↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
97/102

(この声、どこかで……)

「ここから下に降りるよ」

 取り巻き達の残骸の奥、居住区の裏手側に位置する場所にある巨大な穴の前で立ち止り、晶子は鑪とハーミーズへと振り返った。

「……随分古い施設である故仕方のない事ではあろうが、流石にこの大きさの欠陥を放置しているのは如何なものか……」

「あっいや、まあ……ここに関しては仕方ないって言いますか……」

「は、はぁあああ!?」

 鑪の正論に明後日の方向を見ながらなんと返すか迷っていると、先に中を覗き込んだハーミーズが驚愕の声を上げる。

「シャニーツリーじゃねーか!?」

「なに!?」

 普段とは全く違う荒々しい口調で叫ぶハーミーズの言葉に反応した鑪も穴の中を除き、そこに茂っている黄金色の枝葉を見て絶句した。

「こっ、ここ、これ生きてるガチのやつ!? 少なくとも数百年前には絶滅したって言われる幻の木の!? な、なんでこんな所に!?」

「葉の瑞々しさとこの神々しさ……紛れもなく本物のシャニーツリーである。よ、よもやこのような場で御目にかかれるとは思わなんだ……」

(おぉ、驚きすぎて口調が別人になってるハーミーズおもろ。鑪さんもあんまり見ないガチ焦り……こんな暢気な事思ってる場合じゃないけど言わせて欲しい。おもろ~!)

 普段は見ないような二人の様子に、自分が初めてシャニーツリーを見た時の事を棚に上げてニコニコと微笑む晶子。

「ちょっと晶子! なんでこんなところにシャニーツリーがあるの!? ていうか君これがここにあるって知ってたの!?」

「あ~……、実はこの木、ラニアさんが大昔に人から貰った物なんだって。あたしは前に色々あって教えて貰ってさ」

「え、ラニアが? 貰って……誰に?」

「うん。それ以上詳しい事は何も聞いてないから、誰から貰ったかとは知らないんだけどね」

 特に気にする風でも無くさらりと言ったラニアの様子からして、相手はそれほど親しい間柄でも無かったのかもしれない。

 もしも大切な人から渡された物であるならば、彼女はもっと大袈裟に紹介したであろう。

(そもそも、あの時は~ってか今もだけど、ラニアと仲が良いか聞かれたらビミョーだしなぁ。あっちはあたしを女神の使者だから慕ってくれてるっぽくはあるけど、実際のところそれがどこまで本心かなんてわからないし)

 ラニアが接触してくるのは、必ず晶子が一人で書斎に籠っている時であった。それ以外の場面では語り掛けてくる事は愚か、目線を合わせる事もしない。

 魔道具達に指導する際も、同じ空間にいたとしても近づいてくる事すら無かった。

(ガラクタだのなんだのって口汚く言ってたくらいだから、わざわざ魔道具達相手に遠慮なんてしないだろうし、何考えてんのかマジで謎……)

 晶子がその本心を探ろうとしても、彼女はのらりくらりとそれを躱しては、まるで猫のように気まぐれに去って行く。

(……人間を管理すべきって理由から女神の再臨を願ってんのは本心に違い無いんだろうけど……もっと別の、彼女が一番求めてる何かがあるはず。でも現状、それが何なのか全く分からないのが怖いところよ)

 少なくとも一つ分かっているのは、ラニアは晶子を敬愛する女神の使者だと認めながらも、己の心の全てを明かしていないという事だ。

(行動と言うか、色んなもんが矛盾してるというか……聞かなきゃならない事が多すぎるわ……)

 先んじては取り巻き達がなぜあのような形になったのかを問い質さねばと思いながら、晶子はトンッと軽やかに地面を蹴る。

「晶子!?」

「ちょっと!?」

「二人も早く下りて来て!」

 驚く二人を尻目に重力に身を任せて穴の中へと落ちていく晶子。すると驚くべきことに、まるで待っていたとばかりにシャニーツリーの枝が動いた。

 複数の枝が寄せ集まった事で金色の葉のクッションが出来上がり、上層から降って来た晶子をそっと受け止める。

 足裏から確かに伝わる柔らかな葉の感触と共に潤沢なマナが晶子へと流れ込み、先程の戦闘で蓄積していた疲労と傷を瞬く間に癒してしまった。

「お、おぉ~……まさかこの木、あたしのマナに反応したの? それで受け止めてくれて、しかも治療もしてくれたとか、超絶かしこ、い……」

(んん?? だとしたらちょっと可笑しくないか??)

 そこまで口にして、はたと気付く。

 荒原であっても芽吹き、溢れる程のマナを宿すシャニーツリーだが、それ以外はただの樹木とほとんど変わらないもののはず。ましてや意思や自我のようなものを持っているなど、ゲームの設定でも聞いた事が無い。

(それが今になって、急に動き出して……どうして? ラニアといる時と何が違うの? ……もしかして、ラニア?)

 今現在と初めてシャニーツリーを見た時の違い、それは紛れもなくラニアの存在の有無だろう。

(いやいや、それってありえるの? だってシャニーツリーはラニアが誰かしらから貰った物。世話してたのも彼女だろうし、それならむしろラニアに対して何かしらのアクションを起こさないと変……)

「晶子? どうしたの?」

 足元を見つめたまま考え込んでしまった晶子だが、名前を呼ばれてハッと顔を上げる。

「こんな所で立ち止って、なにかあった?」

「……お主はこの状況を見て、分からぬのか?」

 ふよふよと浮かびながらこちらを心配そうに見るハーミーズに、鑪が呆れたと溜息を吐きながら問いかけた。

「な、なんだよ、何があるって」

「今、晶子と我を宙で支えているのはなんだ?」

「? 何って、シャニーツリー……!?」

 そこまで言って、ようやくその異常さに気が付いたらしいハーミーズがギョッとシャニーツリーを見る。

「元来、シャニーツリーは荒地であっても易々と芽吹き、その樹内に溢れんばかりのマナを溜め込む貴重な植物である。しかし、この木が動くなどとは聞いた事がなく、ましてや自我を得ているような振舞いをするなぞ前代未聞であるぞ」

「た、たしかに……シャニーツリーはただちょっと珍しい性質を持つだけの木だって、ラブライラも言ってた」

(あぁね。ラブライラなら知ってそう)

 この世界の全ての知識を持っていると言っても過言ではない木の英雄であれば、生物の生態や植生に精通していても可笑しくは無いだろう。

 何より、英雄達の知識の大半はラブライラから授けられたものだ。英雄達の半数はそれほど裕福な家庭の出では無く、まともな教育も受けられていない。

 そのため、女神を封印するまでの日々ではラブライラが教師役として彼ら彼女らに勉強を教えていたのだと言われている。

(神樹の新くん対立ルートクリア後にだけ拾える著書『英雄達について』にもそう書いてあったけど、あれって誰が書いた本なんだろう? 著者が載ってないタイプのフレーバーテキスト的な本だったから詳細はあんまり分からなかったし……ちょっと日記っぽく書かれてたから気になるんだけどなぁ)

 WtRs内に存在するテキスト資料は書籍という体をしている事が大半なので、著者が明記されている場合が殆どである。

 しかし、『英雄について』の著書に関しては執筆者が誰なのか、そもそもどうして神樹内部に存在していたのかも不明のまま。

(結構砕けた口調で書かれてたから、鑪さん達とは顔見知りだった人が書いた可能性が高いけど……って、それは良いのよそれは。このシャニーツリーについても、すっごく、ものすっごく気になる所ではあるけれども!! それより先にアルベートんとこよ!)

 現実のゲームでは無かった描写や出来事に遭遇するといつも考えが脱線してしまう己に呆れながら、晶子は下を覗き込もうとした。

 すると晶子が何をしようとしているのかを察したとでもう言うのか、シャニーツリーが動き始め、慌てて姿勢を元に戻す。鑪とハーミーズが追い付いてからもじっと沈黙し静止していた木は、ゆっくりとした動作で枝を下へ下へと下げていく。

(……もしかして、あたしが下を見ようとしたから、わざわざ足場にした枝を下げてくれたの?)

 そっと割れ物を扱うかのようなその動きに、晶子はただただ呆けるしかない。やがて然程の時間もかけず、シャニーツリーは晶子達を私室の床近くにまで下ろしたのだった。

「よっと!」

 鑪、ハーミーズに続いて晶子が降りると、シャニーツリーは何事も無かったかのように元いた位置へ戻ろうとする。

「あ、あの!」

(おわぁ!? つい勢いで引き留めちゃったけど、これほんとに止まって、あ、止まってくれるんだ)

 咄嗟に呼び止めた晶子の声に、シャニーツリーがさわさわと葉を揺らしながら停止した。

 本当に止まってくれるとは思ってもみなかったが、このまま何事も無かったかのように見送るのもどうかと思い、晶子は胸に手を当てて微笑みながら感謝の言葉を口にした。

「飛び降りた時、わざわざクッションを作ってくれたんでしょ? それに今も、降りる手伝いをしてくれた。ありがとう」

 当然だが返事は帰ってこない。それでも関係無いと軽く会釈もした晶子は、そのまま踵を返してアルベートの元へ向かおうとした。

「——んぇ!?」

 が、何かに服の後ろを引かれてつんのめる。なんだなんだと振り向けば、シャニーツリーの枝が一本、晶子の服に引っ掛かっていた。

「ありゃ、いつの間に。待ってね、すぐ外すから」

 そう言って晶子が枝に触れた瞬間、脳裏に声が木霊した。

⦅私達の愛しき貴女⦆

「……ぇ?」

 聞こえて来た少し低めの女性の声に顔を上げれば、服にかかっているものとは別の枝が伸びてきて晶子の頬に触れる。

⦅このような形で、一方的に語らう事をどうか許して。今の私に外界に干渉する力はなく、そして定められた場所から動く事も出来ない⦆

(この声、どこかで……)

 柔和ながらもどこか凛とした雰囲気も持ち合わせている声に、既視感を覚えた晶子。

⦅貴女の助けになりたいけれど、穢れを纏いし者が私を見つけようと躍起になっている今、下手に行動を起こす事が出来ないの⦆

(どこだっけ……結構最近聞いた気がするんだけど)

 喉元に小骨が引っ掛かったような何とも言えない心地になりながらも、どうにか思い出そうと必死に記憶を遡る。

(研究所に来た時点じゃないのは確かだし、かといってこの世界に来てすぐってわけでもない……えぇ~?? どーっこで聞いたんだっけ??)

 眉間を指で揉みながら考え尽くす晶子を気に留める事も無く、シャニーツリーから響く声は尚も話続ける。

⦅なぜなら私は、女神の封じられた聖域へ繋がる唯一の扉だから⦆

(扉……? あ!!)

 女性の声が口遊んだ言葉に、晶子はハッとする。この世界において、唯一現世と女神を繋ぐ役割を担う者の存在を思い出したからだ。

(神樹で常世に堕ちた時に見た夢! そうだ、この声はラブライラだ!)

 基本的にどのシナリオを進めるのかを自由に選択できるWtRsにおいて、一つだけ変わらない事がある。それが、一部を除いたラブライラのシナリオであった。

 もちろん他の英雄と同様、彼女に関連するシナリオもプレイヤー次第では序盤から進めていく事が出来る。

 だが同時に、彼女は最終盤のギミックにおいて重要な役割を担ってもいた。最終ダンジョン『崩壊聖域』への門番であるのだ。

(『崩壊聖域』には、全てのメインシナリオをクリアしていないと入る事が出来ない。仮に最速でラブライラのシナリオを終わらせていたとしても、これだけは絶対に変わらなくて、必然的に各地を巡る冒険をする事になる)

 ラブライラが門番に選ばれた理由がWtRs本編内で詳しく語られる事はない。女神の使いである主人公に友好的であるからとして深く追求する者は少なく、晶子自身もなぜか気にした事は無かった。

(でも今なら理解できる。ラブライラも女神と和解した内の一人。この世界の裏事情を知ってるんだから、門番を引き受けてても変じゃない。なんで今まで疑問に思った事なかったんだろう……いつものあたしなら、もっと深く世界観について考察してたはずなのに!)

 これも淀みの精霊の妨害なのかもしれない、そんな事を考えていた晶子の頬を再び枝が撫ぜた。

⦅あまり時間がない。聞いて、女神は今、穢れを纏いし者から身を隠すために貴女に応答する事が出来ない。もしあの方が穢れを纏いし者に見つかれば、問答無用で取り込まれ、世界は貴女の介入を待つことなく滅びに向かうでしょう⦆

(っ……、だから、女神はこっちの呼びかけに答えないのね)

 声が語る女神の現状に、晶子は眉を顰める。神樹で晶子に接触して来たのは、恐らく晶子を使って女神へ繋がろうとしていたという事だろう。

(精霊は、女神と人間達との戦争が起こるずっと前に封じられてる。おまけに戦争終結の瞬間に魔力放流が起きたせいで世界がしっちゃかめっちゃかになっちゃったから、女神が封印された場所を正確に把握出来て無いんだ)

 正しく、不幸中の幸いというやつである。しかし、封印のせいで女神の力が弱まっている今、そう楽観視する事は出来ない。

⦅私も、本当は貴女に言葉を届けたい。貴女と沢山の語らいをしたい。けれどそんな事をすれば、奴に居場所を特定されてしまうかもしれない。己の足で逃げる事が出来ない私では、すぐに殺されてしまうわ⦆

(ラブライラは唯一非戦闘系の英雄だもんね……WtRsでも、本人が仲間になるんじゃなくてラブライラが魔法で生み出した司書さんが参戦するし)

 なお、この司書にも特別な会話イベントがあるのだが、ここでは割愛する。

⦅私達の愛しい貴女。こんな事を無責任に言う私を許して欲しい。でもどうか、急いで。一刻も早く他の英雄達と邂逅し、彼等と絆を結んで。そして————彼らと共に、私の元へ会いに来て⦆

「そ、れって……」

 伝えられた言葉に声を震わせると、頬を撫でていた枝が晶子の胸元を突く。すると、服の中から一人でに、鑪から贈られたカイヤナイトの縁石のペンダントが浮かび上がった。

「縁石が——」

⦅これは、私と貴女を繋ぐ縁の一つ⦆

 枝先が優しく縁石に触れると、カイヤナイトの周りに幾つかの銀色の蕾が膨らんだ。それらはやがて柔らかく花開くと、鮮やかな紫色の花弁が広がった。

「この花……ラベンダー、かな?」

⦅でもこれだけでは、私の元に辿り着く事はできない。これはあくまでも、私と貴女の繋がりを示す物。隠された道を見つけるには、正しき道を歩む事の出来る導き手が必要です⦆

 今度こそ離れていく枝が囁いた単語に、晶子はすぐ誰の事を言っているのか察しがついた。

「やっぱり、イグニスに会わないとといけないのね」

⦅どうか彼の人、焔の導き手の元までまで辿り着いて⦆

 名残惜し気に、手放したくないと言いたげに枝を引くシャニーツリーに、晶子は思わず手を伸ばす。

⦅そして——私に会いに来て、最愛の人。私達の……私の青い薔薇⦆

 最後にそう一言残して、シャニーツリーはまた物言わぬ木へと戻っていった。

(……最愛、に青い薔薇、ね。ラブライラがどういう意味であたしをそう呼ぶのかは分からないけど、期待には応えないと)

 愛らしい装飾が施されたばかりの縁石に触れながら、晶子は真っ直ぐとシャニーツリーを見上げる。

「——、——こっ。ねぇ、晶子ってば!」

「あぇっ!?」

 肩を揺さぶられながら至近距離でかけられたハーミーズの声に、意図せずびくりと肩を震わせてしまう。

「ご、ごめん、どうしたの?」

「どうしたの、じゃないよ。そっちこそ急に立ち止まってぼうっとしてるから、何かあったのかと思って」

「衣服に引っ掛かっておった枝を外した途端呆けておったが、何かあったか?」

「え」

 いつの間にか背後にいた鑪達に、晶子は言葉を詰まらせる。どうやら、ラブライラは晶子にのみ語りかけて来たようで、彼らは一切何も知らないようだ。

「む? その縁石、何やら装飾が変わっておるように見えるが……それに、えらく懐かしき気配も」

 胸元に輝く装飾品の変化に目敏く気付いた鑪の言葉に、晶子は思わず頭を抱えながらしゃがみ込んだ。

「……あ~……なんっでこう、次から次に色々と起きるんかねぇ……」

 深く深く溜息を吐き出す姿に、何が起きたのかさっぱり分かっていない鑪達は顔を合わせて狼狽えていた。しかし、今はそんな事はどうでも良いと、晶子は再度大きな溜息を吐いて立ち上がる。

「ちょっと今、ラブライラから交信があって」

「え、ラブライラから!?」

 晶子の口から出て来た名前にハーミーズが驚愕に目を見開いた。鑪の方も長い間音沙汰のない友人からの接触に、少々困惑気味の様子。

「いつの間に……彼女はなんと?」

「穢れを纏いし者のせいで女神と交信出来ない事とか、他にも色々。でも、その穢れを纏いし者に居場所を勘付かれないようにってんで向こうからの一通念話だったし、あんまり詳しくは聞けなかった」

「穢れを纏いし者……淀みの精霊か?」

「そこまでは聞けなかった。はぁ……これに関しては、こちらから連絡する手段がない以上どうする事も出来ないわ。今はまず、目の前の問題を解決する為に動きましょ」

 そう言って、晶子は部屋の奥にある机の周りを飛び回る天使型魔道具と、それを追いかけるアルベートの方へ歩き出した。

「ちょ、おいコラ、待てって!!」

「~! ~~!!」

 制止を促すアルベートに対し、天使型魔道具は両腕で抱えた何かを守るように首を振りながら逃げている。

 そのせいで視界が狭まっているおかげか、晶子には気が付いていないらしい。

(お、それなら)

 晶子はこの好機を逃がさぬよう、気配を消して天使型が飛んでくるであろう地点に立つと、そのまま胸の中に飛び込んできた形になった魔道具を捕まえた。

「はい、鬼ごっこはおしまいね」

「~~! ~~!!」

「ごめんね、でもあたし達は君の持ってる本が見たいの」

 いやいやと駄々をこねるように暴れる天使型魔道具をあやしながら、晶子は腕の中に大事に抱えられている一冊の本を渡して欲しいと頼み込む。

 だが魔道具はそれを全力で拒否し、頑なに手放そうとはしなかった。

「そうだよね、それは大事な——ラニアにとってとても大切なものだもんね」

 ラニアの話題に出した途端、魔道具はピタッと動きを止めた。

「あのね、あたし達はラニアを傷付けようと思ってる訳じゃ無いんだ。ただ、本当の事が知りたいだけなの。この施設に隠された真実を、そして……ラニアが何をしようとしているのかを」

 静かな晶子の声に、魔道具はどこかそわそわと落ち着きなく周囲を見回し、何かを迷っているようだった。

「あたしを信じて。ね、お願い」

 無言で見つめ合う一人と一体。どれ程の沈黙が流れたのか、先に折れたのは魔道具の方だった。

「……~♪」

「! ……ありがとう!」

 晶子は差し出された本を受け取ると、早速本を開く。

「……はぁ、こんな嬉しくない予想的中とか、マジ勘弁してほしいわ……」

 そこに書き込まれていたのは、晶子の想像していた通りの情報と、とある少女が一生涯を費やして行った数多くの実験記録だった。

次回更新は、8/21(金)予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。