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完璧を強いられた令嬢と完璧公爵の甘やかな結婚  作者: いか人参


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44.ネルの危機感


新たに用意された部屋は3階にあり日当たり良好で、眺めの良い掃き出しの窓からはバルコニーに出られるようになっている。


ひとつの大きな空間にベッドとソファーセットが置かれ、ウォークインクローゼットも備え付けられている。壁紙や家具は白で統一され、飾りには金が使われており、リネンには花柄が用いられていた。気品ある優しい雰囲気が漂っている。



「いかがでしょうか。」


真剣な表情で室内を歩いて見て回るエリーナに、付き従うネルが感想を伺う。



「とても素敵だと思うわ。私こういうのが好きみたい。」


振り返ったエリーナが満遍の笑みで答えた。

エメラルドグリーンの瞳に光が増し、お世辞ではなく心の底から喜んでいることがよく分かる。



熱が下がってから数日、エリーナはネルと共に自分の引越し先となる新しい部屋の見学に来ていた。


この邸に来てすぐ、内装を整える前に好みを聞かれていたがその時は答えられず、代わりにネルが考えて手配を進めていたのだ。


エリーナの雰囲気に合わせて作った部屋を褒めてもらい、とても晴れやかな表情で頷いている。



「旦那様もお喜びになりますね。壁紙と家具を選んでくださいましたから。」


「フィニアス様が…?」


「あ゛」


故意に口を滑らせたネルが焦ったフリをして口元を抑える。

これで更に意識してもらい二人の仲が進展すれば…と打算の表情でエリーナのことを見上げた。



「き、聞かなかったことにするわ。だからネルも忘れてちょうだい。」


「承知しました。」


窓の外を見ながらしっかりと頬を染めてるエリーナに、内心ほくそ笑むネル。頭を下げながら、見えない位置でガッツポーズをしていた。


取り乱してしまった心を落ち着けようと、エリーナが部屋の調度品に目を向ける。そのどれもが精巧なデザインで、見ているだけで明るい気持ちになれた。



「このドアは何?」


ふと、ベッドの奥にも扉があることに気付いた。部屋の雰囲気に馴染むように造られたドアにはしっかりとした内鍵が付いている。



「そちらは夫婦の寝室へと続くドアですよ。」


「夫婦の寝室…?」


「もちろん、鍵を開けるタイミングはエリーナ様次第で良いですからね!まぁ旦那様はシュヴァルツ様と違って夜這いなどされるとは思いませんが、念の為ですよ。」


「よば……」


そこまで口にしてようやく意味を理解したエリーナ。悲鳴を上げる寸前で息を呑み込み、両手で口を抑えた。



「ふ、ふ、ふうふの寝室なんて、わ、わたしには関係ないわ。ふぃ、フィニアス様だってそんなっ…」


真っ赤にした顔を両手で覆いながら、エリーナがしどろもどろになって謎の弁明をしている。自分でも何を言っているかよく分からなかった。


(これ、男だったら押し倒してますね………)


顔では平然を装いながら、ネルはエリーナのあまりの可愛さに心を撃ち抜かれていた。普段凛とした佇まいをした彼女が見せる隙は、堪らなく魅力的に見える。


胸を抑えたネルが真面目な顔でエリーナを見た。



「分かりました。内鍵をより強固なものに取り替えておきますね。」


「???」


ネルがどうしてそんな結論に至ったのか分からなかったが、特に止めさせる理由もなかったため素直に頷いた。


その日の晩のフィニアスへの定例報告にて、過剰に心配したネルが彼に釘を刺しまくったのは言うまでもない。



同日、いつもと同じように朝からレッスンに励んでいたマリエッタ。休憩時間の今は、一冊の本を読んでいた。

指で文字をなぞりながら丁寧に読み進め、時折りノートの上でペンを走らせている。ページを巡るスピードはかなりゆっくりであった。



「マリエッタ〜〜〜♪」

「…っ」


急に現れたシュヴァルツに名前を呼ばれ、慌てて本とノートを閉じて机の中に仕舞う。そして近づいてくる彼を容赦なく睨みつけた。



「今はお茶の時間じゃないでしょ!勝手に入って来ないでよ。」


「うん、でももっと会いたいんだって。本音を言えば四六時中そばに居たい。」


理不尽に怒られても、シュヴァルツの甘やかな笑みは消えない。



「毎日顔を合わせてれば十分でしょ!今はいいから早く戻って。」


「で、フィアンセの僕に何の隠し事?」


机の前にしゃがみこみ、頬杖をつきながら上目遣いで問い掛ける。顔は笑っているが、形容し難い迫力を放っていた。



「何も隠してなんてないって!」


「あれ?フィアンセってところは否定しないの?焦ってる証拠かな?」


「この意地悪っ…」


にこやかに揶揄ってくるシュヴァルツに、マリエッタが悔しそうな顔で悪態をつく。



「ごめん。僕、動体視力が人より優れてるんだよね。」

「……あっ!」


目にも止まらぬ早業だった。

マリエッタが気付いた時にはもう、机の中に隠したはずの本とノートがシュヴァルツの手に渡っていた。



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