第34話 無念高校
ボウリング場内。
本来なら賑やかなはずの空間は、異様な空気に支配されていた。
各レーン。
ソファ席。
ゲームコーナー周辺。
そこら中に、不良たちが居座っている。
タバコの煙。
散乱した靴。
床に転がる空き缶。
一般客はゼロ。
店員たちも、誰も注意できない。
この場を支配しているのは――
無念高校。
そして。
ボウリング場中央レーン側のボックス席。
そこに、一人の男が座っていた。
スキンヘッド。
分厚い首。
岩みたいな肩。
身長はそこまで高くない。
だが、圧だけで周囲を黙らせる男。
無念高校三年番長――武藤。
武藤はポテトを雑に食いながら、部下を蹴飛ばしていた。
武藤「邪魔だボケ」
「す、すみません!!」
まるで部下を人間扱いしていない。
完全な暴君だった。
その時。
奥の入口側が騒がしくなる。
「ぎゃっ!!」
ドサッ!!
見張り役の不良が吹き飛び、床を転がった。
空気が変わる。
そして――
田中たち六人が、堂々とフロアへ入ってくる。
武藤「あぁ?」
ゆっくり顔を上げる。
武藤「なんだあいつらは?」
兵隊の一人が慌てて駆け寄る。
兵隊「愛嬌です!!」
兵隊「愛嬌高校の一年!!」
武藤「……はぁ?」
眉がピクリと動く。
武藤「見張りはどうした?」
兵隊「や、やられたみたいです!!」
沈黙。
そして。
武藤の顔が、みるみる歪む。
武藤「……なんでだよ」
低い声。
武藤「なんで愛嬌の雑魚一年に、うちのモンがやられてんだよ」
周囲の空気が冷える。
だが。
田中は真っ直ぐ武藤を見据えたまま言った。
田中「あんたら、無念高校らしいな」
武藤「あぁ?」
田中「ボウリング場占拠」
田中は周囲を見渡す。
怯える店員。
荒らされたフロア。
田中「こんな不当な行為が、許されるとでも思ってんのか」
武藤は数秒黙ったあと――
吹き出した。
武藤「ハッ」
ニヤリ。
武藤「俺らはちゃんとした客だよ」
そのまま、レジ方向を指差す。
武藤「現に――」
武藤「そこのかわいい店員さんは、何も言ってこねぇぜ?」
視線の先。
女性店員たちが、レジカウンターの隅で震えながら固まっていた。
誰も逆らえない。
助けも呼べない。
その姿を見て。
田中の目が細くなる。
田中「……外道が」
須藤が拳を鳴らす。
須藤「もういいだろ」
須藤「こいつら、やっちまおうぜ」
銀次は嬉しそうに笑った。
銀次「やっちまおー♪」
だが。
米田だけは、周囲を見渡して顔を引きつらせる。
米田「い、いや待て待て!!」
米田「人数多くないか……!?」
実際。
フロアには大量の無念高校生がいた。
その数20人以上。
しかも。
武藤の周囲には、明らかに空気の違う四人が立っている。
強い。
見ただけで分かる。
武藤はソファから立ち上がる。
ゴキッ。
首を鳴らした。
武藤「面白ぇじゃねぇか」
武藤「潰せェ!!」
ドドドドドッ!!
無念の兵隊たちが突っ込んでくる。
長谷川「来たぞ!!」
仲谷「うざっ!!」
田中は動かない。
ただ。
真正面にいる武藤を見据えていた。
武藤もまた、田中から目を逸らさない。
空気がぶつかる。
だが、その前に――
ヒュンッ!!
銀次が消えた。
「え?」
無念兵の横を、一瞬で通り抜ける。
次の瞬間。
ドゴッ!!
回し蹴り。
無念兵の一人がレーン脇へ吹き飛んだ。
銀次は着地しながら、にこっと笑う。
銀次「お仕置きスタート♪」




