第30話 五十嵐
兵庫県某市――昼過ぎ。
喫茶店を出た鬼塚たちは、人気の少ない通りを歩いていた。
先頭を歩く鬼塚。
その後ろを、初音と成田が続く。
すると――
「待てぇぇぇぇぇ!!」
後ろから、必死な叫び声。
振り向くと、黒いハットの老人が全力で走ってきていた。
ハァハァ息を切らしながら、成田の前で止まる。
老人「君だ!!」
成田「あ?」
老人「君、ボクシングに興味はないか!!」
いきなりの話題に成田は困惑しつつも。
成田「…ないね」
だが老人は止まらない。
老人「先程の喫茶店での喧嘩を見ていたんだが」
シャドーボクシングをしつつ。
老人「あの拳!! あの踏み込み!! あんな逸材見たことない!!」
老人「私は五十嵐ボクシングジムの経営をしている五十嵐と申す。是非うちのジムに来てくれ!!」
成田「興味ねぇ」
五十嵐「世界を獲れるぞ!!」
成田「知らねぇ」
鬼塚は、そのやり取りを横で見ながら笑っていた。
鬼塚「ハハッ」
初音もニヤニヤしている。
初音「気に入られちゃったわねぇ〜」
五十嵐は成田へさらに詰め寄る。
五十嵐「頼む!! 一回観にくるだけでいい!!」
成田「しつけぇな……」
その時。
鬼塚がポケットに手を突っ込みながら言った。
鬼塚「行ってやれよぉ」
成田「……は?」
鬼塚「こっちは俺たちだけで十分だぁ」
ニヤリ。
鬼塚の目が笑う。
初音も楽しそうに頷いた。
初音「たまには青春しなさいよ〜」
成田「青春の意味分かって言ってんのか……?」
五十嵐は目を輝かせる。
五十嵐「よし!! 決まりだな!!」
成田「いや決まってねぇ」
だが。
鬼塚はもう歩き出していた。
鬼塚「じゃ、俺らは餓鬼工業潰してくるわぁ」
初音「いってきま〜す」
成田「……チッ」
五十嵐が満面の笑みで手を差し出す。
五十嵐「さぁ行こう!!」
成田「……一回だけだぞ」




