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完璧を強いられた令嬢と完璧公爵の甘やかな結婚  作者: いか人参


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42/56

42.発熱



「熱以外に目立った症状はありません。」


エリーナを診察した医者が言う。

安静にしていればすぐに良くなるでしょうと言い、睡眠と水分を多く取るように伝えて診察を終えた。



あの夜の翌朝、太陽が昇り切ってもまだベッドの中にいたエリーナ。


昨日の疲れかと思いマリエッタは声を掛けずそっとして部屋を出たのだが、後からやってきたネルが体調不良に気付いて医者を呼んできたのだ。



「申し訳ないわ。」


ベッドに横になったまま、エリーナが気落ちした声で言う。

その声を聞き、医者に出したお茶の片付けをしていたネルがベッド脇まですっ飛んできた。身を乗り出して声を掛ける。



「謝ることなんて一つもないですよ!エリーナ様はいつも頑張っているんですから!」


「でもせっかくフィニアス様が…」


エリーナの表情が暗く沈む。


当初ネルは、フィニアスからランチの誘いがあったと言付けを伝えに来ていたのだ。それなのに体調不良で断ることになってしまい、罪悪感で一杯になっていた。



「大丈夫ですよ!食事なんて毎日3回も取るんですから、これから何度だって機会はありますって。旦那様もこんなことで怒ることはありませんよ。」


「……ありがとう。」


ネルの気遣いが嬉しく、素直に礼を言うエリーナ。

促されるままベッドに横になり、首元まで上掛けを掛けてもらった。



「こちらに新しい水差しを置いておきますね。私は隣室に控えていますから、いつでもベルを鳴らして下さい。昼食は果物など食べやすいものを持って行きますね。」


「ええ。何から何まで本当にありがとう。心強いわ。」


「いつでも頼ってくださいね!」


ネルは嬉しそうな笑みを残して、静かに部屋から出て行った。



身体に怠さはあるが、起きたばかりでまだ眠れそうにない。体調を崩したのはいつ振りだろうか…ぼんやりとした頭でそんなことを考える。


(熱を出して寝込むなんて、子どもの頃以来だわ。だって、少しくらいならいつも…)


過酷な環境下で追い詰められて生活していたエリーナは、常に健康とは真逆の状態であった。だが、少し熱があるくらいで休ませて貰えるほど甘くはなかった。


(我慢するのが当たり前で、医者にかかったことなんて無かったわ。仮病だと疑われて折檻を受けたこともあったわね。)


過去を思い返して、今がどれだけ恵まれているのかを思い知り、言葉では言い尽くせないほどの感謝の気持ちが込み上げる。


(フィニアス様にもあとできちんと謝罪をしないと…)


お優しい人だからきっと余計な心配を掛けてしまっているだろうと胸が痛んだ。家のことでも散々迷惑を掛けてきたのに、これ以上負担を増やしたくはなかった。


(それに、昨日のお礼だってちゃんと…)


その瞬間、昨日の夜の光景が蘇った。

フィニアスの足の間に身体を密着させて座り、無我夢中で何度も口付けを交わした、これまでの人生の中で最も濃密なあの時のことを…



「!!!」

(わ、わわ、わたしったら、婚姻前なのにあんな破廉恥なことをっ…淑女としてあるまじき行為だわ。一体どんな顔をしてお会いすればっ…)


今頃になって羞恥心で悶え苦しむエリーナ。


(お願いだから、誰かあれは夢だと言って…)


自分の感情に耐えきれず、無かったことにしようとしたが、忘れようと思えば思うほど、熱を帯びた唇の生々しい感触が鮮明に蘇る。



「〜〜〜〜〜〜〜っ!!」


シーツを頭まで被り、両足をばたつかせている。本当は悲鳴を上げたかったが、誰か来たらマズイと思い、両手で口を押さえて苦しんでいた。




「エリーナ、俺だ。入って良いか?」

「!!」


落ち着いたノックの音と共に聞き覚えのある声が聞こえてきた。思わぬ訪問者に、全身が硬直する。


(ふぃ、フィニアス様がどうしてここへ!?どんな顔で出迎えれば…いえ、そんなことより、お待たせしてはマズイわ。まずはお部屋にお通ししてそれから…あっ、でも夜着のままだわ。早く着替えを…髪もボサボサだから…ああでもそんな時間は…)


考えることがあり過ぎて、完全にパニックに陥っていた。熱のせいもあって上手く頭が回らない。



「エリーナ…?」

「ひゃっ…は、はい、今参りますわ。」


催促の声で飛び起き、寝台のそばに用意されていた上着を羽織る。気の利くネルに感謝しながらドアに向かい、姿勢を正してフィニアスのことを招き入れた。



「お見苦しい格好で申し訳ありません。」


ガウンの前を合わせて軽く頭を下げた。


ここまで小走りで来たエリーナの肩は上下しており、呼吸が浅い。頬は普段よりも赤く、ぽうっとした表情から熱があると分かる。


そんなエリーナの様子を見たフィニアスが安堵の息をついた。



「良かった。」

「え?」


あからさまにホッとした様子に、思わず首を傾けるエリーナ。

何が『良かった』のか全く見当が付かない。不思議に思い、すぐそばにある金の瞳を上目遣いで見つめた。



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