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第三十八話 とある同好会の防衛

 九月十一日。

 魔術部にまつわる噂を調べるため、俺と水元は同好会落ち予備軍である部活を回っていくことにした。

 何故、そんな部活に絞ったかというと、同じ境遇にある部活の方がそういうのに敏感なんじゃないですか? という水元の意見を汲んだからだ。


「で、先ずなんて部活から回るんだ?」

「演劇部ですよ」

「同好会落ち予備軍の演劇部、か」

「正しくは、人形劇兼演劇部ですけどね」


 そんな中途半端なことしてるから、予備軍になるんだよ。

 と、心の中でツッコミつつ、俺はその人形劇兼演劇部の部室という部屋の扉に手をかけた。


「入部希望者か!?」

「残念ながら」


 背後からの声にも慣れたのか――まあ、少し予想していたのもあるが、俺はその期待が含まれた男子生徒の声にも冷静に答えることが出来た。


「じゃあ、冷やかしか!?」

「まあ、捉え方によっては」

「冷やかしでも構わん! 見て行け! そして、冷やかしていけ!!」


 演劇部だけあって、声がデカい。

 つか、冷やかしていけってなんだよ。


「……まあ、いいや。あのさ、今回、ちょっと演劇部に訊きたいことがあったんだけど――」

「人形劇部も兼ねてるぞ!」

「知ってる。で、訊きたいことだけど、魔術部について何か知らないか?」

「魔術部? ああ! 同好会落ちしたっていう、危ない部活か!」


 危ない? いや、まあ魔術部と聞けば危ない印象を持ってしまっても仕方ないけど。


「なあ、危ないってどういうことだ?」

「うん!? いや、友人から聞いた話なのだがなっ――!?」


 スッと、その彼の大きな口を背後から出た手が塞ぐ。


「すまないね。うちのバカは煩いのが売りなんで」


 言って、声が大きいバカを引きずり部屋に入って行こうとした男は、すれ違いざまに、そっと俺に近づき呟いた。


「あまり詮索しない方がいいよ」


 おいっ――。口よりも先に出た手を避け、二人は部屋の中へと入って行った。


「詮索しない方がいいって、言いましたよね」

「ああ。やっぱ、何かあるな」


 といっても、演劇部にはもう期待出来ないか。さっきのバカに上手く訊けばとも思ったが、あの様子じゃ強く口止めされるだろうしな。

 しかし、いよいよ怪しくなってきたな。


「水元、次だ」

「はい!」


 そう感じているのは、水元も同じのようで。俺の言葉に、彼女は強く頷いた。











 演劇部部室を後にした俺と水元は、その後、トランプ部、影写し同好会、神部、亜人同好会、星喰親衛隊同好会、摩天楼同好会、ドロップの美味しい食べ方同好会、ドロップショット同好会、ドロップダウン同好会……と、様々な部活、同好会を回ったが、その全てが『純粋に知らない』と『知ってるけど言えない』の二択に分かれた。

 それにしても、色々な活動があるもんだ。個人的には、何故『ドロップの美味しい食べ方同好会』と『ドロップショット同好会』が争ってるのかが最後まで気になったが。


「確定ですね」


 水元が、メモを片手に呟く。


「ドロップの美味しい食べ方同好会とドロップダウン同好会も互いに争ってるみたいですね」

「マジか」


 ドロップ三同好会による三つ巴の争いが……。

 いや、まあどうでもいい……こともないか。


「そろそろ、話を戻しましょうか」

「ああ、そうだな」


 ドロップの話も気になるが、本題ではないからな。


「事情を知っているであろう人たちが、ここまで口を揃えて教えてくれないとなると」

「恐らく、学校単位で口封じが行われているとしか考えられないな」

「少し突飛ですけどね。でも、テレビとかでもたまに報道されてますからね。似たようなことを」

「だから、そこまで非現実的でもないんだよな」

「まあ、リアリティの話は置いておいて。問題は、相手が学校単位となってしまった可能性が高いということですよね」

「こうなってくると、俺にはどうしていいか分からん」


 もし仮に、魔術部の同好会降格が学校側が仕組んだことなら、俺たちはどうやってそれを認めさせ、かつ訂正させることが出来るだろうか。

 無理だ。仮に、魔術部に味方する人間が多数居るのなら話は変わってくるが、どうにも話を聞いた面子からは、そういった想いは感じられなかった。

 触らぬものに祟りなし。『魔術部』という単語が出た瞬間、皆一様に顔をしかめたのが良い証拠だろう。


「仕方ないですね」

「そうだな。まあ、せめて理由だけでも知りたい所だけどな」

「あ、いえ、そういう意味じゃなくて。切り札を使おうという話ですよ」

「切り札?」


 そんなものがあったのか。でも、学校に対抗できる切り札とかあるのか? モンスターペアレントとか? まさかな。


「なんだよ、切り札って」

「"生徒会"ですよ」


 生徒会、か。

 まあ、生徒代表チームと言い換えれば、理にかなっているのかな。

 でもな、水元よ。生徒会なんて、ただの実績作り集団に過ぎないんだぜ。漫画やアニメのような権力なんて、持っちゃいないんだよ。

 それにさ。


「生徒会に相談するのはいいとして、誰か知り合いでもいるのかよ? それとも、初対面の人たちに学校の陰謀を訴えるとかか?」

「まさか。というより、その言い方だとりんりん先輩は、生徒会長が誰なのか知らないみたいですね。さすがは学校と距離を置く男」

「置いてなくとも、生徒会長の名前なんて憶えてる奴は少ないと思うけどな」


 いや、よっぽど目立つキャラしてるならともかく、生徒会に入る人なんて無個性の塊みたいなもんだろ。いや、凄い偏見で申し訳ないけどさ。


「そうですね。でも、今の生徒会長なら、一部では割と有名な方ですよ」

「へえ、誰だよ」

土壊(つがい)椿(つばき)さん、です」


 …………分からん。

 けど、土壊って何処かで聞いたことあるような……。

 











 生徒会室は、一階にある職員室の隣の生徒指導室の更に隣にある。


「職員室より緊張しますね」

「意識し過ぎだ」


 別に、魔術部みたく堂々と『生徒会室』と書いてあるわけでもないし。

 でもまあ、水元の言うことも分かる気がする。

 自分にとって、全く関係無い部屋。しかし、中にいるのは自分より少し立ち位置の高い人たち。

 緊張というより、不気味といった方がいいだろうか。生徒会というものが、どうして存在するのか、また何をしているのか。

 いや、ほんと何をする組織なのだろうか。学校と距離を置く男なので全然分からん。


「失礼します」


 水元に続き、俺は生徒会室へと入る。

 教室よりも少々小さい部屋の真ん中には、大きな机。当然、周りには椅子が並べられている。ちなみに、書類等は散乱していない。ちゃんと整頓されているようだ。


 そんな、机の丁度真ん中の椅子に、目を閉じ静かに腰を下ろしている、黒髪で色白で眼鏡をかけた女子生徒が一人。

 まるで、どこかのお嬢様かと思うほどの、おしとやかな印象を持たせる女子生徒。なるほど、一部で有名なわけだ。というか、一部じゃないだろ。これ。


「……お客様とは珍しいですね」


 目を開け、彼女は微笑みを浮かべ言った。雰囲気通りの、落ち着きのある口調には、さすがの俺もドキッとしたと白状しておこう。


「あの、土壊先輩。お話があるんですが」

「お話? いいですよ」


 変わらず、圧倒的落ち着きを持って対応する土壊さん。後方から差し込む夕陽もあって、その姿は神々しさすら感じられる。


「実は"魔術部"についてなんですが」

「魔術部、ですか」


 ふふっ、とまるで予見していたかのように、彼女は笑みを浮かべる。


「土壊先輩?」

「ごめんなさい。でも、そう。ようやく来たんですね」

「ようやく?」


 意味深な発言。

 どうやら、見た目通りお嬢様系というわけでもないようだ。まあ、ちょっと考えれば十分に予見できることではあるが。


「待っていたんです。魔術部に関して、私の元に誰かが訪ねてくるのを」

「えっ、なんで――」

「そう言うってことは、生徒会も今回の噂に絡んでると解釈していいんだな」

「ええ。そう受け取ってもらって大丈夫ですよ」


 あっさりと認めた。ということは、そこまで悪いことだと自覚がないのか。それとも、今更暴露しても問題ないってことか。


「土壊先輩、何を知ってるんですか」

「『何を』という質問なら、『殆ど』という答えを返せますね。もっと具体的な数字を出すなら、八割くらいは知ってます」

「嘘……」


 水元は絶句した。

 そりゃそうだ。頼りにしていた生徒会が実は犯人側だと一体誰が予想できる。俺だって無理だ。つか、生徒会にそこまでの力があるとは到底思えない。

 だが、土壊が嘘をついているようには見えない。いや、もしかしたら本心を隠すのが上手い人なのかもしれないが、少なくとも俺の基準では、彼女が嘘をついているようには見えなかった。


「知りたいのなら答えましょうか。丁度、暇をしていたところですから」


 そう言い、土壊は自称事実を話し始めた。










 土壊曰く、魔術部を潰した理由は学校から頼まれたから、らしい。

 当時、常に一定数の部員を獲得していた魔術部は、得体が知れないとはいえ、特に問題も起こさない優良な部活として通っていた。

 だが、ある日、魔術部に関するある噂が流れ始める。


 『魔術部は、先輩が後輩に魔術に必要な"素材集め"と称してしてカツアゲをしている』


 しかも、それは魔術部内に留まらず、魔術部に関係のない生徒にまでターゲットにしていると。

 もちろん、教師陣は噂の真偽を確かめるため、魔術部所属の後輩に事情を訊いた。だが、誰もが噂を肯定しなかった。

 先輩が怖かったから、首を縦に振れなかったのか。それは、教師でも分からない。

 しかし、噂を放置するわけにもいかない。小さな噂が、いつしか実態のない真実に変わることなど、いくらでもあるからだ。

 そのような理由から、教師陣としてはこの問題を放置したくなかった。しかし、噂程度で部活を活動停止させるわけにもいかない。教師陣は頭を抱えたそうだ。

 そんな頭を抱える教師陣の噂を聞きつけ、彼らに救いの手を差し伸べたのが土壊さんだった。

 波風立たせず、魔術部を廃部に追い込む。

 土壊さんは、たった一人で魔術部を同好会に降格させた。


 方法については語らなかった。だが、自分が主導者だとは認めた。また、上記以外の人物の関与はないことも認めた。


「以上が、私から言える"事実"です」

「…………」


 具体性がなく作り話にも見える。少なくとも、水元は疑いの目を向けていた。

 俺だってそうだ。言葉では何とでも言える。

 だが、今はそうだと考えるしかない。今の俺たちに、それが真実か嘘かを判断する材料はない。

 今の俺たちに出来ること、それは土壊の話の真偽を確かめることじゃない。


「一つ質問」

「なんですか?」

「偽装してまで、"今年度"に魔術部を同好会に降格させた理由は、文化祭での扱いの差を考えてのことか?」

「そうですね。ただ、一応補足するなら、そうすることを決めたのは私ではなく教師陣です」


 教師陣が決めた。やるなら徹底的に。学校の評価を落としかねない存在は、早めに潰しておかなければならない。


 話を聞き、その違和感と非現実さに、俺は目眩がした。

 力のない、ただの思い出作り、または実績作りでしかないと思われた生徒会は、学校の協力があるとはいえ部活一つ潰せるほどの力を持ち。また、テレビの先の世界でしかないと思われた学校単位での隠蔽、または目に見えない暴力は、当たり前のように、俺の通う学校でも存在した。


「他に訊きたいことは?」


 生徒会長土壊の言葉に、水元は力無く首を横に振る。


「あなたは?」

「…………」


 ないわけではない。だが、それをちゃんとした言葉にするだけの材料を持っていない。

 違和感が身体に纏わり付いて離れない。だが、それが何なのか分からない。


「いや、大丈夫」

「そうですか」

「ありがとう。色々と」

「いえ」


 俺は会釈し、水元を連れ生徒会室を後にした。











 俺と水元は、人のいない廊下を歩いていた。

 どうしようもないという現実。それは、水元に大きなダメージを与えたようだ。

 だが、水元も引きずるタイプでもないし、直ぐに復活するだろうが。


「これから、どうしましょうか……」


 ふと、そう呟いた水元。その声に力はない。

 まあ、俺も今日は疲れたし、帰りたいというのが本音ではあるが……せっかくだ、もう一つ見て回りたかった部活にでも行こうか。


「なあ、水元」

「はい」

「オカルト部の部室って何処にある?」


 オカルト部という言葉に、水元はきょとんとした顔でこちらを見てきた。

 いや、やっぱ事件の渦中にいる部活だし、どんな感じか見ておくのは当然だと思ったのだが……。


「ああ、えっと、確かB棟三階の空き教室だったと思うんですが」

「そうか。いや、さすがは水元だな。もしかして、部の活動拠点全部把握してるのか?」

「いえ、昨日全部調べただけです」


 やはり、ショックを受けているようで。いつもなら、ここから俺を貶す流れになるのだが……いや、ならないなら、それでいいんだけどさ。


「どうする? 水元も行くか?」

「……いえ、遠慮しておきます。今日はちょっと疲れました」


 すみません。そう頭を下げ、水元は下駄箱の方へ歩いて行った。

 一人で突入か。どうにも、水元がいたから部屋に入っていけた所もあるからな。そうやって、後輩頼みなのも情けないし、いっちょ行くか。











 オカルト部部室に勢いで入って早々、メガネ男子に何用かと呼び止められた。

 つか、この部屋なんか臭い……。


「いや、用っていうほどのもんでもなくて」

「そうでしたか。じゃあ、もしかして見学とか?」

「見学……でもなく」


 俺は、それとなく室内を見渡す。

 なんだろうか。魔術部に比べると、不思議な置物とか書物とかが少な過ぎる気がするんだが。


「あの、ここは魔術部と比べて、オカルトグッズとか少ないんですね」

「魔術部……そうですね。少ない、ですね」


 何か想いを巡らせるように、メガネ男子は視線を下にやる。

 この反応は、つまりそういうことなのだろうか。


「その、そういう感想を持たれるということは魔術部に行ったん、ですよね」

「ああ、一応」

「その、か、鑑さんは元気でしたか?」

「そうだな。元気、というか普通、いや寂しそうだったかな」

「そう、ですか」


 俺とメガネ男子の話に小耳を立てている、他の部員たちも各々、心配そうな表情から、何か悔しそうな表情まで。とにかく、魔術部を避けようとしているような雰囲気ではなかった。

 むしろ、自分たちが彼女を裏切ったことを、悔いているような。いや、あくまで、俺がそう感じただけだが。


「ああ、悪い。時間取らせて」

「えっ? あっ、いえ、大丈夫です」


 俺は強引に話を切り上げ、扉を閉めた。

 ……さて、どうしたものかな。


あとがき


紹介


同好会


学校の規定によると、部員数が五人以下の活動、または年度末時点で部員数が五人以下の場合、同好会と呼ぶ。

部活と同好会の違いは、部費が出るか出ないかである。

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