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第九話 文学少女(+豹変少女)攻略作戦〜決定編〜

 教室に戻った俺たちだったが、残っていた三人は変わらず漫才を続けていた。


「だからよー、人って字はノとノの鏡文字が合わさって出来てるんだって。間違っても、人と人とが支え合ってるわけじゃねえんだよ」

「いや、でもさ。この前、三神(みかみ)先生が人は人と人とが支え合ってるって言ってたし。それに、それを証明するためにわざわざ俺と人文字やってくれたんだぜ」

「数学の先生って、何故か熱いですよねー。体育教師のような見た目ですし」


 何がどうなって、人の殺し方の話からこんな話になったのか訊きたい気持ちを抑え、俺は椅子に座った。

 とにかく、作戦会議だ。このままでは、またグダグダと時間を浪費してしまう。


「なあ、(りん)。人は人と人とが――」

「それは、後で俺がじっくり持論を展開してやるから。今は、作戦会議だ」

「ああ、そういえばそのために残ってるんだっけか」

「まさか、きりりん先輩忘れてたんですか?」

「い、いやいや、確認しただけだよ」


 水元(みなもと)さんは憶えていたらしい。だけど、一緒に漫才をしていた時点で、霧茅(きりがや)を攻めることは出来ないよなあ。


「じゃあ、確認も兼ねて訊くけど、今何の作戦会議をしている?」

「はい! もちろん、上園(かみその)を消す作戦ですよね?」

「元気良く自信満々に答えてもらったけど、違います」

「えっ? 違うんですか!?」

「……違います」

「はいはーい。上園を穏便に風羅(ふうら)……風羅さんの前から消すための作戦を考えてまーす」

「少しニュアンスが違うけど、間違ってはない……か」


 消すも遠ざけるも一緒か。それに、木窯(こかま)にしては珍しく"穏便に"って付いてるし。


「じゃあ、どうすれば"穏便に"上園と風羅さんの仲を割くことが出来るでしょうか?」

「はい! 上園を消せばいいと思います!」

「水元さん、さっきと言ってること一緒。まあ、一応訊くけど、方法は?」

「そりゃ、精神的に追い詰めて不登校に追い込めばいいんじゃないでしょうか」

「いや、穏便にって言ったよね」

「私的には穏便なんですが」

「……確かに」


 否定できない悲しさ。つか、仲を割くには? て訊いてるのに、消すという方法が出てくる時点でなんかおかしいだろ。


「えっと、もう少し穏便のレベルを上げて貰っても構わない?」

「分かりました!」

「よし、他には?」

「なあ、良い方法を思いついた」

「なんだ? 木窯」

「水元が風羅――さんと上園の間に隙あらば割って入ったらいいんじゃね? これなら、水元と風羅さんとの仲も深まるしウィンウィンだろ」

「なるほど! 木窯先輩さすがです!! では、早速明日から実行にうつ――」

「いやいや、水元さんよく考えて。風羅さんの性格を考えて、そんな隙あらばアタックしたらどうなるよ」

「……嬉しい?」

「そう、嬉しい……わけねえよ! 迷惑なの! 風羅さんは静かに読書がしたい。しかし、上園が来るたびに水元さんまで乱入したら、それこそ水元さんへの好感度だだ下がりだろ!」

「……なるほど、確かにそうですね。でも、肉を切らせて骨を断つ的な」

「いや、肉を切らせても骨を断ててないから」

「そういや、好感度は考慮してなかったな」

「考慮してあげて。そこ、一番大事なとこだから」


 まあ、あまりに水元さんと風羅さんの仲が良くなると、俺的にはあまりよろしくないが。

 しかし、上園の邪魔をするってのはいいかもな。問題は方法か……いや、ちょっと待てよ。要は、上園が風羅さんに会いに行けない、または行きづらい状態になればいいんだよな。


「なあ、木窯の案を聞いてちょっと思いついたんだけど」

「私に対する小夜先輩の好感度は考慮してくださいね」

「もちろん。で、作戦だけど、上園に対してツータイプの邪魔をする」

「ツータイプ? なんじゃそら」

「先ず、一つ目は上園が風羅さんに会い行こうとするのを何らかの方法で邪魔する。二つ目は、上園が風羅さんに会いに行きづらい様に邪魔をする」

「二つ目って、さっき言ってた精神攻撃と同じじゃねえの?」

「ちげえよ。……いや同じだけど、少なくともあそこまでえぐいことはしねえ」

「じゃあ、例えばどんなことをやるんだよ」

「例えば、風羅さんの前で上園に対し、俗に言うラッキースケベを発動させる」

「ラッキースケベ? なんだそれ?」


 ここからの説明は蹴珠(けだま)に任せるか。


「蹴珠、頼む」

「了解ですぞ! ごほん。では、ここからは我輩が説明しますぞ!」


 やけにやる気満々だな。


「ラッキースケベとは! 主に、男性側が異性に対して意図せずして起こすちょっとエッチな幸運イベントである!」

「オタクが『エッチ』て言うと、気色悪すぎて吐きそうになるな」

「へ、偏見だ! し、しかし、言った我輩も気分が悪く」

「まるで、呪いのワードですね」

「じゃあ、言い方を変えるってのはどうだ? つか、(りゅう)。説明は終わりか?」

「例えをまだ言ってませんぞ。例その一」

「悪い、柳。長くなりそうなら、その一で止めてくれ」

「りょ、了解ですぞ。では、その一だけ。ピュアな主人公が歩いている途中不意に何かにつまづき転けそうになったところに偶然巨乳な美少女が立っておりそのまま美少女にどーんとぶつかり倒れてイタタタと起きようと手を着いたらそこには大きな大きなお胸がありました」

「すみません。早すぎて聞き取れなかったのでもう一回」

「了解!!! ピュアな主人公が――」

「いや、もういいよ! つか、何故に息づきしなかったし!」

「いやー、テンションが上がってしまいまして」


 言葉通り、蹴珠の呼吸速度は露骨に上がっていた。つか、汗かいてるし。何故、テンションが上がったのか。久々に木窯以外の女子の前でオタ説明を披露したから?


「で、ラッキースケベの意味は分かった。でも、それをどうやって上園に発動させるんだ? 先に言っとくけど、私は嫌だぞ」

「心配せずとも、木窯殿には胸はありませぬし――」


 ぐほっ。

 光の速さで飛んだ木窯の拳は、蹴珠の腹を抉った。


「じゃあ、私ですか? 私も嫌ですよ。あんな汚物に触れられるなんて。小夜先輩なら別に構いませんけど」

「風羅さんにラッキースケベを発動させる意味はないからな。あと、別に最初から二人に協力してもらおうとは思ってない」

「じゃあ、誰がやるんだよ」

不地方(ふじかた)さんだよ」

(かおり)がか??」

「不地方さん? って、誰ですか?」

「俺たちに協力してくれる人だよ。同じ三年の」

「先輩なんですか。へえ。もしかして、その人は巨乳なんですか?」

「薫は巨乳ではないだろ。いや、でも普通よりは大きい、のか?」

「まあ、あまり大きさは関係ないよ。要はぶつかって、それなりにそれっぽい状態になればいい」

「股を使うってことか。薫は多分経験ないぞ」

「いや、まあ、うん、違うな」

「まあ、やり方はどうでもいいけどな。でも、それを火七海(ひなみ)が許すか?」

「また、新キャラですか」

「火七海さんは、不地方さんの友達な。もちろん、無理にとは言わない。あくまで、ラッキースケベは作戦の一つだから。無理そうなら、もう一つの方をすればいい」


 というのは、嘘。火七海さんには黙って、もしくは言い訳を作って作戦を行う。

 ただ、不地方さんだけではさすがに無理が出てくるからな。場合によっては、そこらへんの女子を巻き込むとしよう。


「で、どう? 俺の作戦は」

「いいんじゃねえの? 効果があるかどうかは知らねえけど」

「良いと思います。でも、ダメなら精神的に潰す方向でいきましょう」

「良い、と、おも……がくっ」


 こいつら一言多いな。つか、蹴珠大丈夫か?

 でもまあ、この作戦はあくまで毒みたいなもんだからな。ジワジワと風羅さんの上園に対する評価を落としていく。うまくいけば、予期せぬところで亀裂が走ってくれるかもしれん。

 我ながら良い作戦だ。


「なあ、凛」

「うん? なんだ、なんか意見か?」

「いや、やりすぎるなよ?」

「? なにが?」

「いや、何でもない……」


 霧茅は何が言いたいんだ? まあ、いいか。

 とにかく、これで作戦は決まった。早速、明日から準備に取り掛からねば。


「じゃあ、作戦も決まったし帰るか」


 木窯の言葉に、各々は帰り支度を始める。

 時間はかかったが、ようやく動き出せるんだ。

 そう、ようやく。これでいい。俺の作戦に間違いはない。











 帰り道。帰り道が違う水元と別れ、俺たちはダラダラと自転車を押しながら歩いていた。

 ちなみに、俺たち四人は地元組であり、中学からの仲だったりする。


「にしても」


 不意に口を開いたのは、霧茅だ。


(りゅう)にも春が来たかー」

「ぶふっ」


 思わず噴き出したのは、俺と蹴珠だ。

 えっ、まさか気づいていたのか?


「な、なぜ、そのことを霧茅殿が……」

「私も気づいてたぜ」

「そりゃ、あれだけ露骨に考え込んでたらな」

「そうそう、変わりすぎなんだよお前は。どんだけ、初心(うぶ)なんだ」

「お、おふぅ……」


 ……えっ? ってことは、俺だけが唯一気づいてなかったってことになるのか? マジ? つか、こいつらの洞察力凄いな!


「席を外したのも、凛に相談するためだろ?」

「ぐぬぬ、全てお見通しというわけですか」

「当然。つか、別に私らに相談してくれても良かったんじゃねえの?」

「いやー、それはー……」


 これには、俺も蹴珠も苦笑い。

 しかし、そうかー、俺だけ気づいてなかったのかー。……はあ。


「で、誰を好きになったんだ?」

「い、一年の子ですぞ」

「イチネンノコ? 何処からが名前だ?」

「一年生ってことだろ? えっ、違うのか?」

「いや、イチ、ネンノコさんだろ?」

「へえ、凄え『つちのこ』感だな」

「我輩、バカにされ過ぎて挫けそうですぞ……」


 これには、「悪かったよ」と霧茅が蹴珠の肩を叩く。

 いや、イチ、ネンノコって……。


「まあ、何はともあれ俺は応援するからな、柳」

「私も。まあ、無理だろうけどな」

「酷い! でも、あざっす!!」


 そう言った蹴珠の顔に、もう数時間前までの思いつめたものは無く、いつも通りの調子が戻っていた。

 全く、恋愛というものは怖いものだな。


あとがき


九賀羽凛


推薦図書『ありとあらゆる星々に希望を』


ほら、宇宙って壮大だろ? この物語も壮大なんだけど、同時に希望もあって、それがまた儚げで。でも、希望だって持てる。そんな話が読みたいならおすすめかな。

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