第4話 成田
パチ。
パチ。
パチ。
教室後方から拍手が聞こえた。
全員が振り向く。
いつの間にか。
後ろ扉にもたれかかる、一人の男がいた。
鋭い目。
逆立った短髪。
ただ立っているだけなのに、空気が重い。
教室中が凍りつく。
「お、おい……」
「マジかよ……」
「三鬼……!!」
察知丸が息を呑む。
察知丸「……成田」
3年A組。
愛嬌高校“三鬼”の一人――成田。
成田は教室を見渡し、倒れている北澤と南山を見て鼻で笑った。
成田「なるほどな」
静かに教室へ入ってくる。
誰も道を塞げない。
成田「1年の各クラスのトップ候補を見て回ってた」
ザワッ。
成田「B〜E組は確認済みだ」
成田は肩を鳴らす。
成田「だが全部ハズレだった」
冷めた目。
成田「手応えゼロ。ガキばっか」
教室の一年たちが息を呑む。
察知丸ですら黙っていた。
成田は、ゆっくり田中と銀次を見る。
その目だけが少し変わった。
成田「……だがA組は違ぇみてぇだな」
田中「……」
銀次「♪」
成田「今ちょうどA組のトップが決まったとこだな」
成田はニヤリと笑う。
成田「田中と銀次」
成田「お前らには中学時代から注目していた」
教室がざわつく。
三鬼が。
成田が。
一年を知っている。
成田「楽しみだぜ」
その瞬間。
田中と銀次が、なぜか向かい合った。
スッ。
二人同時に手を構える。
田中・銀次「最初はグー」
「……?」
教室中が固まる。
田中「ジャンケン――」
銀次「ぽんっ♪」
あいこ。
田中「……」
銀次「えへへ♪」
再び。
田中・銀次「ジャンケンぽん」
あいこ。
また。
あいこ。
また。
あいこ。
銀次「わぁ〜♪」
銀次が妙に嬉しそうに笑う。
田中は少しだけ目を逸らした。
銀次「たっくんと以心伝心だぁ♪」
田中「……うるせぇ」
周囲の不良たちは完全に困惑していた。
「いや何してんだ!?」
「相手、三鬼だぞ!?」
「なんでこんな余裕なんだよ……」
察知丸が乾いた笑いを漏らす。
察知丸「……頭おかしいんか、こいつら」
成田も呆れたように眉を上げる。
成田「……ん?」
成田「なにしてる?」
銀次がキョトンとする。
銀次「ん? どっちが貴方を倒すかじゃんけんで決めてるの〜♪」
教室が静まり返った。
一年たちの顔から血の気が引く。
「お、おい……」
「言いやがった……」
だが成田は怒鳴らない。
むしろ。
フッ、と笑った。
成田「舐められたものだな」
静か。
冷静。
だがその一言だけで空気が軋む。
圧。
三鬼の圧力。
壁際の一年たちが無意識に後ずさる。
それでも。
田中と銀次は変わらない。
再びじゃんけん。
あいこ。
またあいこ。
銀次「わぁ〜い♪」
田中「お前楽しみすぎだろ」
銀次「だってたっくんといっぱい合うんだも〜ん♪」
田中が少しだけ照れたように視線を逸らす。
その様子に、周囲は恐怖と呆れが混ざった顔をしていた。
「なんなんだコイツら……」
「三鬼相手だぞ……?」
そして。
何度目かの――
田中・銀次「ジャンケンぽん」
銀次「勝ったぁ〜♪」
パー。
田中はグー。
銀次が両手を上げて喜ぶ。
銀次「やったぁ♪ たっくん、ぼくが行くねぇ♪」
田中「……おう」
成田がゆっくり前へ出る。
成田「決まったか」
銀次も前へ出る。
小柄な身体。
だが。
教室中の誰よりも危険な空気。
銀次「よろしくねぇ♪」
成田「……面白ぇ」
ドッ。
成田が一歩踏み込んだ瞬間。
床が軋んだ。
一年たちが息を呑む。
察知丸「始まるぞ……」
愛嬌高校“三鬼”。
成田。
対するは――
日愛中学最強バカップルの片割れ。
銀次。
一年と三年。
怪物同士の戦いが、今始まった。




