第7話 1年代表
体育館。
重苦しい空気が広がっていた。
広いフロアの中央には、一年各クラスの代表たち。
1年A組――田中、銀次。
1年B組――須藤。
1年C組――米田。
1年D組――長谷川。
1年E組――仲谷。
そして、その周囲を囲むように並ぶ、腕章付きの男たち。
番長直属兵。
全員が三年。
全員が背筋をピンとして、入口の1点を見つめ、異様な威圧感を放っている。
銀次「腕章つけた人たち声うるさいよね〜♪」
どうやらA組で怒鳴った時点で、すでに全クラスへ聞こえていたらしい。
それなのに直属兵たちは、
「1-B集合ォ!!」
「1-C集合ォ!!」
……と、全クラスを回って同じテンションで叫び続けていた。
1-C代表の米田が青ざめながら小声で言う。
米田「お、おい……下手なこと言うなって……直属兵に聞こえたらどうすんだよ……!」
銀次「別に〜♪ 聞こえたらいいじゃん♪」
米田「いや怖ぇよ!?」
周囲の一年たちもヒヤヒヤしている。
だが。
直属兵たちは、入口一点を見つめたまま。
銀次を見ることすらしない。
しばらくして――
ギィ……。
体育館入口の扉が開いた。
空気が変わる。
全員が反射的に振り向いた。
そこにいたのは。
鬼塚。
黒コートを羽織り、気怠そうにポケットへ手を突っ込んでいる。
それだけ。
それだけなのに。
体育館全体が押し潰されそうな圧に包まれた。
須藤「ッ……」
米田が息を呑む。
長谷川の頬を汗が伝う。
仲谷「これが……番長……」
田中は静かに鬼塚を見る。
(……デケェ圧だな)
銀次は目を輝かせていた。
銀次「わぁ〜♪ 強そ〜♪」
鬼塚がゆっくり中央まで歩いてくる。
直属兵たちが一斉に頭を下げた。
鬼塚「……すまないなぁ」
低い声。
だが体育館全体へ響く。
鬼塚「急に呼び出したりして」
鬼塚は一年たちを見回す。
まるで品定めするように。
鬼塚「昨日、成田から話は聞いた」
一年たちがざわつく。
鬼塚「今年の一年は、例年より遥かに面白ぇらしいなぁ?」
ニヤリ。
鬼塚が笑う。
その笑みだけで、空気がさらに重くなる。
鬼塚「それでぇ」
鬼塚「お前らには、“一年のトップ”を決めてもらいたい」
1-D代表の長谷川が眉をひそめる。
長谷川「一年のトップ?」
鬼塚「あぁ」
鬼塚はゆっくり両腕を広げた。
鬼塚「だからぁ――」
鬼塚「言わんとしてることは、分かるよなぁ?」
静寂。
そして。
鬼塚が笑った。
鬼塚「いまから最後の一人になるまで潰し合えぇ!!」
直属兵たちがニヤニヤ笑う。
一年たちの空気が一気に張り詰めた。
その瞬間。
銀次「ちょっと待ったーー!!!」
全員「!?」
鬼塚「あ??」
銀次がズンズン前へ出る。
銀次「別に潰し合うのは構わないけどさぁ」
銀次「俺とたっくんは2人で一つなの!」
体育館が静まり返る。
鬼塚「ああ??」
田中「……バカ」
銀次「だからぁ!」
銀次がビシッと田中を指差す。
銀次「俺とたっくんは2人で一つなの!!」
直属兵たちが困惑している。
「なんだコイツ……」
「何言ってんだ……?」
鬼塚は少しだけ目を細めた。
鬼塚「なんだぁ? 惚気かぁ??」
銀次「つまりぃ〜♪」
銀次「最後の一人じゃなくて、二人の間違いだよね?」
沈黙。
直属兵たちが鬼塚を見る。
「さすがに無理だろ……」
「伝統あるし……」
鬼塚「あー……」
鬼塚は頭を掻いた。
鬼塚「別にそれでも構わん」
直属兵たちの心の声。
(((それでいいのかよ!!!)))
銀次「ありがとう〜♪」
銀次が満面の笑みを浮かべる。
銀次「じゃあ始めようかぁ♪」
銀次が一年たちへ振り向く。
すると。
須藤、米田、長谷川、仲谷。
全員がスッ……と手を銀次へ向けた。
どうぞどうぞ。
完全に譲る空気。
銀次「んんー??」
1-B代表の須藤が苦笑する。
須藤「いや俺さ……昨日思い知ったんだよね」
銀次「なにをー?」
1-C代表の米田が重く息を吐く。
米田「あぁ、俺もだ……」
米田「三鬼の成田さん、昨日来ただろ?」
米田「手も足も出なかった。一方的だった」
長谷川「俺なんてまだ顔が倍くらい腫れてるぜ……」
銀次「そうなんだぁ」
1-E代表の仲谷が真っ直ぐ銀次を見る。
仲谷「でも銀次、お前は違った」
仲谷「無傷で……むしろ成田さんをボコボコにしたって聞いたぜ」
銀次「まったく効いてなかったみたいだよぉ?」
仲谷「それでもだよ」
仲谷は笑った。
仲谷「こんだけ差があるんだ」
仲谷「もう一年代表はお前でいいよ、銀次」
周囲の一年たちも頷く。
「異論ねぇ」
「銀次しかいねぇだろ」
「勝てる気しねぇもん」
だが。
銀次は即答した。
銀次「だめだよ!!」
全員「「「え!!?」」」
銀次「たっくんも一緒じゃないとダメ!!」
田中「……」
呆れたように頭を押さえる。
銀次「僕とたっくんはこれからもずーっと同じ強さなの!」
銀次「だからいいよね! 番長!」
銀次「一年代表は、たっくんと僕二人でも!」
鬼塚「あー、いいよぉ」
直属兵たち。
(((いいのかよ!!!)))
一年たちも唖然としていた。
今まで。
愛嬌高校では、各学年の代表は“一人”。
それが絶対だった。
だが鬼塚は、あっさり覆した。
鬼塚「生き残った二人でokって言っちまったしなぁ」
鬼塚はニヤリと笑う。
鬼塚「まぁそれに……」
鬼塚の視線が、田中と銀次へ向く。
鬼塚「俺は思ってたよ」
鬼塚「お前らが代表になるってなぁ」
静寂。
鬼塚「お前らは――」
鬼塚「実力の底が知れねぇ」




