嬉
「ありがとう」
リビングに行きソファーに座っている綾瀬さんにコップを渡した。
「紅茶好きななんだね」
ガラスの机に一口飲んだコップを置く。
「そうですか。」
床に適当に座ると子犬が僕のほうに来る。
「ほら、わんちゃんには優しそうで私には冷たい顔」
拗ねたような顔を僕に向ける。
「そんなつもりはないのですが綾瀬 彩さん・・・。」
僕の分の紅茶を飲む。いつもより苦い味がする。
飲み慣れているはずなのに。
「ごめんね。期機嫌悪くさせたまなら謝るわ。あ、でも1つだけ願いがあるの。」
「なんですか?」
「『綾瀬 彩さん』なんて呼びにくいでしょ?。だから『綾瀬』って呼び捨てでいいから。」
綾瀬さんは苦笑した。
僕は頭の上にハテナマークがでる。
普通なら、こんな僕に興味を持つ人なんていない。
去っていくだけ。
それを見るだけ。
「わかりました。綾瀬さん」
「『さん』も敬語もいらないわ」
綾瀬は真剣な眼差しで言い放った。
出会って二日でここまで言う人を初めてみた。
「・・・ハハハハハハ」
僕は突如笑い出した。
波がでるほどに笑いが止まらない。
「なによ。いきなり。」
「ごめん。ごめん。でも、初めてなんだ。そんなに親しくしようとしてくれたのも、そんな風に真剣で眼差しを僕に向けて話をしてくれる人がいるのも。」
涙を拭う。
お腹が痛くなっても笑いは止まらない。
綾瀬は真剣な顔から戸惑う顔に変わった。
笑いが収まると僕は口を開いた。
「そう初めてなんだ。僕の顔を見て真剣に話をして耳を傾けてくれる人がいるなんて。一体なんだろうこの感情は。」
天井をみあげたあと綾瀬に苦笑いをした。
「変な顔。笑い方下手なのね。」
綾瀬は僕に対して目線をそらしながら答える。
「ねぇ。その感情はきっと『嬉しい』という感情だと思うの。」
僕のところで丸くなってウトウトし始めた子犬を撫でる。
優しそうな手つき。
「じゃあ、私そろそろ帰るね。また、泉で会いましょう。
綾瀬は立ち上がると玄関に向かっていく。
「送らなくていいから。」
玄関までついてきた僕にそう伝えると頭を下げて玄関から出て行った。
「この感情が『嬉しい』か・・・。」
僕は綾瀬の言葉を復唱すると夕ご飯の支度を始めた。




