第12話 カツアゲ
斬念高校
校舎の一角、騒がしい空気が渦巻いていた。
机の上に足を乗せ、スマホをいじりながら笑う一年たち。
「マジでよ、愛嬌の一年クソ弱ぇな」
「13人やっただけであの騒ぎだろ?」
「2年の柳には手出せねぇけどさ、下は遊び放題だわ」
笑い声が廊下に響く。
理由は単純だった。
愛嬌高校の“1年代表戦”の噂。
それを聞いた斬念は、こう判断した。
──今年の愛嬌1年は弱い。
そしてもう一つ。
最近、愛嬌の2年・柳にボコられたこと
あの時は手も足も出なかった。
だからこそ、今は“弱いところ”しか狙わない。
「2年は無理でもよ」
「1年潰せばストレス発散にはなるだろ」
その時だった。
電話が鳴る。
実行部隊の一人からだ。
『愛嬌の1年、見つけた!!』
『今、一人で歩いてる!!』
『めっちゃ気弱そうなやつ!!』
リーダー格の男が笑う。
「ハハッ、当たりじゃねぇか」
電話の向こうで叫び声。
『今から襲う!!』
ブツッ。
通話終了。
斬念の一年たちは顔を見合わせて笑う。
「またカモかよ」
「今日はツイてるな」
―――――
実行部隊サイド。
人気のない裏通り。
夕方前の中途半端な時間。
そこに一人で歩く少年がいた。
制服は愛嬌高校。
猫背で、きょろきょろと周囲を気にしている。
「……あのさぁ」
斬念の男たちが囲む。
「財布、ちょっと見せてくんね?」
少年はびくっと肩を揺らす。
少年「えっ……?」
声が小さい。
顔も青い。
いかにも“弱い”。
男の一人が笑う。
「ほら、出せよ」
少年「や、やめてください……」
財布を差し出す手が震えている。
奪う。
中を開く。
「……は?」
札束。
10万円。
斬念の男たちが一瞬固まる。
「おい……マジか」
「持ちすぎだろこいつ」
少年「それ……今月のお小遣いで……」
男がニヤリと笑う。
「じゃあ全部もらうわ」
バキッ!!
拳が顔面に入る。
少年「っ……!!」
地面に倒れる。
男たちが笑う。
「弱ぇなぁ」
「これで終わりかよ」
その瞬間だった。
地面に伏せていた少年が、ゆっくりと起き上がる。
「……あ?」
顔が変わっていた。
さっきまでの怯えは消えている。
代わりにあるのは──静かな怒り。
少年「……それ」
低い声。
少年「それ、俺の金だぞ」
空気が変わる。
斬念の男たちが一瞬黙る。
「は?」
少年「10万……」
ゆっくり立ち上がる。
少年「全部……俺の金だぞ」
次の瞬間。
バンッ!!
少年が一人を殴り飛ばす。
「っ……!?」
もう一人が反応する前に。
ドンッ!!
膝蹴り。
さらに回転。
バキッ!!
顔面への一撃。
斬念の男たちが一気に焦る。
「な、なんだこいつ!?」
「さっきと違う!!」
少年の目が変わっている。
さっきの“気弱な少年”ではない。
奪われた金額が多いほどブチ切れ、戦闘力が跳ね上がる男。
愛嬌高校1年D組、兼持
兼持「10万だぞ……」
低い声。
兼持「それ返せ」
次の瞬間。
ドゴォッ!!
一人が壁に叩きつけられる。
さらに。
バキッ!!
バンッ!!
わずか数秒。
斬念の実行部隊10人は次々と倒れていく。
誰も動けない。
誰も追いつけない。
最後の一人が震えながら後ずさる。
「な、なんなんだよお前……」
兼持はゆっくり振り返る。
兼持「俺の金、返せって言ってんだろ」
静かな怒り。
圧。
そして──
ドンッ!!
最後の一撃。
沈黙。
裏通りには、倒れた斬念の男たちだけが残った。
兼持は財布を拾い上げる。
中身を確認する。
兼持「……足りねぇ」
ぼそりと呟く。
兼持「利子つけるぞ」
そして相手の財布から千円札を1枚ずつ抜き、何事もなかったように歩き出す。
―――――
同時刻、斬念高校。
電話が鳴る。
『やられた……全滅だ……』
沈黙。
騒がしかった教室が、一瞬で静まる。
「……は?」
さっきまで笑っていた一年たちの顔から、血の気が引いていく。
「相手……誰だよそれ……」
電話の向こうの声だけが震えていた。
『愛嬌の……1年だ……』




