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完璧を強いられた令嬢と完璧公爵の甘やかな結婚  作者: いか人参


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52/56

52.心の距離


シュヴァルツは王宮警備隊と協力して、出入り可能な全ての門を確認していた。不審な人物や馬車の目撃が無かったか守衛に聴取していく。その結果、懸念事項は特になかった。


(誘拐の線は薄いか…)


自分の目で見た所普段と異なる点もなく、敷地外へ連れ出されたという最悪の可能性は、限りなくゼロに近くなった。


そこまで分かれば御の字と、シュヴァルツはフィニアスの元へ急ぐ。報告及び戻ってマリエッタの護衛につくためだ。なんと言われようとも、この状況で他の奴に任せておけない。


幸いなことにその途中でフィニアスと出会し、情報共有することができた。



シュヴァルツと別れた後フィニアスは、公爵家権限で全ての会場控え室を調べさせ、その間に自分は中庭へ向かうことにした。


人目につく場所にいるはずがないと思いながらも、この寒い中もし外にいたのなら…と思うと最初に確認せずにはいられなかった。


(これは…)


一階に降りて中庭に向かう途中、回廊の端に落ちていたものに気付く。本来ならこんなところに落ちているはずのないものだ。


(間違いない、エリーナの靴だ。)


両手で拾い上げたフィニアスが、大切そうにそれを胸に抱える。


自分がこの日のために選んでプレゼントしたものだ。見間違えるはずがない。よく見るとかなり汚れていた。何か事件に巻き込まれてしまったのではないかと、目の前が暗くなる。


(……今は彼女を探すことが最優先だ。)


飛びかけた意識を呼び戻し、顔を上げた。


もしここで攫われたのなら、何か他にも手掛かりが見つかるかもしれない。不安で胸を抉られそうになりながら、慎重に周囲に目を向けて中庭までの道を行く。


そして何も見つけられないまま、噴水の見える場所まで辿り着いた。辺りに人の気配はない。


(念の為、一周してから戻るか。まだ確認していない場所にも早く…)


焦燥感に駆られながら、大股で噴水に沿って歩く。植え込みの間を進みながら、誰も座っていない空のベンチを順番に確認していく…


(誘拐の可能性が低いのならば、やはり建物内のどこかに監禁されていると考えた方が妥当か…舞踏会終了の混乱に乗じて外に逃げ出すかもしれない。一刻も早く見つけなければ。)


急いで建物の中に戻ろうと思ったその時、最後に見えたベンチに蹲る人影を見つけた。胸の鼓動が速くなる。



「エリーナっ!」


すぐさま駆け寄って目の前に膝をつき、彼女の両肩に手を置いて俯いてる顔を覗き込む。



「フィニアスさま…?」


顔を上げたエリーナが寒さで真っ青になった唇で、彼の名を呼んだ。彼女は不思議そうな顔をしており、見つけてもらえたという安堵や驚きは感じられない。


ハッとしたフィニアスが、ジャケットを脱いで彼女の身体を包んだ。そして目の前に膝をつき、剥き出しになって冷え切ったエリーナの両足を両手でさする。



「遅くなって悪かった。寒かっただろう。」


「フィニアス様が謝ることなんて何一つありませんわ。これは至らない私のせいですもの。」


エリーナが遠慮がちに足を避けながら、心から当然だと思っている声音で言う。こんな状況下でもどこか冷静な彼女を前に、フィニアスが痛みを堪えたような顔をした。



「フィニアス様?」


「本当に…無事で良かった…」


ジャケットごとエリーナのことを抱きしめた。今ここに存在していることを尊ぶかのように、強く優しく自分の腕の中に収める。



「ご心配をお掛けして申し訳ありません…。それに、こんなお見苦しい姿で…」


「無事ならそれでいい。」


「でも、このような姿で国王陛下に謁見など出来ませんわ。フィニアス様に恥をかかせてしまいますもの。」


何よりも安心出来る温かな腕の中で、エリーナが罪悪感から泣きそうな声で言う。


(本当なら今頃正式に婚姻を結んでいるはずだったけれど、こんなことになってしまってはもう…)


とっくに謁見の予定時刻を過ぎている。国王相手に時間を変えてくれなど言えない。それなら、自分の瑕疵で婚約解消し、フィニアスの面目を保った方が良い。

何より、こんな些細なことで簡単に足元を掬われてしまうような人間は、公爵婦人に相応しくないとそう考えた。



「だから私のことは構わず、会場にお戻りくださいませ。後でセラを寄越して頂ければそれで十分ですわ。これ以上ご迷惑はお掛けしません。」


「エリーナ」


抱きしめる腕を緩めて、眉を寄せたフィニアスがエリーナと目を合わせる。


(やはり怒っていらっしゃるわよね。私が不甲斐ないせいでこんな大事に…)


彼の瞳の奥に、初めて明確な怒りを感じた。

せめてもの贖罪として目を逸らすことはしない。甘んじて受け入れ、必死に金の瞳を見返す。



「!!」


その瞬間、唇が温かな感触に覆われた。



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