第七話 文学少女(他称大天使)攻略作戦〜遭遇編〜
時間は進み放課後。
例によって、人のいなくなった教室で俺たち四人組は作戦会議を行おうとしていた。
なお、今日の昼休み、俺は日誌を書くという大事な仕事があったため顔を出さなかったが、他のメンバーは作戦会議を行っていた――はずである。
「で、何かいい作戦は考えついたのか?」
「ああ、一応一つの結論には達したぜ」
木窯は、腕を組み自信満々に言った。
一つの結論? なんだろうか。
「何だよ、その一つの結論って」
「風羅と直接知り合うのは無理だってことだよ」
「……えっ?」
「今日の朝、お前は蹴珠の意見に対して、火七海の時と同じように都合良くいかないって言って却下したんだろ?」
「ああ」
「でも、よく考えてみろよ。そうなると、どうにかしてキッカケを作り風羅と知り合う必要が出てくるわけだが、はっきり言ってそんなの無理だ」
「また、バッサリと言うな」
「当然。でも、もしお前が良い意見を持ってるなら、一応話だけは聞くぜ?」
「……いや、残念ながらないよ」
風羅さんと知り合うにはどうすればいいか? 正直、その答えは俺には分からない。
慎重になり過ぎな気もする。だが、やはりまだ俺は保守的なこの立ち位置が気に入ってるようだ。
「……あのー、このタイミングで悪いんですが、我輩、良い作戦を思いついてしまったのですが」
「知らん、却下だ」
「こらこら。柳、どんな作戦だ?」
「僕、本大好きだよアピール作戦ですぞ!」
「やっぱ、お前豚だから黙ってろ」
「ブヒッ!?」
「これこら玲、柳はブタじゃなくてオタクだ」
意見を言ってくれるのは有難いが、やはりもう少し自分の中で取捨選択してから言ってもらいたいな。
でもまあ、午後の授業以降、実は蹴珠の作戦を実行に移してたんだけど、そもそも風羅さんプリント配る時以外で後ろ向かないからな。正直、この作戦は無理だ。
そりゃ、立って本を読みつつ風羅さんの周りをうろつくという手もあるが、ただの変人だからな、それ。アピールする前に引かれるからな。
「どうすりゃいいかなあ……」
『風羅さんと自然に知り合うためには?』
一見簡単そうに見える疑問も、慎重さを加味すれば途端に超高難度の問題と化す。
俺に、上園のような勢いで行動できる力があれば、この難問は易問と化す。
……プラス、それなりのコミュ力があれば、の話だ。
そんな、壁にぶちあった状態に、他の三人も各々の考えを巡らしているようだった。
経験上、こういうのは考えれば考えるほど、難しく考え、疑問をより巨大化させてしまう。
もう、今日は解散した方がいいのだろうか?
「なあ、今日は――」
「さやさや、せんぱーいっ!!!」
「!?」
静まり返った教室に響く、元気の良い女子生徒の大声。
その声の方に、俺は反射的に顔を向けた。
「……あれ? さやさや先輩?」
教室の入り口に立っていたのは、教室内をきょろきょろと見渡す一人の小柄な女子生徒だった。一体、何者だろうか? 見た目的に後輩っぽいが。後輩が風羅さんに何か用だろうか?
そんな疑問を浮かべる俺たちに気づくやいなや、ドカドカと彼女は俺たちの方に向かって歩いてきた。
「あのすみません! 風羅小夜先輩を知りませんか?」
風羅さんの友達だろうか? でも、今まで、こんな子見たことないんだが……。
「えっと、多分もう帰ったんじゃないかな」
「マジですか!? うーん……」
「つかなに? 風羅に何か用でもあんのか?」
「……風羅? 今、風羅って言いましたか」
ん? あれ? 目が鋭く――。
「言ったけど。それがどう――」
「風羅"さん"!! "さ、ん"!! 今度、さん付けしなかったら埋めますよっ!!」
「あぁ? お前、なにいっ――」
「はいはいはい。分かったから、ね」
リアルファイトの始まりを予感したのか、二人の間に霧茅が割って入る。
やばい。この子、ちょっとおかしい。なんか豹変したし、すげえ怖い。
「あと、お前」
そう言って、彼女が指差したのは俺だった。
おかしい。俺は、ちゃんと"さん"付けしたはずだが。
「なんで、さやさや先輩が帰ったって分かるの?」
「え、いや、だって風羅さん、毎回一番に教室出てくから」
「へえ、毎回毎回毎回毎回毎回教室を一番最初に出てくことを確認してるんですねえ」
「えっ? い、いや、そういう意味じゃなくて」
「へえ、そ、う、なん、ですねえ!」
やばい、顔がマジギレしてらっしゃる。多分、血管がブチブチいっちゃってらっしゃる。
「つか、お前もしかして、さやさや先輩と同じクラスですか?」
「あ、ああ、そうだけど」
「へえ、そうなんだあ。キモっ」
「理不尽にキモがりやがった!」
「あぁ?」
「す、すみません……」
「取り敢えず、一発殴らせてください」
「い、いやいやいや、何故!?」
「小夜先輩と同じクラスだから一発。小夜先輩の帰る姿を見たから一発」
「横暴だ! しかも、地味に二発に増えてるし!」
つーか、無茶苦茶だ! このままじゃ、ヤバい。この子マジで殴ってきそうだし。つか、もう拳を振り上げてるし!! お前は木窯か!? 木窯二世なのか!?
と、とにかくどうにかして、話題を変えなくては!!
「い、いや、待て、取り引きだ、取り引きしよう!!」
「取り引きぃ?」
「ああ。実は、最近風羅さんに近づく男が居るんだが、そいつの事を教えてやる。だから、取り敢えず拳を降ろせ!」
「…………」
少し何かを考える素振りを見せた後、彼女はその振り上げていた拳を降ろした。
よし、これで一先ず危機は脱した。
「それで、その小夜先輩に近づくクソ野郎は誰なんですか?」
「クソ野郎って呼び方、懐かしいな……」
「はやく」
「おっ、おう。えっと、上園龍。三年E組の奴だ」
「上園……何処かで聞いたことがありますね」
「そうなのか?」
「はい」
聞いたことがある? 上園は、目立つようなタイプじゃないんだけどな。
「……情報ありがとうございます。あと、殴りかかろうとしてすみませんでした」
俺に頭を下げた後、彼女は木窯にも頭を下げた。
どうやら、謝ることは出来るようだ。というより、風羅さんが絡むと興奮して周りが見えなくなるタイプなんだろうな。
全く、普通にしてれば、ただの活発そうで可愛らしい女子なのだが。
「さて、どうやって潰しましょうかね」
前言撤回。やっぱ、普通にしててもおかしいわ。
「あの、何をなされるおつもりで?」
「上園に制裁を与えるんですよ。そのために、道具とか色々今から買いに行かなきゃなので」
失礼します、と帰ろうとした彼女の白くか細い腕を俺は反射的に掴んだ。
「何ですか?」
「いや、あのさ、なんなら俺たちも一緒に考えようか?」
「いえいえ、お気になさらず。これ以上、ご迷惑をかけるわけにはいかないので」
正直、このままの勢いで行動される方がよっぽど迷惑なのだが。
「いや、迷惑じゃないし。それに、俺ら暇してたし」
「そうそう。せっかくだからさ、一緒に考えようぜ。な?」
「あー、うん。私もそうした方がいいと思うぜ」
「そうですぞそうですぞ」
それは、他の皆も同じらしく、言葉には必死さが感じられた。いや、木窯は少し面白がっているようだが。
そして、さすがに俺と霧茅、蹴珠、木窯からの説得に断るのも悪いと思ったのか、彼女は再度こちらへと振り向いた。
「分かりました。じゃあ、お言葉に甘えて」
その言葉に一安心しつつ、俺たちは再度各々椅子に座った。
「じゃあ、先ず自己紹介しようか。俺は、霧茅公」
「霧茅……きりっち先輩ですね」
やべ、ちょっと吹きそうになった。
「おっ、良い呼び方だな」
良いのか? まあ、本人がいいなら別にいいけど。
「私は木窯玲。よろしく」
「じゃあ、こままん先輩ですね」
「……なあ、もう少し何とかならね?」
「うーん、考えておきます!」
「いや、無理に考えなくても……」
「より、早く親しくなるためにはあだ名が大事ですからね」
「分かるわー、それ。俺もさ、名前呼び徹底してるし」
「きりっち先輩もですか!? いやー、やっぱ大事ですよね!」
「えっと、俺は九賀羽凛」
「リンですか! 可愛いですね!」
「だろ? だからこいつ、小学生の時――」
「はいはいそんな過去の事はいいからねー」
「気になります!」
「忘れてください!」
全く、凛って名前だから小学生の頃、よく弱々しい容姿もあって女の子だって、からかわれてたの一々言わなくてもいいって。
「じゃあ、りん先輩ですね」
「あれ、普通だな。別にいいけど」
「かわいいですから」
「そうですか……」
まあ、別にもう慣れたからいいけどね。
えっと、次は蹴珠か。
「我輩は、蹴珠柳ですぞ」
「けだま……難しいから、りゅう先輩で」
「めんどくさがったな」
「い、いえ、別にそういうわけではないですよ。ほら、龍ってカッコイイじゃないですか!」
「柳って書いて、りゅうだけどな」
「へえ。勉強になります!」
正直、この世に初見でりゅうを柳と書ける人はいないと思う。その逆もしかり。
「では、私ですね。私は、二年の水元揺です。字は、水に元気の元。揺るぎないです」
「揺さんね。ヨロシク」
名は体を表す、か。
つか、二年だったのか。なんか、見た目的に一年かと思ったんだが。ただ、あのキャラ変貌のおかけで後輩感が薄い。まあ、自己紹介で先輩先輩言ってたから、大分マシにはなったけど。
「で、話を戻すけど、具体的に上園に何をするつもりだったんだ?」
「そうですね。まあ、トンカチで骨を"ポン"と」
「いや、擬音がおかしくないっすかね」
「そうですか? じゃあ、"ぐぎゃ"」
「ぐ、ぐぎゃ? いや、やっぱ"ポン"で」
「まあ、擬音はどうでもいいとして。揺さん、マジでやるつもりだったの?」
霧茅の言うとおりだ。マジで、もし実行に移そうもんなら立派な傷害事件だからな。
「当然ですよ」
……ああ、言葉の綾とかじゃなくてマジなのか。
これには、霧茅も呆れてるし。
「うん、分かった。でも、肉体的よりももっとダメージを与える方法があるんだが」
「もちろん、足を使えなくした後は精神的に潰しますよ?」
「…………」
これには、霧茅も言葉が出ない。
肉体的だと、問題になってくる。だったら、精神的な方にシフトさせ少し軽減させる。という意味で、霧茅は訊いたんだろう。
見事に、その意見は打ち砕かれたが。
「ちなみに、精神的に潰す方法は何なんだ?」
と、訊いたのはもちろん霧茅ではなく木窯だ。心なしか、興味津々といった表情をしていらっしゃる。
「そうですね。まず、全裸写真をネットに流します。もちろん、様々な角度から撮りますよ」
「あの、水元さん一つ質問いい?」
「なんでしょう?」
「男の全裸を撮ることに抵抗とかないの?」
「所詮は人でしょ?」
「…………」
その切り返しは予想外でした。
つか、人だから大丈夫という理論は何処からやってくるんだ。
「いやー、水元いいな。お前とは友達になれそうだよ」
「そうなんですか? いやー、そう言ってくださると私も嬉しいです」
大方の予想通り、木窯が水元さんと同調してしまった。最強のタッグ結成に、震えが止まらないぜ!
まあ、それはいいとして。ふと思ったのだが、彼女がそこまで風羅さん愛しなのは何故なのだろうか?
「つか、水元って風羅さんのこと本当に好きなんだな」
「いやー、小夜先輩は天使ですからね。もう、結婚を前提にお付き合いしたいくらいです」
「そうか。でも残念ながら、うちの国じゃ同性婚は無理だな」
「私の将来の夢は、政治家になって同性婚を法的に認めさせることです!」
「おう、頑張れよ」
「俺の将来の夢は、体育の先生になることです!」
「お前は、ボディービルダー志望だろ」
「俺の夢は、無難に無難な仕事をすることです」
「ああ、つまんねえから破産しろ」
「!?」
破産!?
「そもそも、愛に同性も異性もないですから。大事なのは好きだという気持ちです」
「確かに。筋肉にとって本当に大事なのは愛情なのと似てるな」
「へえ、そうなんですか」
「いや、全然似てねえよ筋肉バカ。つか、訳わかんねえよその例え」
まあ、そこまで意味不明でもない、のか?
って、そんな話よりも、大事なのは上園だ。
「なあ、水元」
「はい?」
「風羅さんのこと、本当に好きなんだよな?」
「当然ですよ。証拠を見せましょうか? 私の小夜先輩秘蔵写真集を」
「えっ、マジで?」
「こらこら、凛」
「あー、まあ、えっと、うん、証拠は無くてもいい、かなー」
すげえ見たい。後で、こっそり見せてもらおうかな……。あわよくば携帯に送ってもらって……いや、それは無理か。
「じゃあさ、もし水元さんが上園にさっき言ってたことを実行したら水元さん自身はどうなる?」
「私ですか? そうですね。まあ、バレないように細工するんで、特に何もないんじゃないですか?」
「甘いな。真面目な話、さっき言ってたことを実行して、それで何事もなく上園だけが潰れると思うか? 素人の細工が大人の目を欺けると? 本当に何事もなく元通りの生活が送れると?」
「それは……」
「でもまあ、上園が許せないってのは分かる。だから、今一度考え直してみないか? 上園を潰す作戦なんて、いや、要は風羅さんから上園を離せばいいんだろ?」
「……まあ、そうなりますね」
「だったら、他にもやりようはあるはずだ。そんな危ない綱を渡らなくてもいい作戦が。水元さんだって、たかが上園ごときのために風羅さんと会えなくなるのは嫌だろ?」
「…………」
水元さんは黙ってしまった。
彼女の反応を見る限り、先ほどの作戦も本当に実行するつもりだったのだろうか。全く、恐ろしい子だな。
だが、現実問題それをやったら間違いなく警察のお世話になるだろう。もし、この世界がコメディ作品だったら話は別だが。
それに、作戦を実行されると困るのは本人だけでなく俺自身もだ。現在、風羅さんにとって上園という存在は、恐らく趣味という話題を共有できる唯一の間柄となっている。
そんな大切で貴重な存在を潰されたら、風羅さんはどうなる?
それは、予測できない。だからこそ、危ない。
そして、それでは俺が望む展開にはならない。俺は、普通の状態の風羅さんと仲良くなりたい。
「……でも、だったら何か良い作戦はあるんですか?」
「ないな」
「…………」
「でも、考えてる。そのために、今俺たちはここに居る」
「えっ?」
「俺たちは、"ある理由"から上園と風羅さんの仲を裂こうとしてる」
「ある理由?」
「それは、プライバシーの観点から言えないけど。まあ、だから、水元さんとやりたい事は被ってるんだよ」
「そうなんですか……」
水元さんをコマの一つとして扱い、風羅さんと上園の仲を引き裂く。
正直、彼女はこれ以上なく扱いづらい存在ではあるが、手持ちに入れずに勝手に動かれるよりはマシだろう。
「……分かりました。協力しましょう」
そして、水元さんならそう答える。
協力相手が先輩であること。
ここまで、相手は一度たりとも"方法"以外では自分を否定せず、同調し続けたこと。
自分で考えた無茶苦茶な作戦に、不確定要素が多すぎること。
相手が、一から十まで側だけ見れば協力的なこと。
そして、まあこれはあまり関係ないと思うが、俺が風羅さんと同じクラスなこと。
以上のことから、水元さんが俺たちの協力を拒む可能性は限りなく低いことが考えられる。
恐らく、「協力しましょう」という言葉に嘘偽りはないだろう。そもそも、ここまでの言動から考えれば、彼女が嘘を何食わぬ顔でつける性格とは思えない……かな。
「じゃあ、決まりだな」
気づけば、日差しもすっかり傾いていた。
早いもんだ。時間が経つというのは。
「じゃあ、今日は遅いし、また明日」
「はい。朝一番に、ここに来ますね」
にこっと笑い、水元さんは答えた。
いや、性格の豹変が無ければ、本当にいい子なんだがなあ。ほんと、人は見た目で判断出来ないもんだ。
あとがき
霧茅公
推薦図書『空白を埋めるマッスルビート』
いや、トレーニング指南書とかじゃないぜ? これは、筋肉を嫌う男の物語なんだ。つまり、れっきとした小説だな。
筋肉を嫌う。正直、あらすじを見た瞬間、俺の全身を寒気が通り抜けたね。あり得ない。だって筋肉だぜ? 嫌う要素が何処にあるんだって話だよ。
だけどな、ちゃんと物語を読んでいくと、この物語の主人公もちゃんと最後には筋肉の良さに気づくんだよ。やっぱ、筋肉って最高だぜってな。
筋肉に不可能はない。それを改めて確認させてくれる、素晴らしい小説だったから、ここで推薦させてもらうぜ。




