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第二十一話 後悔と思考

 魂が抜けるというのは、こういう状態のことを言うのだろう。

 風羅(ふうら)さんに有る事無い事を謝罪した後、他の生徒が教室に入ってきたため俺を含めた三人は、それぞれの位置へと自然に戻って行った。

 俺は俺の席へ、風羅さんは風羅さんの席へ。


 後悔だけが残った。

 何故、あんな選択を取ってしまったのか。やろうと思えば、火七海(ひなみ)さんが言ってることが半分も当たってないことを無理矢理証明できたはずなのに。

 結局、後悔と怒りと憎しみが頭の中で回り回り、一限目から六限目まで、まともに授業の内容が、人の言葉が頭に入ってこなかった。


 といっても、頭が真っ白になっていたわけではない。

 後悔に対する理由付けや、風羅さんと火七海さんに対して今後、どうしていくかなどを考える余裕はあった。だが、後悔などが頭の中で回っていた時間の方が多かったのは事実なので、まともな回答は出せなかったのだが。


 ……ただ、一つだけ決めたことがある。

 それは、火七海さんにも今の俺と同じ想いを味わってもらおうというものだ。

 彼女は、今回かなり強引に俺を貶め、始まってもいない俺の恋を終わらせることに成功した。いや、まだ終わったと決めつけるには早いが。

 だが、強引故に今回の彼女の行動には穴が出来過ぎた。それを、本人が気付いているかどうかは知らないが――まあ、それなりに賢そうな子だし分かってるだろう。

 さて、問題はどうしたら一番効果的にダメージを与えられるかなのだが……。


「ちょっといいか?」


 そんなことを歩きながら考えていた俺の目の前に現れたのは、真剣な面持ちの上園(かみその)だった。











 思い返してみれば、今日も普通に上園は風羅さんに会いに来ていた、と思う。つまり、昨日の水元(みなもと)による作戦は失敗したということだろう。

 ついでに、恐らく風羅さんから今朝のことについて何か聞いているかもしれない。そうでもなきゃ、上園が俺を呼び出す理由なんて無いからな。


「今日の朝、風羅さんに言ったことは本当なんだな」


 特別棟二階の俺たち以外に誰もいない廊下にて、予想通り上園はそう言った。

 俺が朝、風羅さんに言ったこと。いや、本当だと認めたことは。


 一、不地方(ふじかた)さんに、上園にぶつかるよう俺が指示したこと。

 二、水元に、風羅さんと上園の仲を裂くよう色々言うように仕向けたこと。


 この二つだ。

 大方、暗い表情の風羅さんを心配して、上園が聞き出したといったところだろうか。

 さて、どう答えたものか。このまま、風羅さんに言ったように間違いないと答えるか。それとも、ちゃんと否定するか。


「どうなんだ?」


 上園は怒っている様子ではない。表情は真剣なだけで、頭に血が上っているようでもないし、声からも単に事実確認がしたいだけだといった冷静さが感じられる。

 なら、取るべき選択は決まっている。


「半分正しくて、半分間違いだな」

「えっ?」

「どちらも、半分合ってて半分間違ってるんだよ」

「いや、だからどういう」

「一応確認しとくけどさ。この事、風羅さんから聞いたんだよな?」

「だったら、どうなんだよ」

「いや――じゃあ、もう一つ確認。上園は、不地方さんと水元の二人が絡んだ事件を起こした張本人が、風羅さんの言う通り、俺なのかどうか確認したいんだよな?」

「ああ、そうだけど」


 どうも、ここまで話していて感じたことだが、俺の中の上園像と実際の上園は少し違うらしい。俺が持っていた上園像は、例えるなら霧茅(きりがや)に似た、人生充実してますよてきなタイプだ。

 しかし、実際話してみると、俺が先日可能性の一つとして考えた"俺と似た慎重なタイプ"の方が近いように感じられる。

 どうだろう? 初対面の人相手だから、かしこまってるのかもしれないが、どうも後者で当たりな気がする。

 いや、ただの勘だけど。


「風羅さんは俺が不地方さん、あと水元に命令してアクションを起こさせたと言ってたよな?」

「ああ、確かそう言ってたよ」

「実は、そこが間違ってるんだよ」

「……どういうことだよ」

「俺がその二つに関わっていたのは事実だ。だけど、命令したのは俺じゃない」

「いや、でも……そんなの、信じれるわけないだろ。それに、だからといってお前が関わっていた時点で――」

「確かに、関わっていたにも関わらず、止めなかった時点で同罪だ。だけど、よく考えてみろよ。命令したかしてないかは、大きなポイントになってくる。それが嘘か本当かで、印象が大分違ってくると思うぜ」

「…………」


 上園は、俺のことを一から十まで疑っているというわけではないらしい。加えて、好きな人を傷つけられたから許さないと強く思っているわけでもないのだろう。

 この反応を見る限り、単細胞ではなく、ちゃんと自分で考えられる頭を彼は持っている。

 つか、俺の発言かなり無茶苦茶なの気付いてるだろうか?


「そういえば、風羅さんは誰からその事を聞いた、とか言ってたか?」

「いや、特には」

「そうか」


 まあ、現時点で火七海さんがその情報を流したことを上園が知っても問題はないから、どっちでもいいといえばどっちでもいいのだが、一応訊いておかなくちゃな。

 さて。となると、俺は上園に身の潔白を証明しなきゃいけないわけだが。


「今日は木曜日か……」

「?」

「明日の昼休みにでも、俺が言ったことが事実だという証拠を用意するから、取り敢えず、それまで待っててくれないかな」

「明日の昼休みか……分かった」


 上園が単細胞じゃなくてよかった。

 さて、問題はどう準備するかだ。


「でも、昼休みになっても俺を納得させるほどの証拠を用意できなかったら、俺はこの事を許さないからな」

「ああ、それでいいよ。そう言われても仕方ないことを、俺はやったんだから……」


 その言葉だけは、怒りが含まれていた。なるほど、やはり怒ってはいるのか。

 まあ、リスクは常に付きまとう。大事なのは、そのリスクをどのようにして軽減するかだ。

 ある程度、道筋は見えた。ここからは、時間との勝負だ。











 自室のベッドの上というベストプレイスにて、俺は今日やっておくべきこと、また明日やるべきことを纏めようとしていた。

 まず、何が目的か。

 それは、上園を利用し火七海さんに精神的なダメージを負わせることだ。まあ、つまり俺が好きな人に嫌われたのと同じことを火七海さんにも体験してもらおうというものだな。


 では、どうやって嫌ってもらうか。

 これは簡単。上園に情報源が火七海さんだということ知らせ、かつその情報は俺を貶めるために偽装されたものであることを証明すればいい。そうすれば、自動的に上園は火七海さんに事実確認をしに行き、晴れて関係が"拗れる"という寸法だ。


 次に、どうやって証明するか。

 これも簡単……でもないか。不地方さんと水元を呼び出し、二人に事実を言ってもらえばいい――と、これで、あっさり信じてくれたら楽なんだけどな。これに関しては、もう少し考えてみるか。

 ちなみに、水元はともかく、不地方さんの呼び出し方だが、これには木窯(こかま)を使う。友人である木窯経由なら、火七海さんにもバレないだろう。元々、不地方さんは俺を嫌ってないし、火七海さん云々を隠せば素直に協力してくれると思う。

 まあ、木窯なら『面白いものが見れそうだから協力する』と言ってくれるだろう。あいつは、そういうタイプの人間だ。


 さて、ここで問題となってくるのは上園が二人の証言を素直に信じてくれるかどうかだ。

 俺が二人に、そう言うように仕向けたと思われても困るし、やはり蹴珠や霧茅を使うべきか。……いや、俺の友人を増やしても仕方ないか。

 となると、上園が信じる相手を用意するべきか……風羅さん? 風羅さんを先に説得するか?

 いや、でもだったら風羅さんをどうやって説得するかだよなあ。風羅さんがどういうタイプの人間かイマイチ分からないから、どうやって誤解を解けばいいか分からないし。つか、今更発言を撤回して信じてもらえるかというとな。そもそも、風羅さんと親しい人が俺の知り合いにいないし。

 水元とか? でも、水元に作戦のこと言わせるのもなあ。地味に、今日水元一回も風羅さんの所に来てないし。多分、風羅さんを傷つけたこと気にしてるんだろう。そもそも、水元も事件に関わってるから、印象下がってると思うし。


 やっぱ、素直に上園を頑張って説得してみるか。畳み掛ければ、信じるだろ。




 ……いや、待てよ。

 いるじゃん。風羅さんの知り合いかつ、俺の知り合い。

 月下(つきか)一灯(ひとひ)。先日、食堂で会った茶髪メガネ。

 確か、二年の時に交流があったんだよな。しかも、協力してくれるって言ってたし。

 よし、頼もう。風羅さんの誤解を解くためって(てい)で行けば大丈夫。変に思われる心配もない。

 でも、これだと昼休みに証明するってことが出来なくなるのか。まあ、別にタイミングはいつでもいいんだけどさ。


 あとは、アフターケアだな。これは、俺の予想と上園の性格が一致していたら問題ない。けど、念には念をで霧茅に調べてもらうとしよう。




 さてさて。明日は濃い一日なりそうだな。

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