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完璧を強いられた令嬢と完璧公爵の甘やかな結婚  作者: いか人参


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47/56

47.舞踏会当日


迎えた舞踏会当日、この日のためにフィニアスから贈られた特別なドレスに身を包んだエリーナは、マリエッタと共に会場を訪れていた。


国王に目通りをする都合上、フィニアス達はひと足先に会場入りしている。色々と段取りがあるらしい。後から落ち合う予定だ。



受付を済ませるための馬車の長い列を横目に、フェルローズ公爵家の馬車は正門を抜けて入り口近くまで進んでいく。家柄のおかげで、警備のための事前確認を免除されていた。



「お姉様…」

「ええ…」


馬車の窓から外の様子を見た二人は、その特別待遇に唖然としている。どう考えても場違いな気がしてならない。怖さを感じたエリーナ達は、無言で手を握りしめ合っていた。



「エリーナ様、マリエッタ様、旦那様方が控え室でお待ちです。」


会場入り口に馬車を横付けし、外から扉を開けたセラが声をかけて来た。彼女は別の馬車で前乗りしており、二人の到着を待っていたのだ。


緊張した面持ちで恐る恐る足を踏み出し、セラに手を取ってもらいながら順に地面に降り立つ。


見上げると目の前の幅の広い階段の先に、天まで届きそうなほど高くて大きな建物がそびえ立っていた。天板を支える太い柱に彫られたレリーフが美しい。それは古典的なデザインで、歴史を感じる重みがある。


その建物の中央に、人の背丈の数倍はありそうな巨大な扉があった。人々を吸い込むように開け放されている。


(うわ、、大きい…)

(とても立派な建物だわ…)


その迫力に目眩を起こしそうになりながらも、冷や汗を隠して微笑を浮かべながら階段を昇り切った。喧騒が近付き、緊張が高まる。


そんな緊張しっぱなしの二人の横を、扇子を手にした令嬢達が優雅な足取りで追い抜いていく。



「見たことのない顔ね。何よあのドレス…パートナーもいないくせに生意気だわ。」

「どうせ成金よ。貴族の地位に浮かれて男漁りにでも来たんじゃなくて?」

「あら、殿方もお金で買えると思っているのかしら。」 

「「「ふふふふふ」」」


通り過ぎる瞬間、エリーナ達のことを好き勝手に揶揄する会話が聞こえてきた。扇子で顔を隠したまま、振り返ってまで侮蔑の視線を向けて来る。



「ちょっと、貴女達勝手なことをっ…」

「駄目よ。」


カッと頭に血が昇り、ドレスをたくしあげて追いかけようとしたマリエッタの腕を、エリーナが掴んで止めた。



「シュヴァルツ様達が待ってるわ。早く行きましょう。」

「………うん。」


嗜めるような視線を向けられ、渋々頷いたマリエッタ。冷静に考えれば、エリーナの言う通りであった。今騒ぎを起こすのは良くない。


そばにいたセラもホッと胸を撫で下ろした。


その後も二人は好奇の視線に晒されながら、フィニアス達が待つ高位貴族専用の2階控え室まで辿り着いた。



「ああ僕の愛しのマリエッタッ………!!」

「ちょっ……んぐっ」


控え室のドアを開ける前に中からドアが開き、放たれたようにシュヴァルツが飛び出してきた。勢いのままマリエッタに抱きつく。それでも着飾った彼女に気を遣い、いつもよりは控え目だ。



「どうした?何か嫌なことでもあった?」


マリエッタの表情を見た途端、シュヴァルツが怪訝な顔をした。


ここまで来る間に何か嫌がらせをされたのではないかと、あらゆる想像が彼の脳内を駆け巡る。そして彼の瞳に狂気じみた仄暗さが増す。


(これはバレたら絶対にまずいやつ……!!)


マリエッタの頭の中に、血の海の中に立つシュヴァルツの姿が思い描かれた。全身に震えが走る。



「何もないって!」


「ほんとに…?嫌なことされたり言われたりしたら、僕が相手とお話してくるからね。何かあったらすぐに言うんだよ?」


マリエッタと視線を合わせてニコニコと微笑むシュヴァルツ。しかし、その目は全く笑ってない。マリエッタの中で警戒音が鳴り響く。



「ほら、デビュタントって最初に踊るんでしょ?早く会場に行かないと!」


「そうだね。早く二人きりになりたいもんね。」


「そうは言ってない!!!」


二人はいつも通り騒がしくしながら控え室から出て行った。


静かになった部屋の中、奥の椅子に座っていたフィニアスが手にしていた書類をテーブルの上に置き、エリーナの元までやって来た。腕を差し出しながら柔らかく微笑む。



「今日は一段と美しいな。そのドレスもよく似合っている。」


「あ、ありがとうございます。」


褒められて動揺したエリーナが床に視線を落とした。呼吸を整えようと試みても、胸は高鳴る一方だ。


(どうしましょう…お世辞でも心が弾んでしまうわ。もうすでに胸が苦しいだなんて…こんなことで1日耐えられるのかしら…)


せめて顔には出さないようにと、赤くなりそうになるのを必死に堪える。



「それと」

「……ひっ」


徐に掴んで持ち上げたエリーナの左手を、優雅な所作で自分の口元に持っていくフィニアス。


(この流れって………)


驚きで息が止まりそうになっている彼女を上目遣いで一瞥すると、指輪に口付けをした。


一瞬で首まで真っ赤になる。今日はデコルテの空いているドレスのため、色の変化がよく分かる。混乱した頭のままフィニアスを見上げた。



「あ、あああ、あのっ…」


「本当はここにしたかったが、今は我慢だな。」


「〜〜〜〜〜〜っ!!」


妖艶な表情で下唇を親指で撫でられ、エリーナの身体に震えが走る。ゾワゾワとした感覚と羞恥心に襲われた。全身が燃えるように熱い。


(フィニアスさまっ…………)


何も言えず真っ赤になりながら、目に涙を浮かべて口をハクハクさせている。それを見たフィニアスが何やら焦った様子で目を逸らした。



「これ以上ここに留まるのは身体に毒だな…。俺たちも行くぞ。」


「…え、ええ。」


まだ頭がぽーっとしているエリーナは言われるがまま頷き、目の前にあったフィニアスの腕を取った。


(落ち着くのよ、エリーナ。冷静に、冷静に、冷静に…)


どんなに唱えても熱が引かない。足音よりも大きな自分の胸の鼓動に辟易しながら、彼のエスコートに従い、控え室を後にした。





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