「離さない」
「ほんっとうに、ごめんなさい!!」
途中で修繕作業をしていた鑪を拾い中枢まで来た晶子達は現在、両手を合わせて勢いよく頭を下げるゼファーに面食らっていた。
「ちょ、ちょ! どうしたのゼファーちゃん!? 頭を上げて!」
「そうはいきません! 元はと言えば、この人が鑪様に余計な事を言ったのが発端だったみたいですから!!」
「い、いだだっ! 痛い! ゼファー痛いって!!」
その傍らには今回の騒動の原因になったらしいハーミーズが、太いケーブルのような物数本で押さえつけるように頭を下げさせられている。
相当な力で圧をかけられているのかハーミーズは半泣きで泣き言を零しており、しかしゼファーは一切手加減する様子はなかった。
「ちゃんと反省して! 元はと言えば、貴方が鑪様を煽るような発言をしたのがいけないのよ!?」
「ちょっと昔みたいに揶揄っただけじゃん!! なのにあんなに怒るとか、この数百年で一層短気に磨きがかかったんじゃなぎゃっ!?」
さも自分は悪くないと言わんばかりな態度で再び悪口を言い出したハーミーズを、今度こそケーブルのような何かは床に圧し潰した。
「これ……大丈夫?」
「加減はしてあります。それにこの人、案外頑丈だからこの程度じゃ大した怪我もしませんよ」
「僕の扱い、日に日に悪くなってない……?」
「自業自得よ」
自身を拘束するケーブルから何とか逃れようと試行錯誤するハーミーズを尻目に、ゼファーはもう一度鑪の方を見ると、改めて謝意を口にした。
「素直にごめんなさいも言えない人だから……代わりに何度でも謝らせてください」
「否……其方がそう畏まる必要は無い。それに此度の事、例え彼奴の挑発が大本の要因であったとしても、我の成した行動を正当化出来るものでもなし」
言うなり、鑪は丁寧な仕草でその場に正座し、流れるような動きでゼファーに土下座したのだ。
「其方等の事情すら聞こうともせず、ただ一方的な暴力で制しようなど武を志す者として有るまじき行為。この度は誠、申し訳なかった」
「ひ、ひぇええ~!! あたまをあげてくださいぃ~!!」
名の知れた英雄に頭を下げさせている事が恐れ多いのか、ゼファーは情けない悲鳴を上げた後、あわあわと鑪に頭を上げるよう懇願する。
それでも中々顔を上げない鑪に困り果てている様子を見て、晶子は知らず知らずのうちに眉間に皺を寄せていた。
(……こういう所、この人の悪い所よね。ゼファーちゃん困ってるし、助け舟出すか)
「……鑪さ」
「はぁ~!? 僕と鑪とで対応に差が有り過ぎじゃない!? 納得いかないんだけど!!」
晶子が口を開こうとした瞬間、ハーミーズの批難の声によって遮られてしまった。
「なんで僕のちょっとした悪ふざけはダメで、こいつのやらかしは良いわけ!? 可笑しくない!?」
「ちょっとハーミーズ!!」
「だってそうでしょ!? い~~~~~~~~っつもみんなこいつの味方ばっかりして! こいつはお世辞も慰めも大して言葉に出来ないくせして、正論だけは的確に言って来るし!」
そう言って、ハーミーズは鑪を睨む。
「今回だって、魔道具達を傷付けたのはこいつの方なのに、なんで簡単に許されてるのさ!? 悪いのは全部こいつでしょ!?」
「だから、そもそも事の発端を作ったのは貴方で……!」
「でも変じゃん!! 手を出したのはあっちが先なのに!!」
(これ、変なスイッチ入ったな……)
ゼファーにすら噛みつきはじめるハーミーズに、晶子は考えを巡らせ始める。
元々、ハーミーズが鑪と犬猿の仲だというのは前の世界でも良く知られている話だ。自由を愛する奔放な性格のハーミーズと、真面目を形にしたような武人の鑪。正反対の二人が互いを嫌い合うのもある意味仕方のない事だろう。
だが、鑪を睨むハーミーズの目を見ていると、どうもそんなに単純な話ではないように思えてくる。
「大人はいつもそうだ。僕達子供が何を訴えても、誰も耳を傾けてくれない。なのに自分達に都合の悪い事が起きたら僕達が悪いって一方的に攻め立ててくる。詰って、殴って、時には言葉にするのも悍ましい事をされて……それでもこの世界で生きていく為に、僕達は大人に縋っていくしかなかった」
憎々し気に開眼された翡翠色の瞳。けれどその瞳が見ているのは、決して鑪の事では無かった。
「だから僕は、僕達は戦った。懸命に、死に物狂いで藻掻いて、足掻いて、そうして自由を手に入れた! けれど、そうして飛び出した外の世界は、僕達が押し込められていた檻の中と何も変わらなかった。いつだって世界は大人を中心に回ってて、子供の一生懸命な叫びにちっとも耳を傾けてくれない! そのせいで皆、みんな死んだ! お前達のせいでみんな死んだんだ!!」
「ハーミーズ……」
歯を食いしばって血反吐を吐きそうな勢いのまま捲し立てる姿は、大人への嫌悪を露わにしている反面、得体の知れない影にずっと怯えているようにも見えた。
それはきっと、ハーミーズの心が過去に捕らわれている事を示していて——。
「……ゼファーちゃん。ケーブル、退かしてあげて」
「晶子様! でも……」
強引に拘束から抜け出そうと暴れはじめるハーミーズを抑えようとするゼファーを制し、晶子が頼み込む。
今の彼が冷静さを欠いているのは分かっているようで、危険だと言いたげなゼファーだったが、晶子はそれも全て分かったうえで拘束を解くよう無言で彼女を見つめた。
「……分かりました。晶子様を信じます」
「ん、ありがとね」
「おい晶子、大丈夫なのか?」
まだ納得がいっていなさそうな表情を浮かべるゼファーに微笑む晶子に対し、アルベートが不安げに問いかけてくる。
「あたしに任せてよ。だから、誰も手を出さないでね」
言外に口を出すなと圧をかければ、いつの間にか上体を起こしてハーミーズをじっと見つめていた鑪の手が、傍らに置かれていた武器から離れていった。
「……無理はするな」
「わかってます。それに無理とか無茶とか、彼らの事に関してあたしがそう思う事なんて一切ありませんから」
鑪からの心配を一刀両断した晶子は、何か言われる前にハーミーズへと近づいていく。
「どうして僕達がこんな目に合うの? どうして僕達ばかりが痛い思いをしなければいけないの!? どうして、どうしてどうしてどうして!!」
強い憎悪と意思によって紡がれる言葉は鋭利な刃となり、やがてそこから淀みが生まれる。ハーミーズの全身に纏わりつくようにして溢れてくる淀みに思わず顔を顰めるも、晶子は何も言わず、彼と鑪の間に割り込んだ。
「……ハーミーズ」
「ずるいずるいずるいずるい!! 大人はずるい! 大人は卑怯だ! 卑怯で卑劣で汚くて、都合の悪いモノは見ないふり! どうしてそんな奴等が何事も無く暮らしていて、何もしてない僕達が惨めな思いをしなきゃいけないんだ!?」
「ハーミーズ」
名前を呼んでも、憎しみに心を蝕まれ正気を失っている彼には届かない。恨み言を吐き続ける口が止まる事は無く、しかしその瞳に晶子個人を映している訳ではない。
何故なら、それらハーミーズが抱く負の感情の全ては、世に生きる大人達全てに向けられたものだからだ。
(これも全部、ハーミーズが今まで抱えてきたものなんだろうな)
暗く辛い過去は、何時まで経ってもハーミーズの心を蝕み続けていたのだろう。平素の口調すら忘れる程に怒りに身を任せ、あまつさえ自分の大事で大切な存在であるゼファーが無条件で許そうとしているのは毛嫌いしている大人の男。
それらはきっと、幼かったハーミーズを執拗に痛めつけ、屈辱的で嫌悪しか感じない行為をしてきた相手と瓜二つなのだろう。
だからこそ、彼は受け入れられないのかもしれない。自身が憎んで憎んで憎み足りない相手と同じ体格や性別を持つのに、どこまでも高潔で、真っ直ぐに己自身を見つめてくれる鑪の事を。
(きっと、頭ではちゃんと分かってるんだ。鑪さんが今まで出会って来たような大人とは違う存在だって。でも……長い間受け続けて来た非道を忘れる事は出来ないだろうし、心の傷は簡単に癒えない)
(はぁん? つまりなんだ、この詩人の坊ちゃんが鑪に噛みついてくんのは、一種の試し行動ってわけか?)
(そうだと思う)
脳内で話しかけてきたアルベートにそう返しながら、晶子は彼と初めて対面した時の事を思い出していた。
晶子の事を信じると言いつつ、何度もしつこいくらいにこちらを煽るような発言をしたハーミーズ。
あの時に晶子にしていた事を、これまでもずっと鑪や他の英雄達にも行って来たのだろう。
そしてそれを、他ならぬ英雄達は理解していたはず。そうでなければ、今こうして鑪が沈黙を保ち、ハーミーズの暴言に晒されるままになっているわけがない。
(大人としてってのもあるだろうけど……鑪さんには、ハーミーズが傷だらけになりながらも懸命に周囲を威嚇して自分を守ろうとしている小動物みたいに見えてたのかも)
(あぁ……こいつなんも言わねぇけど、確かにあり得るな。体格やらの問題で怖がられる事が多すぎて、自分からどう接すれば良いか分かんねぇってのはあるみたいだが、元来は子供好きで世話焼きな性格なんだろうよ)
神樹で子供達に群がられた時も、鑪は邪険にするどころか何だかんだと世話を焼いていた。気が付けば鑪は有翼族の子供達にとって善き遊び相手となり、いつも誰かしらを肩に座らせていたように思う。
(鑪さん、ハーミーズの破滅的な自己犠牲に気が付いてたのかな。だからずっと気にかけてたのかも)
そんな鑪だからこそ、ハーミーズはどうすれば良いのか分からなかったのかもしれない。
(今まで出会って来た大人は、いつも子供から搾取する者達ばかり。そういった中で出会った鑪さんって大人は、大人不信を通り越して人間に嫌悪感を抱いているハーミーズからすれば異質に映っただろうな。けど……)
結局のところ、過去の経験と未体験の優しさにどうすれば良いのか分からなくなったハーミーズがとった行動は、鑪との仲を悪化させるものでしか無かった。
晶子はハーミーズの前にしゃがみ込むと、真っ直ぐと彼の瞳を見つめる。そうしていても一切視線が合わないのを少し悲しく思いながらも、晶子は無言で片手を上げ、ゼファーに拘束を解くよう合図を出す。
ゼファーは一瞬その意図を読み取れず困惑したようだったが、すぐに意味を理解し、少し躊躇したあとおずおずとケーブルを下がらせた。
その瞬間、まるで弾かれるようにして起き上がったハーミーズが鑪へ向かって一直線に掴みかかろうとする。しかし、それを真正面にいた晶子が抱き留めて制した。
勢いを殺せなかった晶子は、腕の中で暴れるハーミーズごと尻もちを着きながらも、決して彼を抱き締める腕を緩める事はしなかった。
「っ、くそっ、放せ、放せよ!!」
「離さない」
再び拘束された事に腹を立て、晶子の背を何度も殴るハーミーズ。だがWtRs物理ステータス最下位と言われるだけあり、彼の攻撃は痛くもかゆくも無かった。
物理的な痛みは無かった、けれども晶子の胸は、今にも張り裂けてしまうのではと思う程の激痛に苛まれていた。
「あたしには、君の痛みも、苦悩も、恐怖も、全てを理解してあげる事は出来ない」
尚も解放しろと吠え続けるハーミーズの耳元で、晶子は囁く。時折とん、とん、と心臓の鼓動のような一定のリズムで背中を叩き、藻掻く動きに合わせるようにして体を揺らしながら、寝物語を語る母親のように晶子は続けた。
「君の言った通り。大人はずるい。何でも手に入れて、何でも出来て……そのくせ、その手に入れたものを自ら捨ててしまう。大事だなんだと口にしておきながら、都合の良いように扱っていらなくなったからさようなら。ほんっと、いやんなっちゃうよね~」
そう言った晶子の口調はまるで会社の同僚と愚痴を言い合うよう。他人事のような言い草が癪に触ったのか、今の今まで鑪に向けられていたハーミーズの敵意が晶子へと移った。
「そうやって、他人事みたいに同情しやがって! どうせあんただって僕達の事を見下して、心の中じゃ笑ってるんだろ!?」
「そんな事思ってないよ」
とん、とん、とん、とん。晶子はあくまでも冷静に、声を荒立てずに言葉を返す。
「辛かったねって、苦労したんだねって、あんただってそう思っただろ!? だからこうして僕達に優しくするんだろ!? そうしてれば僕達は簡単に心を開いて寄って来るって知ってるから!!」
「そう思わなかった事がないとは言わない。そこは否定しないし、出来ない。でも、だからって打算的な考えで君達に近づいたわけじゃない。あたしは、君達だからもっと仲良くなりたいって思ったんだよ」
とん、とん、とん、とん。どれだけ辛辣に罵られようと、晶子は決して彼を否定しない。
「仲良く? ははっ、世間で英雄と持て囃される僕に媚びを売っておこうって思ったの? だったら残念~、僕にはそんなの効かないよ!!」
「そうね。君は薄っぺらい上辺だけの言葉なんかすぐに見透かしてしまうよね。だからきっと、あたしのこの言葉が嘘なんかじゃ無いってきちんと分かってるはず」
とん、とん、とん、とん。晶子の答えに、ついにハーミーズは黙り込んだ。
(……とまあ、少し落ち着かせたのは良いものの、ここじゃこの子も話し辛いだろうしなぁ)
溜まりに溜まった鬱憤は吐き出させるのが一番の解決法だが、ゼファーや鑪のいる前では零したくない本音もあるだろうと考えた晶子。
ハーミーズが途中で癇癪を起してしまった為に本題に入る事が出来ていないものの、情緒不安定になっている彼を放置して話を進めようとは思わなかった。
(ハーミーズ、小さいなぁ)
腕の中に閉じ込めた体を強く抱きしめて、晶子は漠然とそんな事を思う。
成人男性の平均と比べても、ハーミーズはかなり小柄であり、晶子よりも頭一つ分小さい。故にそこまで体格ががっしりしている訳でも無い晶子でも易々と抱えることが出来た。
「ごめん、ちょっと出てくる」
晶子はそのまますっと立ち上がると、そう一言告げて部屋の入口まで歩いていく。
「え!? は、話しがまだ……!」
「その話ってのは、鑪とハーミーズの喧嘩の事だろ? だったらとりあえず俺様達で話を聞くからよ」
驚き引き留めようとするゼファーをアルベートが制し、さっさと行けと言うように手を振った。
少々雑な扱いに苦笑したが、なんだかんだこちらのやりたい事を素早く理解してくれるアルベートに感謝しつつ、晶子はそのまま中枢を後にする。
「上、は他の人達いるから、この階の外郭辺りでも歩こっか」
返事が返ってこない事は百も承知なので、晶子は大きな独り言を呟きながらゆっくりと歩く。
上階と比べても比較的しっかりとした造りをしているからか、最下層であるこの階の外郭は壁崩れも殆ど無い。それでも幾つかある罅割れの間から時折垣間見える空の青さと灰色に渦巻く巨大な風の壁に、晶子は思わず目を細めた。
「ほら、今日もいい天気だよ。風も穏やかで、ちょっぴり竜巻の音が響いてきてる」
遠くから聞こえてくる風の音に耳をかたむけながら言えば、ハーミーズがもぞもぞと身動ぎし、晶子の肩越しに外の方へと視線を向ける。
「……どうして、君は僕に優しくするんだい?」
「あたしがハーミーズを信じてるって以外に理由なんか要る?」
「っ」
問われた言葉の意味を図りかね、疑問を投げ返す。それは純粋に、心からそう思っての返答だった。
「あたしとハーミーズはさ、まだ知り合って大した時間も経ってないし、まだまだお互いに言ってない事も多いと思う。けどさ、君がここの魔道具達を何だかんだと気にかけてる事も、人間達をさり気なく助けてる事も知ってるよ」
「うっ……気付いてたんだ……」
「てか、上に住んでる人達も結構知ってたみたいよ?」
「え゛っ」
ばっと音がしそうな勢いで体を起こしたハーミーズ。その顔はほんのりと赤くなっており、見開かれた目は動揺に揺れ、口ははくはくと開閉を繰り返していた。
「転んでお気に入りのお人形を下層に落して泣いてた子供の為に、わざわざ風魔法を使ったんだって? お人形が自分から戻って来たみたいにしたのは良いアイデアだと思うよ」
「だっ、は、んん!? えちょな、い、つから!?」
「落ち着け」
動揺し過ぎて言葉が途切れ途切れになっているハーミーズに苦笑しながら、晶子は落ち着かせるために再び背中をとんとんと叩く。
あやされているような仕草に流石に気恥ずかしさを感じたようで、ハーミーズは晶子の肩口に頭を寄せると、額をぐりぐりと擦りつけた。
「うぅ~……周りにバレてたのもいたたまれないけど、それよりも子供扱いされてる事実が地味にきく……」
「何じゃそりゃ。ま、それは一旦置いとくとして。あたしはそんな風に誰かを助ける行動を取れる君だから、信じたいと思ってるんだよ」
「だから優しくしてくれるのかい?」
ハーミーズは肩口から少しだけ顔を上げ、上目遣いで晶子を見た。先程から開かれたままの翡翠色の瞳は、何かを期待するように揺れている。
「それもあるけど……一番は君がくれた言葉かな」
「僕?」
「『君が僕を裏切らないって確信がある』って」
「!!」
初めて邂逅した時にハーミーズが晶子へ送った言葉。穏やかな表情で笑った彼のその一言が嘘偽りのないものだという事を、晶子は知っている。
「君は賢くて、聡い。そして誰よりも、責任感があった。ううん、責任感が強すぎちゃったんだね。自分が先頭に立って、誰よりも早く、誰よりも先に進まなきゃ、飛んで行かなきゃって。君を頼りにしてくれる子達の期待に応えようと血反吐を吐くような苦労をして」
「……別に、頼られたからじゃない」
晶子の言葉をハーミーズが小さく否定した。
「ただ、一生懸命だっただけ。生きていく為に、生き抜く為に。僕はまだ、家族との思い出があった。平凡で、なんにもなかったけど幸せだったあの牧草地に帰りたいって気持ちがあった。だから他の子と比べて、ほんのちょっと生きる希望を強く持てた。でも、僕以外の子供達はみんな、親に捨てられたり、帰る場所がない子ばかりだった。そういった子達に、この施設はあまりにも無慈悲で残酷な場所で……だから、僕がやるしか無かったんだ」
心に積もった重りを吐き出すように、ハーミーズはぽつぽつと話始める。
「僕、がんばったんだ。仲間を集めて、作戦を考えて、何度も何度も念入りに準備して……。けれど、結局は全部ムダだった。どこからか僕達の行動が漏れてて全部筒抜けで。気付いた時には、仲間の半分以上が命を落とす事になってた。そんな中でも数人を連れて辛うじて逃げ出せはしたけど……結局、生き残ったのは僕だけになっちゃった」
唇を噛みしめて、ハーミーズは泣き出しそうなのを必死に堪えていた。その姿があまりにも痛々し過ぎて、晶子まで泣き出してしまいそうだった。
「みんな死んだ。僕のせいだ、僕が自由を求めて彼らを扇動しなければ、今もみんな生きていたかもしれない」
「でも、もし仮にハーミーズが彼らと施設を逃げ出そうとしなければ、子供達はただただ無意味に命を浪費されるだけの存在になっていたのよ?」
もしもハーミーズが行動を起こさなければ、子供達は理不尽な人体実験の素体にされ、言葉にするのも悍ましい事をされていたに違いない。
「ハーミーズがやった事は間違いじゃない。確かに足りない部分や爪の甘かったところはあったかもしれないけど、君はみんなを救う為に十分頑張ったじゃない。だからもっと、自分を褒めてあげて。自分の事、許してあげて」
ハーミーズが大人達を毛嫌いする理由。当然、過去に酷い扱いを受けていた事が大きいのだろうが、その最たる理由は仲間を守れなかった罪悪感によるものなのかもしれない。
「君のかつての仲間も、友達も、きっと君の事を恨んだりしてないと思うな。最期は苦しむ結果となってしまったのかも知れないけれど、それでも自由をかけて挑んだ事全てが無駄な訳じゃ無い」
「でも……」
(ここで「でも」って言えるんだから、やっぱりハーミーズは責任感が強いんだよ)
「そうだなぁ……それじゃあ、あたしが許すよ。君が自分を許してあげられるまで」
晶子は柔らかく微笑んで、肩に乗せられているハーミーズの頭をそっと撫でた。
(おぉ、初めて触った時もちょっと思ってたけど、やっぱ葉で出来た髪ってすべすべしてて手触りが良い。おまけに爽やかな匂いもして~って、これじゃ変態臭くない??)
人とは違う独特の心地に感心しながら、頭に過った二文字にハッと我に返る。あまり撫で続けても不快に感じるかもしれないと手を止めようとした晶子だったが、その瞬間、まるで続きを強請るようにハーミーズが無言ですり寄って来た。
「え」
「……」
驚いてつい出てしまった声に反応する事も無く、ハーミーズは顔を隠すように晶子の首に腕を回す。
そのいじらしい行動に晶子はくすりと笑うと、もう一度頭を頭を撫でるのだった。
次回更新は、5/1(金)予定です。




