第17話 兼持
翌朝。
愛嬌高校の校門前。
田中と銀次が並んで歩いてると、門の前に立つ巨大な影が目に入った。
三鬼――長口。
今日も変わらず、校門の真正面で腕を組んでいる。
無口。
巨体。
そして圧。
まるで校門そのものみたいな男だった。
長口は二人を見ると、低い声で口を開く。
長口「……聞いたぞ」
銀次「ん〜?」
長口「お前ら、たった六人で斬念高校の一年を潰したらしいな」
その声だけで、周囲の一年たちが静まり返る。
田中「まぁな」
銀次「いっぱいいたよぉ♪」
長口はじっと二人を見る。
その鋭い目は、まるで値踏みするようだった。
長口「……無茶をする」
田中「向こうから仕掛けてきた」
長口「それでもだ」
少しの沈黙。
そして長口は、小さく鼻を鳴らした。
長口「だが、嫌いじゃねぇ」
銀次「わぁ♪ 褒められたぁ♪」
長口「調子には乗るな」
それだけ言うと、再び門番へ戻る。
銀次「変な人だねぇ♪」
田中「でも強ぇぞ、あれ」
―――――
一年校舎。
廊下へ入った瞬間だった。
「来たぞ!!」
「田中と銀次だ!!」
「おいおいマジで斬念潰したんか!?」
「流石俺ら一年の代表だぜ!!」
一気に人が集まる。
昨日までとは空気が違う。
恐怖や探り合いではなく、“同じ一年”としての熱。
愛嬌高校一年の結束が、一気に高まっていた。
B組代表の須藤たちも別方向から歩いてくる。
須藤「うるせぇな朝から」
その時。
C組の生徒がニヤニヤしながら言った。
「でも、米田は足引っ張ってなかったか?」
一瞬の静寂。
そして。
米田「アホ!!」
通りがかったC組代表の米田が即座に食いついた。
米田「めちゃくちゃ活躍したっちゅうねん!!」
須藤「いや後半バテてたやん!」
米田「80人以上おったんやぞ!? むしろようやっとるわ!!」
D組代表 長谷川が吹き出す。
長谷川「まぁ確かに最後ヘロヘロやったな」
長谷川「米田ずっと肩で息してたしな」
米田「お前らもやろが!!」
須藤「俺はまだ余裕あった」
米田「嘘つけ!!」
E組代表の仲谷がだるそうに頭を掻きながら
仲谷「あんま騒ぐなって、、」
ギャーギャー騒ぐ一年たち。
昨日までのピリついた空気とは違う。
田中はそれを見ながら、小さく息を吐いた。
銀次「なんか楽しいねぇ♪」
田中「……まぁな」
―――――
1年A組。
田中と銀次が席に着く。
すると。
くるっ。
椅子を回転させながら、察知丸がこちらを向いた。
察知丸「お前ら、とんでもねぇことしたな」
田中「……何がだ」
察知丸はニヤリと笑う。
察知丸「今回の“斬念高校一年制覇”の件」
察知丸「斬念のトップがかなりキレてるらしいぞ」
銀次「こわ〜♪」
察知丸「そりゃそうだ」
察知丸は指を立てる。
察知丸「たった六人で斬念の一年を制圧したんだからな」
銀次「わぁ〜♪ 有名人だぁ♪」
察知丸「しかもだ」
察知丸の目が細くなる。
察知丸「D組の“兼持”ってやつの話も出回り始めてる」
田中「……兼持か」
銀次「気になるねぇ♪」
察知丸「斬念の実行部隊十人を一人で返り討ちだ」
田中は少しだけ考え込む。
そして立ち上がった。
田中「見に行くか」
銀次「うん♪」
―――――
1年D組。
教室へ入ると、長谷川がすぐ気づいた。
長谷川「お? どしたんや」
田中「なぁ長谷川」
田中は教室を見渡す。
田中「兼持ってどいつだ」
長谷川「あぁ……」
長谷川は窓際を指差した。
「あそこや」
窓際の一番後ろ。
小柄な男子生徒が、本を読みながら小さく座っていた。
いかにも気弱そう。
視線も合わない。
銀次「わぁ、ほんとに弱そう〜♪」
長谷川「せやろ?」
銀次はそのまま兼持の席へ近づく。
銀次「ねぇねぇ♪」
兼持「ひっ……」
びくっと肩が跳ねる。
銀次「君、強いんだってぇ?」
兼持はおどおどしながら目を逸らす。
兼持「ち、違います……」
銀次「でも斬念の人たち倒したんでしょ〜?」
兼持「……あれは」
兼持がぎゅっと本を抱える。
兼持「あの人たちが悪いんです……」
兼持「僕のお金を取ったから……」
声は小さい。
だが、その瞬間だけ少し温度が変わった。
兼持「それに……」
兼持は田中たちを見る。
兼持「僕、不良の方は苦手です」
銀次「えぇ〜?」
兼持「本当はこんな学校、来るつもりなかったし……」
兼持「セレブ校に行く予定だったんです……」
銀次「なんで愛嬌に来たの〜?」
兼持「親の都合です……」
そして兼持はさらに小さくなる。
兼持「あの……」
兼持「あんまり話しかけないでほしいです……」
完全に拒絶。
銀次はしばらく兼持を見ていたが、やがて「ん〜」と首を傾げて戻ってきた。
銀次「……あの感じだと、仲間にするのは無理そうだねぇ♪」
田中「だろうな」
だが。
田中だけは少し気になっていた。
あの気弱な男の奥に、一瞬だけ見えた“別の顔”が。




