第4章:重なる影、解ける封印
形を変えて集結した更紗を愛する人たち♡
魔界の時間は、元の世界の何倍もゆっくりと
けれど確実に過ぎていく。
更紗は、魔王城の図書室で
デストロイドが淹れてくれたコーヒーを飲んでいた。
「……ねぇ、デストロイド」
「なんだ」
「このコーヒーの淹れ方
少し変わってるね。
粉を少し蒸らしてから
円を描くように……」
デストロイドの手が、ぴたりと止まった。
それは、かつて更紗の恋人だった武流が
彼女に教えてくれた唯一のこだわりだったからだ。
「……癖だ。気にするな」
彼は顔を背けたが、更紗の胸の中には
小さな違和感が静かに広がっていく。
思い返せば、おかしいことばかりだった。
初めて会ったはずの魔王は
私の名前を知っていた。
横暴なはずの魔王アンデスは
私が苦手な食べ物を避けて食事を勧めてくる。
そして、花の精霊――あの温かい眼差し。
その時、廊下から大きな怒鳴り声が聞こえてきた。
アンデスだ。
「おい! さっさとその荷物を運べと言ってるんだ!
ぐずぐずしてると、ケツを蹴り上げるぞ!」
その、独特な言い回し。
更紗の脳裏に、幼い頃
庭掃除を手伝わない今は行方不明の兄を
叱っていた父親の姿がフラッシュバックした。
「……パパ?」
無意識に、更紗の口からその言葉が零れた。
図書室の空気が一変する。
デストロイドは息を呑み
ちょうど入ってこようとしたアンデスが
石像のように固まった。
「……更紗、お前、今なんて言った?」
アンデスの低い声が震えている。
その瞳には、魔王としての威圧感ではなく
一人の父親としての動揺が溢れていた。
更紗は立ち上がり
ふらふらと二人に歩み寄る。
デストロイドの銀髪、その奥にある優しい瞳。
アンデスの不器用な手の動き。
「デストロイド……
あなた、本当は、武流なんでしょ?」
静寂が部屋を満たした。
リアンとシャーネスが、悲しげに
けれどどこか清々しい表情で見守っている。
「……あぁ、そうだ。バレちまったか」
アンデスが、堪えきれずに
大きな手で自分の顔を覆った。
「まったく、デストロイド様の変装が甘いからだぜ。
俺までついでにバレちまったじゃねえか」
デストロイド――武流は
ゆっくりと更紗に向き直った。
銀色の髪がさらりと揺れ
その瞳から、魔王としての「仮面」が剥がれ落ちる。
「……すまない。怖がらせたくなかった。
十八で死んだ俺が
千年以上生きた魔王だなんて言っても
信じてもらえないと思ったから」
更紗は震える手で、彼の頬に触れた。
冷たいはずの魔族の肌が
今はあの日
病室で握りしめた手よりも
ずっと熱く感じられた。
「……どうして」
「お前を一人にして逝ったのが
悔しくてたまらなかったんだ。
……死んだ後、別の世界で目を覚まして
必死に力を手に入れた。
お前がいつか、こっちの世界に来る瞬間に
誰よりも先に迎えに行けるように」
武流の告白。
そしてアンデス(父)もまた
家族を遺して先立った後悔から
この世界で更紗を守るための地位を築いていた。
更紗の目から
溢れんばかりの涙がこぼれ落ちた。
ブラック企業でボロボロになり
誰にも必要とされていないと思っていた。
けれど、実際は違った。
この世界の頂点に立つ二人の魔王が
自分一人のために
途方もない年月をかけて準備をしていたのだ。
「もう……バカだよ、みんな……」
更紗は、武流の胸に飛び込んだ。
今度は我慢せず
武流も彼女を力一杯抱きしめる。
「ただいま、更紗。
……もう、どこへも行かせない」
魔王城の窓の外、花の精霊(母)が風に揺れ
幸せそうに花びらを舞わせていた。
更紗の「第二の人生」は
失ったはずの愛を取り戻し
ここから本当の意味で始まっていく。
お読み頂きありがとうございます
次回もお楽しみに♡




