電話
帰宅すると子犬に水を与え、2階に上がり速攻図鑑を開いた。
確かに、綾瀬の言うとおりの花の名前で少し悔しい思いをしつつ携帯を取り出した。
今の時間を腕時計で確認すると、主婦が少し手が空いていて電話するにはちょうどいいくらいだ。
電話帳をひらいて『母親』と書いてある画面を見る。
電話をするボタンをなかなか押すことができず、ベッドに横になった。
実の母親に何て電話すればいいんだろう。
ベッドに寝そべりながら携帯画面を眺める。
そのとき突然携帯からメールの着信音が鳴り僕は携帯を落とした。
ビックリしたと思いながら携帯を拾うとメールの相手は母親だった。
僕は恐る恐る受信メールを確認する。
そこには、たった一言『わすれな草』と書かれていた。
最初に送った花の名前だ。
僕は妙な気持ちになり一度携帯を伏せる。
見ていてくれていたのだ。
僕のメールを見ていてくれていたのだ。
僕は再度携帯を見ると今度は母親へ電話をかけた。
『もしもし・・・』
久々に母親の声が聞こえた。
少しぎこちない声。
「もしもし。お母さん瓜生だけど」
僕もなんだかつられて、ぎこちなく答えた。
「今電話大丈夫?」
『えぇ、今ちょうど一段落ついたところで。それよりも、えっと、なにか、その、学校の書類とか何か不備でも?』
母親はたどたどしく僕の電話を不思議がるように少し強張った声。
「ううん。そうじゃないんだ。ただお母さんの声が聞きたくなったんだ。毎日僕のメール見てくれてたんだね。ありがとう。」
『・・・・・・』
僕はちょっと照れくさそうに言うと、母親は無言になった。
仕方がない、ずっと話なんてしていなかったのだから。
そんなとき、子犬が僕部屋に入ってきてベッドの上に上がると構ってほしいのか鳴いた。
『今、犬の声が聞こえたけど』
「そうなんだ。子犬を飼い始めたんだけど、名前まだ決まってなくて。何がいいかなぁって思ってるんだよね。何が言いと思う?」
僕は子犬を撫でると大きな欠伸をして丸まって寝る姿勢になる。
『え・・・。ポチとかそういう・・・』
「やっぱりそう思う?」
笑いながら僕は答えた。
やはりどんな形でも親子だと実感をする。
僕と同じことを答える母親に嬉しく感じた。
『・・・瓜生。あなた変わったわね。』
「そうだね。僕もそう思う。もっとお母さんのこと知りたいと思ったよ。」
母親の小声に僕は同意した。
綾瀬と出会う前の僕なら子犬の話なんかしなかっただろう。
そして、母親を知りたいなんて言わなかっただろう。
そのあと数時間母親と日常生活の話をした。
人と話すことがこんなにも嬉しいと思ったのは綾瀬以外初めての出来事だった。
母親に、また連絡するよっと伝えると電話を切った。
そのあと夕食の準備として、いつもはただただ見ていたワイドショーが楽しく見れた。
子犬は、そんな僕に尻尾をふって寄り添ってきて同じベッドで睡眠をとった。




