母のような笑顔
「くすぐったい」
突然女性の声が耳に入り勢いよく起き上がる。
子犬が誰かと戯れている。
僕は目を擦り眠気を吹き飛ばす。
子犬と戯れていたのは昨日ココで出会った女性だった。
女性は座り込んで子犬と、じゃれあっている。
子犬が僕に気づいたのか、こちらを向いて鳴いた。
女性は僕のほうを見ると、慌てて立ち上がりった。
「あ、ごめんなさい。起こすつもりはなくて。」
「別に構いませんけど、どうしてココに?」
僕は立ち上がりズボンをはたく。
埃が落ちると同時に少し湿っぽい。
ほんの少し寝ていたつもりが思った以上に寝ていたのが分かる。
子犬は僕と女性の間くらいのところまで走ると交互に見る。
「たまたま来たら、いたので・・・。もちろん、起こす気なんてなくて、そのえっと」
女性はスカートを握り締めながら答える。
どうやら、僕が寝ていたのは分かっていて子犬と遊んで寝ている間に帰るつもりだったのだろう。
「そうですか。」
僕は、おろおろしている女性に決まり文句で返す。
女性はこちらに向かってくる。
子犬も合わせて僕のほうに駆け寄ってきた。
今日もシンプルな格好してるなぁっと女性の服装を見ながら僕は目線を子犬に向ける。
「そうよ。ねぇ、私達って約束もしないで出会うなんて運命的よね。」
女性は座り込み子犬を優しそうに撫で上げ僕を上目遣いで見る。
色白な手。
あまり外に出ない人なのかもしれない。
僕と同じだ。
そんなことを思いながら女性の柔らかい優しそうな顔を見た。
ドラマやアニメなんかで見る母親のイメージ。
それらを彷彿させる顔。
「そうですか。」
僕も座り込み子犬を撫でた。
子犬は気持ちよさそうにしている。
「わんちゃん好きなのね」
少しの沈黙のあと、女性は嬉しそうな顔で僕を見た。
「なぜ、そう思うんですか?」
僕は困惑した顔で難問題を突きつけられたような気分になり子犬を撫でるのを止めた。
「だって、わんちゃんを見る顔が優しい。」
「そうですか。」
「でも私に対しては、こうなんていうか優しくないっていうか。あぁ、そっか私嫌われてるのかしら」
女性は一人で言って一人で納得したらしく、ポンッと手と手を合わせた。
その様子は難問題が解けたときの生徒のようだ。
僕は、まだ解けていないのだけれど。
「そう。見えますか?」
「あ、その顔!」
僕は、子犬から手を引き、立ち上がる。
女性は怪訝そうな顔で僕を見た。
「そうですか。」
僕は、女性から目線を避けるように空を見上げた。
「ん?あ、そっか。今日暑いもんね。少し喉渇くね。」
「・・・なら、僕の家に来ますか?」
「良いの・・・?」
喉が渇いている仕草をする女性に僕はバックから犬用の受け皿を取り出して
水を入れて子犬の目の前に置く。
子犬は勢いよく飲むと、きょとんとした顔で僕らを見る
「・・・・・・」
「やったね。」
女性は僕が黙っているのをYESと汲み取ったのか嬉しそうに笑った。
僕には眩しいくらいの笑顔だった。
「じゃあ、行きますか。」
僕は自転車のカゴに子犬を入れると女性と歩き出した。




