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第5話「全滅依頼? 攻略ルートなら【全部見えてる】んですが」

 ギルドの掲示板に、赤い縁取りの依頼票が一枚だけ貼られていた。


 他の依頼票と明らかに違う。近づいた冒険者が内容を読んで、黙って離れていく。誰も手を伸ばさない。


「あれ、何っすか」


 隣にいたガルドが渋い顔をした。


「見るな。近づくな。忘れろ」


「なんで」


「死ぬからだ」


 俺は掲示板に近づいた。


 依頼票の内容はこうだ。


【討伐依頼・特別指定】

対象:魔獣「ヴォルグ」(推定Aランク相当)

発生場所:ランセル南部・廃坑エリア

報酬:金貨五十枚

備考:過去三パーティが挑戦。全滅。現在ランクB以上のパーティのみ受注可。


 金貨五十枚。銀貨に換算すると五千枚だ。今の俺の全財産の百倍以上ある。


「……カイト」


「なんすか」


「お前の目が笑ってない」


「笑ってますよ」


「笑ってない。あの目は昨日テッドの工房で短剣を品定めしてた時と同じ目だ」


 ガルドの観察眼は案外侮れない。


(ナビ、廃坑エリアの情報はあるか)


(頭の中に声が響いた)


「廃坑エリアのデータを照合中です。地形情報は断片的ですが——魔獣ヴォルグに関するデータが一件あります」


「一件?」


「前世のゲームデータとの照合です。類似した生態を持つ魔獣の行動パターンが存在します。信頼性は六十三パーセント」


「十分っすね」


「カイト、今独り言を言ったか」


「癖っす」


 俺は依頼票を一枚、掲示板から剥がした。


 カウンターに持っていくと、フィアが依頼票を見た瞬間に表情が固まった。


「……カイトさん」


「これ、受けたいっす」


「……現在、ランクFですよね」


「そっすよ」


「この依頼はランクB以上のパーティのみ受注可と記載されています」


「パーティじゃなくて個人で受けたいんすけど」


 フィアの眉が、普段より深く寄った。感情が顔に出るときの顔だ。


「規則上、受注できません」


「なんでっすか」


「ランクB未満、かつパーティ未編成での受注は安全基準に反します。ギルドとして認可できません」


「じゃあガルドを連れていきます。ガルドはBランクっすよね」


 後ろでガルドが「巻き込むな」という顔をした。


「……ガルドさんがパーティを組むことに同意した場合、二名パーティとして受注は可能です。ただし——」


 フィアが一度言葉を止めた。


「ただし?」


「……過去三パーティが全滅しています。カイトさんとガルドさんの二名では、戦力として——」


「フィアさん」


「はい」


「俺が受けたい依頼に、戦力の話は関係ないっすよ」


 フィアがまた黙った。


(怒ってるのか考えてるのか……その唇をきゅっと結ぶ顔は多分後者で、感情を抑えてる時の顔で、それが崩れた時に何を言うのかが——待て俺、今は仕事中だ)


 長い沈黙の後、フィアが口を開いた。


「……わかりました。受注処理をします。ただし、ギルドとして安全確認の義務があります。出発前に詳細なルートと想定される行動計画を提出してください」


「わかりました」


「……本当に、行くんですか」


 最後の一言は、受付嬢の声じゃなかった。


「行きます」


 俺は依頼票を受け取った。

 翌朝、日が昇る前にランセルを出た。


 ガルドは文句を言いながらついてきた。文句を言いながらついてくるのがガルドの仕様らしい。


「なんで俺まで行くことになってるんだ」


「Bランクが必要だったんで」


「俺は囮か」


「戦力っすよ」


「全滅依頼だぞ。過去三パーティが死んでるんだぞ」


「死んだ理由があるんで、そこを潰せばいいだけっすよ」


 ガルドが歩きながら俺を見た。


「……本当にわかってるのか」


「わかってます」


(ナビ)


「はい」


「過去三パーティの全滅パターンを分析できるか。情報は昨日フィアさんから依頼報告書を見せてもらった」


「照合済みです。三パーティの共通点を報告します」


「どうぞ」


「第一パーティ:坑道入口付近で全滅。ヴォルグと正面から交戦した記録あり。第二パーティ:中層で分断されて各個撃破。第三パーティ:罠に気づかず坑道崩落に巻き込まれています」


「つまり」


「ヴォルグは知能が高い。地形を利用して戦う。正面戦闘を避け、地の利を最大限に使うタイプです」


(なるほど。前世のゲームで言うと、フィールドボスの中でも「環境利用型」のやつだ。正面から殴り合いに行ったら負ける。でも環境の使い方を逆手に取れば——)


「ガルド」


「なんだ」


「今日は俺の言う通りに動いてくれれば、絶対に死なないっすよ」


「……絶対、と言い切れるのか」


「九十二パーセントで」


「残り八パーセントは何だ」


「想定外っすよ。でも想定外が起きた瞬間に対応するんで、実質九十八パーセントくらいっす」


 ガルドが長いため息をついた。


「お前と一緒にいると感覚がおかしくなってくる」


「慣れっすよ」


 廃坑の入口が見えてきた。

 坑道の中は暗かった。


 松明を一本持ってきたが、ナビが「消してください」と言った。


「なんでっすか」


「ヴォルグは視覚より振動と熱源で獲物を追います。松明の熱が位置を知らせます」


「消します」


「待て消すのか本当に」


 ガルドの声が上ずった。真っ暗になった坑道で、ガルドが俺の腕を掴む。


「離れるな」


「そっすね。ガルドは俺の三歩後ろを維持してください」


「なんで三歩だ」


「ヴォルグの爪の射程が二歩分っすよ。三歩なら俺が回避した後にガルドに当たらない」


「……お前、本当に全部計算してるのか」


「してないと死ぬんで」


 暗闇の中を、俺は記憶した地図と足裏の感触だけで進んだ。


 坑道の構造は昨日ナビと一緒に報告書から再現した。分岐は三つ。ヴォルグが好む地点は湿度が高く、天井が低いエリアのはずだ。


(ナビ、振動は)


「微細な振動を検知しています。十一時方向、推定距離四十メートル。移動速度から——こちらの位置を把握していない可能性が高いです」


(まだ気づかれていない。なら先手を取る)


「ガルド、止まって」


 ガルドが止まる。


「左の壁に手をついて。離すな」


「何をする気だ」


「音を出します。ヴォルグをこっちに引き寄せる」


「それ囮じゃないか」


「そっすよ。でも来た瞬間に仕留めます」


 俺は坑道の壁を、拳で三回叩いた。


 静寂。


 それから——地響きが来た。


(速い。データより速い。残り八パーセントの方か)


「ナビ」


「軌道修正します。天井の低さが最大の障害です。ヴォルグはジャンプができない。地面を這う動きに特化しています。弱点は——頭部後方の神経節。頭が地面に近いため、通常の攻撃ではアクセスできませんが——」


(地面に近いなら、こっちも地面に近づけばいい)


 俺は膝をついた。


 暗闇の中、地響きが近づいてくる。


 三十メートル。二十メートル。十メートル。


 見えた。


 暗闇に慣れた目に、巨大な影が映る。体長三メートルを超える四足歩行の魔獣。鱗に覆われた皮膚が坑道の壁を削りながら突進してくる。


(首の付け根。同じだ。アイアンベアと同じ場所だ)


 俺は動かなかった。


 五メートル。三メートル。


 一メートルの位置でヴォルグが顎を開いた瞬間——俺は真横に転がりながら、その頭部後方に全力で手刀を叩き込んだ。


 ヴォルグの巨体が、前足から崩れた。


 地面に倒れ込む衝撃で坑道が揺れた。


「……沈黙しました。ヴォルグ、討伐完了です」


(頭の中のナビの声が、少しだけ興奮しているように聞こえた気がした)


 暗闇の中で、ガルドの声がした。


「……終わったのか」


「終わりましたよ」


「何秒だ」


「ナビ、何秒だった」


「七秒です」


「七秒っすって」


 長い沈黙だった。


「……お前、七秒で全滅依頼を終わらせたのか」


「かかりすぎましたね。転んだんで」


 ギルドに戻ったのは昼前だった。


 討伐証明のためにヴォルグの牙をアイテムボックスから取り出してカウンターに置くと、フィアが固まった。


「……これは」


「ヴォルグの牙っすよ。討伐完了です」


「……今日の朝、出発したばかりですよね」


「はい」


「……半日で、終わったんですか」


「かかりすぎましたね」


 フィアが牙を両手で持って、重さを確かめるように見つめた。その間、ギルドのざわめきが少しずつ大きくなっていく。


「Fランクが全滅依頼を——」


「しかも半日で——」


「七秒で仕留めたって、ガルドが言ってたぞ——」


 カウンターの奥で、ギルドマスターの補佐らしき中年の男が立ち上がって、こちらを見ていた。


 フィアが報告書を処理しながら、小声で言った。


「……注目されています」


「知ってますよ」


「……よくて羨望、悪くて敵意を買います。Fランクがここまでやると、面白く思わない人間が出てきます」


「知ってますよ」


「……わかって、やったんですか」


「そっすよ」


 フィアがまた黙った。


(その「なんで」って言いたそうな顔が好きだな——待て俺、今声に出てないよな)


「報酬の金貨五十枚です」


「ありがとっす」


 金貨を受け取ってギルドを出ようとしたとき、後ろから声がかかった。


「少し待ちなさい」


 振り返ると、さっきの補佐の男が立っていた。

太った体に、値踏みするような目。ギルドの上層部のにおいがする。


「ギルドマスター補佐のドレインだ。君に話がある」


 俺は少し考えた。


(来た。フィアさんが言っていた「面白く思わない人間」が、思ったより早く動いた)


「どんな話っすか」


「君のスキルについてだ。スキルなしでこの結果は不自然だ。何かを隠しているなら、ギルドとして調査する義務がある」


 ガルドが後ろで身構えるのがわかった。


 俺は笑顔のまま答えた。


「調査、どうぞ。ただ——俺がスキルを持っていなかった場合、何か補償はありますか」


 ドレインの目が細くなった。


「……何が言いたい」


「スキルなしでAランク魔獣を七秒で仕留めた事実は変わらないっすよ。それを『不自然』と言うなら、ギルドの評価基準自体がおかしいってことになりませんか」


 静寂だった。


 周りの冒険者たちが、固唾を飲んでこちらを見ていた。


(さて。ここからが本番だ)



面白いと思ってくれた方は


評価(星5)と ブックマーク


を押していただけると作者が泣いて喜びます。


「ギルドの評価基準自体がおかしい」——この一言の続きが気になる方、ぜひブックマークを。次話で完全に論破します。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━


次話予告:


「スキルなしは不自然だ」と因縁をつけてきたギルド補佐・ドレイン。


カイトの反論が始まります。

データと論理で、完全に黙らせます。


それでは第6話でお会いしましょう!

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カイトの反論が始まります。

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それでは第6話でお会いしましょう!

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