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第五話 完全無欠だった受け手は遂に重い腰を上げ、強力な矛を用いて彼の者を貫くための作戦を矛と共に考える

 昼休み。今日も今日とて、上園(かみその)風羅(ふうら)さんに対する一方的なアプローチを見せつけられた俺は、その身に怒りという名の炎を灯しながら、屋上へと続く階段を昇っていた。

 何故、屋上に向かっているのか。それは、対上園に対する作戦会議を行うためである。

 では、何故屋上なのか。それは、上園に見つからないようにするためである。


 ……では何故、俺の目の前、言い換えると屋上への扉の前で、木窯(こかま)霧茅(きりがや)に羽交い締めにされながら、扉を塞ぐ蹴珠(けだま)を蹴っているのか。何故、それを不地方(ふじかた)さんは苦笑いで、火七海(ひなみ)さんは呆れた顔で見ているのか。

 誰か、俺に説明してくれ……。


「あっ、九賀羽(くがわ)さーん」


 そんなどうしていいか分かりかねている俺に気づいた不地方さんが声をかけてきた。

 何故、不地方さんはいつも通りなのか。友人が男に羽交い締めにあっているというのに。


「あの、これは一体どういう状況で……」

「えっとねー」

(かおり)、私が説明するわ」


 ため息混じりで、こちらに来たのは火七海さんだ。

 不地方さんには悪いが、火七海さんの方が分かりやすい説明を期待できそうだ。


「えっと、屋上に来たら先客が居て、その人たちに木窯さんがキレて」

「……うん?」

「で、蹴珠君と霧茅君とで無理矢理引っ張ってきた」


 …………意味が分からん。


「ええと、その先客って」

「男子が一人と女子が三人ね」

「はあ……」


 ……どういうことだ。変わらず意味が分からん。

 つか、火七海さんもよく分かってないっぽいな。自分でも何を言ってるのか分からないって顔してる。というか、疑問符並べて説明してる。


「とにかく、詳しい話は本人に訊いて」

「う、うん、そうする……」


 こういう時は、当人に訊くのが一番だ。

 とにかく、少し落ち着いてきた木窯に事情を訊いてみるとしよう。


「なあ、何があったんだ」

「あぁ? って、んだよ、九賀羽かよ」


 九賀羽で悪いかよ。


「一体何があったんだ?」

「それがよお……つか、なんか疲れたから説明すんの面倒いな」

「…………」


 どうも、話にならないようだ。

 木窯も疲れたからか、蹴珠を蹴るのを辞めたし。


「まあ、あれだ。この先に進めば分かる」

「なんだそのRPGでありそうなセリフは」

「まあ、俺も(れい)と同意見かな」

「だってよ」


 木窯だけでなく、霧茅もそう言うのなら、そっちの方が早いのだろう。

 俺は意を決し、ボロ雑巾のように地に伏せている蹴珠を跨ぎつつ、屋上への扉を開けた。











 時は進み、放課後。

 他に誰もいない教室にて、俺と霧茅、木窯、蹴珠、不地方さん、火七海さんはそれぞれ椅子に座り昼休みに出来なかった作戦会議を行おうとしていた。

 だが、その前に報告すべきことがある。昼休み、何故木窯と蹴珠と霧茅が身体の張ったネタを披露していたのかを。


「作戦会議の前に、不地方さんと火七海さんに昼休みでのことを説明するぞ」


 三人の返答を待たず、俺は屋上に居た"先客"から聞いたことの説明を始めることにした。


「先ず、第一に屋上には好青年Aと美少女B,C,Dがいた」

「補足するなら、新クソ野郎Aとバカとガリ勉とコミュ障だな」

「木窯、ちょっと黙ってて」

「分かったよ」


 さすがに、木窯も悪いと思っているのだろう。その声に、いつもの強気な調子は含まれていない。


「で、先ず木窯、霧茅、蹴珠が屋上に来たわけだが、ここでその美少女たちの内の一人に邪魔者扱いされてしまった。そこから、何故かその美少女Bと木窯の言い争いが起き、不味いと思った蹴珠と霧茅が木窯を強引に引っ張っていった、と」

「なんで、邪魔者扱いしたんでしょうかー?」

「俺の主観になるけど、邪魔されたくなかったからだろうな」

「というと?」

「美少女Bは、好青年Aのことが好きということ」

「なるほどですー」


 実を言うと、喧嘩をふっかけたのは木窯らしい。ただ、先に屋上に来た木窯らを睨んだのはあちらさんらしく、そこは美少女B自身も悪いと言っていた。


「ちなみに、その美少女Bと木窯は同じクラスだそうで」

「ちゃんと謝ったぞ」

「そりゃな」


 どちらが先かは知らんし、そこは別にどっちでもいいが、昼休み時点で好青年に言われて美少女Bも謝罪モードには入っていたから、仲直り済みなのは想定出来た。

 と、昼休みに起こった事件の全容はこんな感じだ。


 さて、気を取り直して作戦会議といこうか。


「じゃあ、気を取り直して。先ずは、5W1Hで今回何がしたいかを纏めるか」

(りん)先生! 5W1Hって何ですか!?」

「私も分からないー」


 まあ、これは想定内。いや、さすがに不地方さんからも訊かれるとは思ってなかったけど。眼鏡かけてるから、自然と頭も良いという勝手な思い込みしてたし。


「5W1Hというのは、『Who、誰が』『What、何を』『When、いつ』『Where、どこで』『Why、なぜ』に加えて、『How、どのように』という、いわば他者に事柄を明確に分かりやすく伝えるための文法だな」

「なるほど、分からん」

「分からないので、先に進めてくださいー」


 ま、まあ、これも想定内だ。

 とにかく、5W1Hという言葉は今は分からなくてもいいからな。


「つまり、今回のことにそれを当てはめると」


 そう口を開いたのは、木窯だ。


「誰が? 私たちが。何をしたい? 上園と風羅を離したい。いつ? 作戦が出来次第。何処で? 場所は問わないが、強いていうなら学校。何故? 九賀羽が風羅とくっつきたいから。どのようにはこれから考えるが、それは非人道的な行為も厭わない」

「…………」


 これには、不地方さんと火七海さんも驚きの表情だ。

 だが、俺たちにとってはそこまで驚くような事でもない。何故なら、木窯はこう見えて頭がいいからだ。ただ、普段本気を出さないため、学校の成績はそれほどよくない。

 でも、俺は思う。本気を出せば、木窯は学年でも上位に食い込めるほど頭が良いと。

 ……まるで、中二病なキャラだな。


「合ってるか?」

「合ってるよ。How以外」


 非人道的な行為も厭わない……わけないよ! つか、なんで蹴珠案が生きてんだよ!!


「じゃあ、人道的な行為に限定するのか?」

「するよ!? つか、しなきゃダメだよ!」

「へいへーい」

「こらこら、そこ露骨にやる気を落とさない」


 でもよー、と木窯は他人の机に突っ伏して続ける。


「具体的に案とかあるのかよ。"人道的"な方法で」

「それを今から考えるんだろ」

「そうだぞ、玲」

「つか、場所変えね? 腹減ったから、どっか食べに行こうぜ」

「急だぞ、玲」

「今度、名前呼びしたら潰すぞ」

「この扱いの落差に、我輩しょんぼりですぞ」


 霧茅の名前呼びはスルーで、蹴珠の名前呼びはアウト。ちなみに、俺が名前呼びしてもアウトだ。

 理由は簡単。木窯が異性からの名前呼びを嫌ってるから。では、何故霧茅は問題ないのかというと、会ってからずっと名前呼びを木窯が嫌だと言っても続けたので、木窯が折れたからだったりする。

 霧茅も変なところで、わがままだからな。霧茅の場合、人を名字で呼ぶのを嫌うから。理由は知らんが。


「じゃあ、どうする? 場所変えるか?」

「私はパス。今月お金ないし」

「私も同じくー」

「我輩も。今月は、フィギュアに全力だったのでな!」

「俺も、何と言うか面倒い」

「だってさ、どうする?」

「……分かったよ。パンあるからそれ食う」


 あるのかよ、というツッコミは言わないでおこう。


「玲ちゃん、パン好きだよねー」

「まあな。パン一つ食えば腹は膨れるし、何より美味い」

「えっ、でもパンって太るじゃん」

「太るか? つうか、体重とか気にしたことねえんだけど」

「うそ?」

「マジだ」

「ガールズトークに突入するかと思ったら、そんなことは無かったでござる」


 話がズレてきてる。

 だが、確かに木窯は普通、いや見た目はどちらかといえば痩せている方でもある。胸のせいでそう見えるだけかもしれんが。

 だが、俺からすれば現在木窯をチラチラと見てる火七海さんも痩せているように見えるけどな。まあ、まだ冬服だし、中々分かりづらいところではあるが。

 逆に、不地方さんは……うーん、幸せ太りてきなものを感じる。

 と、俺までズレてどうする。話を戻さねば。


「それで、さっきのHowについてだけど」

How(ハウ) to(トゥー) use(ユース)だねー」

「使い方の話は誰もしてないね」

「じゃあ、However(ハウエバー)だねー」

「……えっと、やり方に関してだけど。何かいい案とかある?」


 それに、少し間を空けて答えたのは霧茅だった。


「なあ、凛。用は二人の仲を割けばいいんだろ?」

「まあ、そうだな」

「じゃあ、確認だが小夜(さや)さんは純粋か?」

「まあ、見る限りじゃ」

「なら、この作戦で恐らくいけるはず」

「……?」

「名付けて! "上園に女を付けよう"作戦!!」


 …………?


「なあ、どういう作戦なんだ?」

「簡単だよ。文字通り、上園に上辺だけでもいいから、女を付ける。いや、仲良くしてくれるだけでいい。そして、それを小夜さんに見せつける。そうしたら、小夜さんは上園には彼女さんが居るんだと誤解し、少なくとも小夜さんから上園に恋愛的な意味で近づくことは無いだろう!」

「……うん、作戦内容は分かった。ただ、せっかくの力説だけど、その作戦は多分もっと後にやるべきだと思う」


 霧茅の反応を見る限り、どういうことか分かってないらしい。

 だが、これは簡単な話だ。そもそも、霧茅の作戦は前提がおかしい。


「上園と風羅さんを近づけさせないようにする作戦を今考えているのに、霧茅の作戦では既に二人の距離はある程度縮まってしまっている。だから、その作戦をやるとしたらもっと後だ」


 もっとも、そうならないようにこの段階で二人の距離を開けさせようとしているのだが。

 それに、その作戦では上園が風羅さんに近づくのを止められない。そういう一番大事な部分がクリア出来ない時点でダメだ。


「なるほど。よく分からんが、つまり却下ということか」

「まあ、そうだな。悪いけど」

「いや、それは別に構わないよ」


 では、次は我輩ですな。と、大袈裟に咳払いをし、蹴珠は椅子から立ち上がった。


「"我輩"って、伯爵みたいだねー」

「そう、今日の我輩は伯爵であり――」

「はやくやれ」

「お、おうふ。では、改めて。現段階で二人の間を遠ざける方法。それは、上園殿を徹底的に貶めれば良いのですぞ」

(りゅう)、吊り橋効果って知ってるか?」

「そのくらい知ってますぞ」

「例えばだ。上園に対する貶めが成功したとしよう。だが、それによって傷ついた上園を優しい小夜さんが逆に可哀想だと慰めたら?」

「い、いや、上園殿の人としての尊厳を失わせるほどのデマを流せば、風羅殿も気持ち悪がって遠ざかっていくのではないかと――」

「甘い! 甘いぞ、柳! 小夜さんは恐らくシスターのような慈愛の心を持っているに違いない。ならば、デマを流したとしても、それがデマだろうが事実だろうが関係なく、小夜さんは上園を救うだろう」

「ま、まさか。風羅殿、女神説!?」


 …………色々とツッコミ所満載だけど、面倒くて黙ってました。


「ええと、先ず作戦内容だが、前にも言ったけどやり過ぎはダメ」


 そもそも、上園を精神的に潰したら火七海さん的によろしくないだろ。


「あくまでも、二人の距離を開けさせないとダメだから却下」

「いやしかし、ではどうすれば……」

「そうだな、火七海さんはどう? 何か案とかある?」

「おい、順番的に次は私じゃねえのかよ?」

「5W1Hの説明をしてもらったし、悪いかなって。あと、パン食ってるし」

「なにがだよ! ったく、せっかく良い案思いついたっていうのに」

「いや、案があるなら聞かせてもらいたいです」

「なんか、うぜえな。まあいい。私の作戦はこうだ。先ず、風羅にお前がアタックする」

「…………えっ?」

「それで、上園よりも先に風羅を惚れさせる。以上」


 …………それだけ?


「い、いや、待て待て」

「どうしたよ? 私の作戦が素晴らしすぎて動揺してんのか」

「なるほど、玲やるな。今まで、上園と小夜さんの距離を遠ざけることに注目してたけど、そもそも目的は凛と小夜さんを引っ付けることだから、上園と小夜さんがくっつくよりも先に、凛と小夜さんを引っ付ければいいんだよな」

「いや、でも……」


 言ってることは間違ってない。だから、さっきのWhyの説明の際、俺と風羅さんを引っ付けるのが目的だと木窯が言っても何も言わなかった。

 でも、いざこうやって作戦として指摘されると……何だろう。そりゃ、風羅さんともっと近づきたいと思うけど、でも、心の準備というか、いや、今の距離感が崩れるのが怖いというか……。もし、失敗したらと思うと、もう、俺は彼女を遠くで見ることさえ、出来なくなってしまうんじゃないかと、そう思ってしまう。


「いやー、フィーバーモードに入った木窯殿はキレキレですな」

「フィーバーモードって表現が何か腹立つから一発殴らせろ」

「理不尽!?」


 でも、こいつらが協力してくれるって言ってるのに、失敗した時のことを考えるのは野暮だよな。

 なんだかんだ言ってやる時はやるし。


「じゃあ、今の案に賛成の人」


 霧茅の言葉に、俺も含めた全員が手を上げた。


「決まりだな。じゃあ、俺たちは凛のアシスト。凛は、頑張って小夜さんに近づく。これでいいな?」

「ならば、風羅殿の趣味に合わせるために読書をせねばなりませぬな」

「そうなるな。ええと、俺は身体動かすの大好き人間だから、そういうのはよく分からん」

「私も、本はマジわけ分かんねえ。つか、活字が嫌だ」

「私も、よく分からないですねー」

「私は、本よく読むし、一応読書部に友達もいるから、何ならその子からオススメいくつか訊こうか?」


 読書部って、そんな部活うちにあったのか……。つか、俺の中でチャラい火七海さんのキャラがインテリ系へと変わっていく。


「じゃあ、本に関しては輝耶(かぐや)さんに任せるとして。まあ、後のことはまた月曜だな」


 気づけば、外の風景もすっかり夕日に染まっていた。

 何はともあれ、作戦内容が決まった。

 ……頑張ろう。超草食系、いや絶食系だった俺は死んだんだ。月曜からは肉食、いや、普通の草食系として生まれ変わる!!


あとがき


「パンといえば、皆は何パンが好き?」

「私は断然ジャムパンだな。特にイチゴが美味い」

「俺は、あんぱんかな」

「お前、地味すぎ。だから、無個性って言われんだよ」

「ひでえ」

「我輩は、メロンパンですぞ」

「ああー、だからぽっちゃりしてるんだねー」

「ナチュラルメンタルアタック!? グボホッ」

「私は、食パンね」

「ということは、朝はパン派か。ちなみに、私は朝からジャムパン」

「……なんで、太らないの」

「神は個性を作るために、玲から太る機能を削除しました」

「初めて神を恨んだわ」

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