第6章:ブラック社長、異世界召喚の暴挙
更紗がいなくなった元の世界。
そこでは、一つの狂気が加速していた。
更紗という「超有能な調整役」を失った
株式会社『ブラック・ダイナミクス』は
崩壊の危機に瀕していた。
「……あいつがいなければ
誰が私の代わりに泥をかぶるんだ!
誰が私のわがままを完璧に形にするんだ!」
狂ったように叫ぶのは
社長の剛田。
彼は、かつて更紗が使っていたデスクの奥から
出張先で拾ったという
不気味な「古書」を引っ張り出してきた。
それは、かつて異世界の魔界から流出した
禁断の召喚術が記された魔導書だった。
「戻ってこい、月野更紗……!
お前は俺の最高傑作なんだよぉ!」
剛田が社員たちを不眠不休で働かせ
オフィスの中央に
チョークで魔法陣を描かせたその時。
時空が歪み、魔界の更紗のもとへと
「強制召喚」の魔手が伸びる。
その頃、魔界。
更紗は、デストロイド(武流)と一緒に
庭でティータイムを楽しんでいた。
「更紗、このお菓子も食べるか?
アンデスが
『娘には最高のもんを食わせろ』って
うるさくてな」
デストロイドが微笑みながら
フォークを差し出したその時
更紗の足元に禍々しい赤い魔法陣が展開された。
「えっ、何これ……!?」
「これは……異世界からの強制召喚!?
バカな、誰がこんな高位の術を……!」
デストロイドが慌てて
更紗の腰を抱き寄せるが
魔法陣からは鎖のような光が伸び
更紗を絡め取ろうとする。
そして、魔法陣の向こう側から
聞き覚えのある不快な声が響いてきた。
『――月野ぉ! 早く戻ってきて働け!
納期が明日までなんだよ!
逃げられると思っているのかぁ!』
更紗の顔が、恐怖ではなく
「心底からの嫌悪」で引きつった。
「……社長!?
なんでこんなところまで
追いかけてくるのよ!」
その声を聞いた瞬間
隣にいたデストロイドの瞳から
ハイライトが消えた。
背後で日向ぼっこをしていたアンデスも
ゆっくりと立ち上がる。
その体からは
先日の江原の時とは比較にならないほどの
天を衝くような怒気があふれ出していた。
「……武流。今、あっちの男……
更紗になんて言った?」
「『戻ってきて働け』……だと。
千年前から、更紗の幸せを邪魔する奴は
俺が皆殺しにすると決めている」
デストロイドは更紗をシャーネスに預けると
逆に召喚の光を力ずくでこじ開けた。
「更紗、少し待っていろ。……ゴミ掃除をしてくる」
「おい武流、一人占めは許さねえぞ。
俺の娘を『コマ』扱いした報いだ。
……徹底的にわからせてやる」
二人の魔王は、召喚の鎖を逆に手繰り寄せ
魔法陣の中に「逆侵攻」を開始した。
オフィスでは
剛田社長が勝利を確信して笑っていた。
「はっはっは! 光が出てきたぞ!
月野が戻ってくる――」
だが、現れたのは月野更紗ではなかった。
魔法陣から這い出してきたのは
巨大な漆黒の翼を広げた
銀髪の死神と
オフィスの天井を突き破らんばかりの
巨躯を持つ鬼神だった。
「ひっ、ひぃぃぃ……っ!
な、なんだお前らは……!
警備員! 警備員を呼べ!」
「警備員? ……あぁ、外で眠らせている
あの人間たちのことか」
デストロイドが冷たく笑い、指を鳴らす。
その瞬間、オフィス中のパソコンが爆発し
剛田のデスクは粉々に粉砕された。
「貴様が、更紗を『モノ』のように扱っていた男か。
……死なせるのは簡単だが、それでは生ぬるいな」
アンデスが剛田の首根っこを掴み
軽々と持ち上げた。
「お前、仕事が好きらしいじゃねえか。
……いいぜ。魔界の最下層に
永遠に終わらねえ『岩運び』の仕事がある。
……定年なし、休憩なし、死ぬことも許されねえ
超優良企業だ。
そこへ招待してやるよ」
「や、やめてくれ!
助けて、月野! 助けてぇぇぇ!」
剛田の絶叫は
魔王たちの冷笑にかき消された。
彼らは、更紗がかつて味わった苦しみの数千倍を
その男の魂に刻み込むために
彼を「魔界の強制労働施設」へと連行していった。
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