが先ほど『消滅魔法』で

根絶やしにしておきましたから、ご安心なさい」


「…………」

 更紗が呆然としていると

ドスンドスンと地響きを立てて

魔王アンデスが現れた。


その手には、巨大なスコップが握られている。


「更紗! 肥料が必要なんだろ?

安心しろ、俺が隣国の一番いい土を

山ごと持ってきたぞ。

今、城の裏に積み上げてあるからな!」


「山ごと持ってこないでよ、パパ!」

更紗は頭を抱えた。


水やりは自動、雑草は消滅、肥料は山。


更紗がやるべき仕事は

もはや「花に向かって微笑むこと」くらいしか

残っていなかった。


「……武流! これじゃ仕事にならないわ!」

温室の入り口で、心配そうに

様子を伺っていたデストロイドが

びくりと肩を揺らす。


「……更紗。やはり、魔族の道具や魔法を使わず

手作業でやるのは効率が悪いだろう?」


「効率なんてどうでもいいの!

私は、自分の手で土を触って

花を育てたいの。

……お願い、みんな。

私を『普通の女の子』として扱って!」


更紗の切実な叫びに

二人の魔王と二人の悪魔は

顔を見合わせた。


彼らにとって、更紗は

「千年の時をかけてようやく取り戻した

壊れやすい宝物」なのだ。


それを、土に汚れさせ、汗をかかせるなど

本能が拒否してしまう。


「……分かったわ。じゃあ、条件よ」

更紗は指を一本立てた。


「私が働いている間

半径三メートル以内に誰も入らないこと。

手出しもしないこと。

……守れなかったら、一週間

武流と一緒にご飯食べないからね!」


「……っ!? それは死刑宣告に等しい……」

デストロイドが膝をつく。

アンデスも「一週間、更紗の笑顔が見られねえのか……」と

絶望の表情を浮かべた。


こうして、更紗はついに

「自分だけのお仕事」を勝ち取った。


泥だらけになりながら

小さな芽に水をやる更紗。


その姿を、三メートルきっかり離れた場所から

四人の強者が血眼まなこで見守るという

異様な光景が魔王城の名物となったのは

言うまでもない。


花の精霊となった陽子は

そんな様子を木の上から眺め

楽しそうに笑っていた。


「ふふ、幸せね、更紗。

……あんなに素敵な騎士ボディーガードたちに囲まれて」




お読み頂きありがとうございます

次回も楽しみに♡

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