第15話:『僕を捨てないで』――理性が溶ける甘い呪縛
東の空の端が、深い群青から淡い菫色へと移ろい、やがて薄絹のような淡い乳白色の光が街並みをゆっくりと包み込んでいく。
二〇五号室の寝室。遮光カーテンのわずかな隙間から差し込んだ朝の清澄な光の筋が、フローリングを真っ直ぐに走り、ベッドの白いシーツの端を淡く照らし出していた。
外を濡らしていた夜の雨はいつの間にか上がり、遠くの街路樹の葉から雨露がアスファルトへと滴り落ちる、かすかな清音だけが早朝の静寂に溶け込んでいる。
「……ん……」
葵は、深く長い呼吸とともに、ゆっくりとまぶたを押し上げた。
視界を満たすのは、昨日までの濁った熱気に苛まれた悪夢の景色ではなく、輪郭を取り戻した見慣れた自室の天井だった。
呼吸が驚くほど滑らかに通る。気管を焼き尽くすようだった灼熱の痛みは綺麗に消え失せ、肺の奥まで澄んだ冷気が満ちていくのが分かった。頭蓋骨を金槌で打たれるようだった激しい拍動痛も、まるで嘘のように遠のいている。
全身を覆っていた鉛のような重みは抜け落ち、額に手を当ててみても、皮膚の表面は平熱のそれへと落ち着いていた。
(……熱が、下がったんだ)
葵は小さく息を吐き出し、胸に手を当てた。
トク、トク、と刻まれる脈拍は穏やかで、激しい悪寒に震えていた昨夜の極限状態が、まるで遠い出来事のように感じられる。
激務と精神的な緊張の果てに、三十九度を超える高熱で玄関先に倒れ込んだ自分。
大人のプライドも、管理職としての責任感も、すべてをかなぐり捨てて意識を手放してしまった醜態。
それなのに、今こうして自分が健やかに息をしていられるのは――。
葵の思考が現実の輪郭を結んだ瞬間、右手の先から伝わってくる確かな重みと熱に、葵は息を呑んだ。
視線を右手の先へと落とす。
ベッドサイドの床の上。薄い絨毯の上に正座したまま、上半身をベッドのシーツへと預けるようにして、湊が眠っていた。
葵の右手を、自らの両手で大切そうに挟み込み、胸元に抱きしめるような姿勢のまま。
一晩中、一睡もせずに看病を続け、夜明け前に葵の熱が引き始めたのを見届けた瞬間に、張り詰めていた糸が切れて力尽きてしまったのだろう。
朝日が、湊のさらりとした漆黒の髪を柔らかく透かしている。
陶器のように白い頬には、徹夜の疲労と看病の過酷さを物語るかすかな陰影が刻まれていた。整いすぎた鼻筋、形の良い薄い唇。規則正しく刻まれる微かな寝息が、葵の指先の皮膚をくすぐるように触れていた。
葵は息を殺し、じっとその寝顔を見つめた。
十八歳。
高校を卒業したばかりの、本来なら誰かに守られ、人生の猶予を謳歌しているはずの若い男の子。
そんな少年が、三十三歳のくたびれた大人の女のために、一晩中、身を粉にして尽くしてくれたのだ。
額の冷却シートを何度も換え、汗を拭き、服を着替えさせ、喉越しの良いスープを一から作って一口ずつ食べさせてくれた。
誰にも頼れず、弱音を吐くことすら罪悪感として抱え込んできた葵の孤独を、この少年は、全身全霊の献身をもって丸ごと包み込んでくれたのだ。
(……どうして、そこまでしてくれるの)
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられるように痛んだ。
愛しくて、申し訳なくて、そして途方もなく温かい感情が、葵の心の堤防を決壊させんばかりに溢れ出してくる。
葵は左手をそっと伸ばし、湊の乱れた前髪を、起こさないようにそっと指先で撫でた。
指先を通して伝わってくる、絹糸のような黒髪の感触。
その瞬間だった。
葵の指先が触れたわずかな振動に反応したのか、湊の長い睫毛がピクリと震えた。
「……ん……っ」
湊が小さく身じろぎをし、固く閉ざされていた切れ長の瞳が、ゆっくりと持ち上げられた。
朝の光を浴びて、深い夜の色をした漆黒の双眸が露わになる。
覚醒しかけたばかりの瞳は、最初はぼんやりと焦点が合っていなかった。寝ぼけたようにまばたきを二度、三度と繰り返し、それから――目の前にある葵の顔を捉えた。
「――っ! 葵、さん……!?」
弾かれたように、湊の上半身が跳ね起きた。
眠気など一瞬で吹き飛んだように、その瞳が見開かれる。
「葵さん、気がついたんですか!? 身体は!? どこか痛いところはありますか!? 喉は乾いてませんか!?」
矢継ぎ早に繰り出される問いかけ。湊の声は掠れており、どれほど声を張り上げて葵を呼び続けていたかを如実に物語っていた。
「湊くん、落ち着いて……」
葵は苦笑し、掠れのない声でそっと告げた。
「大丈夫よ。熱、すっかり下がったみたい」
「え……?」
湊は信じられないといった様子で目を瞬かせた。
そして、確認せずにはいられないとばかりに、ベッドの上へと身を乗り出してきたのだ。
葵が制止する間もなかった。
湊は両手を葵の枕の両脇に突くと、そのまま自分の顔をぐっと近づけてきた。
「え、ちょっ――」
葵の言葉が途切れる。
ペト、と温かな感触が、葵の額に直接重ねられた。
――おでこと、おでこ。
至近距離、という生ぬるい言葉では言い表せないほどの零距離だった。
湊の額が、葵の額にぴったりと密着している。
湊の長い前髪が葵の目元をくすぐり、葵の視界のすべてが湊の澄んだ黒い瞳で埋め尽くされた。
湊が深く息を吸い込むたびに、その熱く清潔な吐息が葵の唇と鼻梁を包み込む。石鹸の爽やかな香りと、湊自身の体温の匂いが、葵の胸の奥深くまで侵入してくる。
ドクン、と葵の心臓が激しく跳ね上がった。病み上がりの身体に、暴力的なまでの異性の気配が雪崩れ込んでくる。
「……っ、湊くん、近い……!」
「動かないでください」
湊の声は真剣そのものだった。
湊は葵の額に自らの額を押し当てたまま、目を細めて体温の差異を確かめている。
数秒の、けれど葵にとっては永遠のように思える沈黙ののち――。
湊の身体から、フッと強張っていた力が抜け落ちた。
「……よかった……」
湊の唇から、震えるような吐息が零れ出た。
「本当だ……熱、下がってる……。いつもの、葵さんの温かさだ……」
湊はゆっくりと額を離した。
けれど、その距離はわずか数センチしか離れていなかった。葵の顔の真上に覆いかぶさるような体勢のまま、湊は葵の顔を凝視していた。
その瞳の端から、ツッと一筋の透明な雫が零れ落ちた。
「……え?」
葵が目を丸くした瞬間、湊の端正な顔が、ぐしゃりと子どものように歪んだ。
ボロボロと、大粒の涙が湊の目から溢れ出して止まらなくなる。
「湊、くん……? どうして泣いてるの……?」
「よかった……本当によかった……っ!」
湊は喉を詰まらせ、しゃくりあげるように泣き出した。
「僕、怖かったんです……! 葵さんが玄関で倒れて、いくら呼んでも返事をしてくれなくて……身体が火の塊みたいに熱くて……このまま、葵さんがどこか遠くへ行っちゃうんじゃないかって……僕をおいて、消えちゃうんじゃないかって……!」
十八歳の少年が、人目も憚らず、誇りもプライドもかなぐり捨てて、ただひたすらに葵の無事を喜んで泣いている。
その涙の熱さに、葵の胸が締め付けられた。
「ごめんね……心配かけちゃって、本当にごめんね……」
葵が声を震わせながら謝ると、湊は激しく首を横に振った。
「謝らないでください……っ! 僕が……僕が悪いんです! 葵さんが毎日あんなに頑張って戦ってるのに、僕、くだらない嫉妬で葵さんを困らせて……昨夜だって、もっと早く葵さんの異変に気づいていれば、あんなになるまで放っておかずに済んだのに……!」
「そんなことないわ。湊くんが看病してくれたから、私、こうして元気になれたのよ」
「でも……っ!」
湊は葵の手を再び両手でぎゅっと包み込んだ。
今度は、先ほどのような穏やかな祈りの手つきではなかった。
逃がさないように。二度と自分から離れていかないように。骨がきしむほどの強い力で葵の右手を握りしめ、自らの胸元へと引き寄せる。
そして、湊はゆっくりと腰を落とし、ベッドの脇に跪いた。
葵の右手を両手で挟み込んだまま、自らの額を、葵の手の甲へと深々と押し当てたのだ。
ごつり、と骨の当たる感触。
葵の手の甲に、湊の熱い額が押し付けられ、ポタポタと湊の涙が葵の皮膚を濡らしていく。
「……湊くん?」
葵の呼びかけに、湊の身体が小さく痙攣した。
額を手から離すことなく、押し殺したような、けれど魂を削り出すような切実な声が、湊の唇から紡ぎ出された。
「……葵さん」
低く、震える声。
「僕……もう、耐えられません」
「え……?」
「あなたがいなくなるかもしれないって考えただけで……僕の目の前が、真っ暗になったんです。息ができなくなって、心臓が千切れそうで……死ぬよりも、ずっと怖かった」
湊の手のひらが、葵の手をさらに強く締め付ける。
熱い涙が、葵の指の隙間を伝ってシーツへと染み込んでいく。
「僕ね……家を出た夜、雨の中で倒れていた時、本当にどうでもよかったんです。あのまま冷たくなって死んでも、誰も困らないし、僕自身も生きてる意味なんて何一つないと思ってました。あんな家に生まれて、操り人形みたいに扱われて……僕の人生なんて、最初から空っぽだった」
絞り出すような告白。
雨の夜の、あの絶望的な瞳の奥にあったものの正体が、葵の胸に突き刺さる。
「でも……葵さんが、僕の手を取ってくれた」
湊はゆっくりと頭を上げた。
葵の手の甲から額を離し、下から葵を見つめ上げる。
その顔は、涙でぐしゃぐしゃに濡れていた。
けれど、その瞳の奥に灯っていたのは、迷いも揺らぎも一切存在しない、狂暴なまでに純粋で、底なしに重い光だった。
泣きそうな、すがるような、壊れそうな表情。
それなのに、葵の存在を根こそぎ奪い去ろうとするような、圧倒的な執着の輝き。
「葵さんが僕を拾って、温かい部屋に入れて、頭を撫でてくれた……。僕が作ったご飯を『美味しい』って笑って食べてくれて……僕に、生きている場所をくれたんです」
湊の喉が、苦しげに上下した。
「葵さんが僕の世界のすべてになったんです。……葵さんがいない世界なんて、僕にはもう、一秒だって耐えられない」
「湊、くん……」
葵の心臓が、激しく警鐘を鳴らし始めていた。
重い。
あまりにも、重すぎる。
十八歳の少年が、三十三歳の大人の女に向ける感情の質量としては、完全に許容量を超えていた。
受け止めてはならない。大人の理性として、「そんなこと言っちゃダメよ」「もっと広い世界を見なさい」と突き放さなければならない。
そうしなければ、自分自身がこの感情の濁流に呑み込まれ、社会的な破滅へと引きずり込まれてしまう。
けれど。
葵の喉はカラカラに渇き、拒絶の言葉を紡ぐことができなかった。
なぜなら、この一週間、葵自身もまた、この少年の温もりと手料理に、骨の髄まで依存しきっていたからだ。
湊がいなくなったら、自分もまた、あの冷え切った暗闇の汚部屋で、孤独に擦り切れていくしかないということを、葵自身が痛いほど知ってしまっていたからだ。
「葵さん」
湊が、さらに膝を進め、ベッドへと身を擦り寄せてきた。
濡れた黒い瞳が、葵の瞳を射抜いて離さない。
そして、十八歳の少年は、泣き出しそうな唇を震わせながら、決定的な呪縛の言葉を口にした。
「葵さんがいなくなったら……僕、生きていけません」
「――っ」
息が止まった。
「僕を、捨てないでください」
懇願だった。
誇りもプライドも、何もかもを脱ぎ捨てた、命を乞うような切実な祈り。
「十八歳だからって、子ども扱いして突き放さないでください。僕を……僕を、葵さんのそばに置いてください。葵さんのためなら、僕、何だってします。ご飯も、掃除も、仕事のサポートも、葵さんの欲しいもの全部、僕が一生かけて捧げますから……!」
湊の声は、最後には掠れた叫びへと変わっていた。
「だから……僕を捨てないで、葵さん……っ!」
ポロポロと零れ落ちる湊の涙が、葵のパジャマの袖を濡らしていく。
その姿は、雨の夜に出会ったあの時と同じ、捨てられることを極限まで恐れる大型犬そのものだった。
けれど、その言葉の重みは、あの夜とは比較にならないほど濃密に、葵の魂を縛り付けていた。
ずるい。
こんなの、あまりにもずるすぎる。
弱り切って、心身ともに無防備になっている朝の光の中で。
一晩中自分を看病してくれた美少年に、こんな顔で、こんな声で、涙を流しながら「生きていけない」と縋り付かれて。
どうやって拒絶しろというのか。
どうやって「大人と子ども」の境界線を引けというのか。
葵の胸の奥で、三十三年間かけて頑丈に築き上げてきたはずの理性の城壁が、メリメリと音を立てて亀裂を走らせていた。
「湊、くん……私……」
葵が震える唇を開いた、その瞬間だった。
――スッ。
湊の動きが、静かに止まった。
湊は葵の瞳をじっと見つめたまま、包み込んでいた葵の右手を、ゆっくりと持ち上げた。
葵の指先が、シーツからふわりと浮き上がる。
何をするのかと、葵が息を呑んだ次の瞬間。
湊は、葵の右手を自らの顔の前へと引き寄せると――。
迷うことなく、葵の『薬指』へと、視線を落とした。
「……あ」
葵の喉から、掠れた小さな吐息が漏れた。
朝の澄んだ光が、葵の細い左手――薬指の付け根を淡く照らし出している。
何も飾られていない、無防備な指先。
湊は、その薬指を、壊れやすいガラス細工でも扱うかのように、自らの長い指先で優しく支えた。
そして。
――チュッ。
静寂に包まれた部屋の中に、小さな、濡れた音が微かに響いた。
「…………っっっ!?」
葵の全身の血液が、一瞬にして逆流した。
湊の薄く熱い唇が、葵の薬指の第二関節のあたりへと、そっと、深く、吸い付くように落とされたのだ。
柔らかな唇の弾力。
熱い呼気。
そして、濡れた皮膚の感触。
指先から伝わってきた電撃のような痺れが、神経を駆け上がり、葵の脳天を激しく貫いた。
「な……っ、何を……!」
葵が手を引こうとするが、湊の手は決してそれを許さなかった。
湊は葵の薬指に唇を押し当てたまま、上目遣いに、ゆっくりと葵の顔を見上げてきたのだ。
その瞬間、葵は見た。
湊の濡れた睫毛の奥で、妖しく、狂気的なまでに甘美な光を放つ漆黒の瞳を。
先ほどまで泣きじゃくっていた仔犬の表情は、どこにもなかった。
唇を葵の肌に密着させたまま、湊の口元が、わずかに吊り上がっていた。
獲物の急所に完璧な一撃を叩き込み、完全に息の根を止めたことを確信した――獰猛な捕食者の、ぞっとするほど美しい笑み。
「……っ!」
息が詰まる。
薬指という部位が持つ、あまりにも残酷で明確な意味。
恋人たちの誓い。
永遠の拘束。
他の誰の手にも渡さないという、絶対的な所有のマーキング。
それを、十八歳の少年が、何のためらいもなく三十三歳の女の指先に刻み込んだのだ。
チュ、と名残惜しそうに唇が離れる。
葵の薬指の皮膚には、湊の唇の微かな湿り気と、火傷のような熱い体温が、くっきりと焼き付けられていた。
「葵さん」
湊の声は、もはや子どものそれではない。
低く、掠れ、どこまでも深く甘い、大人の男の声音。
薬指を握ったまま、湊は耳元に滑り込むようなトーンで囁いた。
「もう……逃げられないですよ」
「…………っ」
「僕を拾ったのは、葵さんです。僕に居場所をくれたのも、葵さんです。……だから、責任取ってくださいね」
湊の指が、葵の薬指をそっと撫で上げた。
背筋を駆け抜ける、甘美な戦慄。
「僕を捨てたら……僕、何をするか分かりませんから」
それは、脅迫の形をとった、究極の求愛だった。
逃がさない。
誰にも渡さない。
死ぬまで自分のものとして、この部屋で飼われ続け、そして同時に、葵のすべてを自分が支配してやるという――底知れない執着の宣言。
――パリン。
葵の頭の中で、何かが音を立てて砕け散った。
理性だった。
三十三歳の大人の女として。
社会人として。
常識ある保護者として。
自分を縛り付けていたすべての言い訳と防波堤が、この十八歳の少年の涙と、切実な告白と、薬指へのたった一度の口づけによって、跡形もなく完膚なきまでに崩壊してしまったのだ。
(……あぁ、もう……ダメだ)
葵は心の中で、完全に白旗を掲げていた。
勝てない。
この少年の熱量に、この底なしの執着に、自分という人間は最初から抗うことなどできなかったのだ。
年下だから?
十八歳だから?
そんな世間体など、どうでもいいと思えてしまうほどに――葵の心は、この九条湊という美しい怪物に、完全に奪われ尽くしてしまっていた。
「……湊くん」
葵の唇から、掠れた声が零れ落ちた。
引き止めようとしていた手の力を抜き、葵は自らの指先を、湊の大きな手のひらの中へと預けた。
「……捨てたり、しないわよ」
それは、葵の敗北宣言であり、同時に新しい契約の成立だった。
「どこにも行かない。……だから、もう泣かないで」
葵が優しく微笑むと、湊の瞳が大きく見開かれた。
そして、次の瞬間。
湊の顔に広がったのは、天使のように無垢で、世界中の幸福をすべて手に入れたかのような、眩いばかりの至福の笑顔だった。
「……はい! 葵さん!」
湊は葵の手を両手で抱きしめ、再び満面の笑みを咲かせた。
従順なワンコの仮面。
けれど、その奥に潜む鋭い牙の存在を、葵はもう知っている。
知った上で、その甘い猛毒に自ら身を委ねることを選んでしまったのだ。
窓の外から、完全な朝の光が降り注いできた。
雨上がりの青空が広がり、街が新しい一日を始めている。
けれど、二〇五号室の空気は、もう二度と昨日の朝には戻れなかった。
保護者と保護対象。
飼い主とペット。
そんな曖昧な境界線は完全に溶け去り、ふたりの間には、甘やかで、狂おしく、そして後戻りのできない大人の恋愛の火種が、パチパチと音を立てて燃え上がり始めていたのだった。




