第11話 怒り
廊下の向こうから、足音が異様な勢いで近づいてくる。
バタバタバタッ!!
「田中ァ!!銀次ィ!!」
息を切らしながら飛び込んできたのは察知丸だった。
丸メガネは少しずれ、額には汗が浮いている。
いつもの落ち着いた情報屋の雰囲気は消えていた。
銀次「わぁ、察知丸くんだぁ♪ 走ってる〜」
察知丸「笑い事じゃねぇ!!」
須藤たちも一斉に振り向く。
須藤「なんだよ、今度は」
察知丸は一度呼吸を整え、鋭い目で全員を見る。
察知丸「情報入った」
空気が変わる。
田中「……言え」
察知丸は早口で続けた。
察知丸「愛嬌の1年を襲ったのは“斬念高校”だ」
その名前に、数人の表情がわずかに変わる。
米田「斬念……聞いたことあるぞ」
長谷川「喧嘩専門みたいな連中か」
察知丸「そうだ。しかも理由がある」
察知丸はメモを握りしめる。
察知丸「今年の愛嬌の1年が“弱い”って噂が流れてた」
須藤「は?」
察知丸「その噂の発端がこれだ」
察知丸は田中と銀次を見た。
察知丸「“1年代表戦”の話だ」
銀次「えぇ〜? あれ?」
銀次はきょとんとする。
察知丸「その内容が最悪だ」
察知丸「“鬼塚に全員ビビってまともに潰し合いもできなかった一年”ってな」
空気が一段重くなる。
須藤「ふざけんな……誰がそんなこと」
察知丸「外に漏れた。しかもかなり広く」
察知丸は続ける。
察知丸「斬念はそれを聞いて、“今年の愛嬌は弱い”と判断した」
長谷川「だから外で狩ったってことか」
察知丸「そうだ」
米田「13人ってのも納得だな……」
察知丸は歯を食いしばる。
察知丸「完全に“ナメてかかった初動潰し”だ」
銀次は少しだけ目を細めた。
銀次「ふぅん……」
いつもの柔らかい声だが、温度が違う。
田中は静かに言う。
田中「斬念高校」
察知丸「ルール無視の連中だ。やり方は汚い」
須藤が拳を握る。
須藤「舐められたままってわけにはいかねぇな」
米田「13人だぞ……病院送りだ」
長谷川「落とし前は必要だろ」
空気が一気に戦闘方向へ傾く。
その時だった。
銀次がぽつりと笑う。
銀次「ねぇ」
全員が振り向く。
銀次「その斬念って人たちさぁ」
にこっとしている。
だが、目だけが笑っていない。
銀次「どこにいるのぉ?」
田中はその横顔を見て、短く息を吐いた。
(あー……切り替えたな)
察知丸が言う。
察知丸「場所はまだ割れてない。ただ――」
察知丸「向こうもまだ動いてる可能性は高い」
須藤「こっちから行くしかねぇか」
長谷川「やられっぱなしは性に合わねぇ」
米田「潰すなら今だろ」
空気が固まる。
そして田中が一歩前に出る。
全員が見る。
田中「探すぞ」
銀次「うん♪」
銀次も即答。
銀次「やった人、ちゃんと会いに行かなきゃねぇ♪」
その笑顔は、もういつもの“楽しそうな銀次”ではなかった。
察知丸は小さく息を呑む。
察知丸「……マジでやる気か」
田中「当たり前だろ」
田中の声は静かだが、確かに重い。
田中「13人病院送りにしたなら」
田中「それ以上で返す」
廊下の空気が、完全に変わった。




