笑顔
そして、いくつか花を摘むとシートの場所に戻り座った。
「この気持が『楽しい』というんだね。」
「そう『楽しい』ていうの。私は今とっても楽しいわ。」
ブーケのように花を綺麗にもつ綾瀬が笑った。
その笑顔が、とても眩しくみえ、手に持っている花がとても似合っていた。
「ありがとう。」
僕の心が綾瀬と出会ってから、どんどん温かさで満たされていくのを感じた。
「何が?」
「いや、なんでもないよ。」
首を傾げる綾瀬を僕は見た。
「ひどい。教えてよ。」
綾瀬は僕の目を見る。
「今日は目をそらさないのね。」
「え?」
綾瀬は唐突に僕に対して真剣な顔をする。
僕は、その言葉の意味が分からず困惑した。
「今まで、私が目をみると長い時間見ないというか、そらしたりしてたから。」
僕は慌て目線をそらそうとしたが綾瀬は手でそれを拒んだ。
「そらさないで。」
花を思った状態で僕の顔に手をそえている。
じっと僕の目を綾瀬は見続け、手に持っていた花の香りが鼻腔をくすぐる。
色々な花の匂いがする。
「どうして、目をそらすの?」
「それは・・・。それは、今まで人の顔を見て話す機会なんてなかったから。」
僕は少し素直に伝えると綾瀬は少し考えた後おずおずと質問してきた
「そんなに優秀な人なのに、恐いものがあるの?」
綾瀬は僕にまるで恐いものがないかのように添えていた手を離す。
「まぁね。というか僕に恐いものが無いって僕をなんだと思ってるの?」
なんだか面白い気持ちになった。
そのとき、綾瀬の瞳に写る僕の顔を見た。
今まで見たことがない顔が映っていた。
「その顔。それが自然の笑顔・・・」
綾瀬はジッと僕を見ると小声で呟き勢いよく立ち上がった。
花束を僕の上にパラパラと落とす。
「花が雪みたいに見えて綺麗でしょ?」
綾瀬の声が少し震えていて僕は綾瀬を見ようと上を向いたが太陽のせいで
綾瀬の顔が陰になって見えない。
「悲しいのか?つらいのか?」
「なぜ?」
綾瀬は僕に背中を見せた。
泣いているような気がして僕はどうしたらいいか分からずにいた。
ただただ、その場に座っている。
「なんとなく。」
「おかしいの藤井君。」
綾瀬の言葉とともに風が吹きお花畑の花びらが舞った。
「ねぇ。お母さんにお花の写メをそえてメールしてごらん。毎日でいいから。少しずつ関わっていくのて大事だと私は思うよ。」
綾瀬の髪が風によってなびいた。
長い髪が楽しげに舞っている。
「じゃあね。私帰る。」
綾瀬は僕のほうを見ずに手を振るだけふって草の茂みに入っていった。
僕はそれをただ呆然と姿が見えなくなるまで見送る。
そして、花畑の中で綾瀬が一番最初に教えてくれた《わすれな草》の写真を携帯でとり
母親にメールを送って帰る準備をした。




