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完璧を強いられた令嬢と完璧公爵の甘やかな結婚  作者: いか人参


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43.誤解


口元に手を当てたフィニアスが瞑目した。彼の纏う空気が僅かに重くなる。数秒逡巡した後、どこか諦めたような顔で口を開いた。



「いや、悪い。その…仮病かと疑っていた。」


「……仮病ですか?」


答えを得たものの話の繋がりが見えず、エリーナの中で困惑が広がる。フィニアスの言葉が何を意図しているか分からなかった。


(もしかして、怠惰な人間だと思われていたのかしら…?)


感情を読み取ろうと瞳に力を込めて見つめるが、ぷいっとバツが悪そうに目を逸らされてしまった。



「その、なんだ…昨日のことがあって避けられているのかと…であれば一刻も早く謝らなければと思い、この通り部屋まで押し掛けてしまった。」


「昨日の……?」


昨日フィニアスとの間に何かあったかと考えを巡らす。


(私、フィニアス様のご迷惑になるようなことを何か…)


「……………っ!!!!」


つい先ほどまで身悶えていたことを思い出した。カッと全身に熱が巡る。むしろどうして今まで忘れていたのかと、考えの至らない自分を全力で呪う。



「ひ、い、いえ、私はそんなっ…嫌とかそのようなことは決して…」


真っ赤になったエリーナが狼狽えながら必死に否定する。熱のせいもあって全身が燃えるように暑い。極度の緊張により口の中が渇き、目の前がぐるぐる回る。



「そうか。」


急に機嫌の良くなったフィニアスが口元を緩めた。1人わたわたするエリーナの頭に手を乗せ、笑みを深める。



「意識してもらえたのなら暁光だ。」

「……っ」


彼女の目線の高さに合わせて、冗談とも本気とも取れる絶妙な声音で言ってきたフィニアス。意味ありげな表情で見つめてくる彼からは、昼間に似つかわしくないほどの色香が漂っていた。


(なっ…こんな時に思い出しては駄目よっ…)


顔が近づくと、つい唇に目がいってしまう。あの時感じた幸福と甘さが脳内を埋め尽くす。そのせいか、目の前の大きな胸板に身を預けたい衝動に駆られた。


(お、落ち着くのよ、エリーナ…)


自分で自分を律する。

こんな欲があったのかと自分に幻滅しながら、冷静さを取り戻そうと必死に堪えて唇を噛み締めた。



「体に障る。ベッドに戻るぞ。」

「……ええ。」


エリーナの中に残念な気持ちが広がる。


(もう帰られてしまうのね…)


そんなことを思う資格はないのに、フィニアスともう少しこのままいたい願う欲深い自分がいたのだ。



「!?」

(えっ)


ベッドに戻ろうとしたはずが、気付いたらフィニアスの逞しい両腕に抱えられていたエリーナ。所謂お姫様抱っこ状態だ。


全身から血の気が引く。



「あ、あのっ…降ろしてくださいませ!こんなことをさせるわけにはっ…」

「病人は黙って言うことを聞け。」

「しかし、それではフィニアス様のご迷惑に…」

「俺がしたいから。そう言えば大人しくしてくれるか?」

「………………っ」

「ふふ。ようやく静かになったな。」


真っ直ぐに見つめられ、恥ずかしさで鼓動が止まりかけたエリーナ。その次には外まで音が聞こえそうなほど、バクバクと高鳴り始める。


(わ、わわ、わたしがこんな、こんなっ…)


羞恥心で瀕死状態になっており、頭が沸騰直前だ。死を身近に感じるほどの恥ずかしさを紛らわせるため、フィニアスの胸に顔をうずめて耐え忍んだ。



「明日も1日寝ておけ。」

「………ひゃっ、はい/// ありがとうございます。」


エリーナのことを丁寧にベッドに横たえると、胸元まで上掛けを引っ張り上げ、優しく頭を撫でてきた。

触れられた体温が心地良く、頭がぼーっとして瞼が重くなってくる。



「!!!」


去り際、エリーナの前髪をかきあげて額に口付けを落とすと、フィニアスは笑みを浮かべただけで何事も無かったかのように部屋から出て行ってしまった。



「………し、死んでしまうかと思ったわ。」


ベッドの中で膝を抱えて丸くなったエリーナが自分の胸を抑えた。そっと額に手を伸ばすと、触れられた部分が燃えるように熱い。また顔に熱が集まってくる。


脈拍の早い鼓動は熱によるものなのか、それともフィニアスのせいなのか分からず、動揺が止まらない。


しばらくの間、茫然としてしまい眠れずにいたのだった。




「なんで僕が人のイチャコラを聞かなきゃいけないんだ…しかもよりによってフィニアス様のをなんて…」


「愛しのマリエッタ様からのお願いなのですから、仕方ないでしょう?潔く諦めてくださいませ。」


「そうだけどさ…」


隣室の使用人部屋に潜んで聞き耳を立てていたネルとシュヴァルツの二人が、声を顰めて言い合う。



フィニアスがエリーナの部屋を訪れるということを偶然知ったマリエッタが、変なことをしないよう監視してとシュヴァルツに縋ったのだ。


無論可愛い彼女からのお願いを無視できるわけもなく、不本意ながらも今に至るという。



「それにしても」


「ええ」


「「あんなフィニアス様は初めてですね(だな)。」」


二人の声が重なる。


噂のせいもあり、誰とも馴れ合わず淡々と仕事だけをしていた孤高のフィニアス。


仕事に手を抜くことはなく、かと言ってやりがいを見出すわけでもなく、感情を動かすことなくただこなしていただけの日々。その結果王家からの信頼は得たものの、側で見れば如何に味のない人生かがよく分かる。


それがエリーナと出会い、彼の人生に光を齎したのだ。彼女にだけは表情が優しくなり、眼差しも声も振る舞いも、何もかもが甘くなる。


そんな主人にの幸せを願わずにはいられなかった。


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