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34・式の前に(ライナス視点)

「おい、ライナス」

「…………」

「ライナス──ってば!」


 リュカから呼ばれていることに気が付き、俺は顔を彼に向ける。


「どうした? リュカ、急に大声を出して。みっともないぞ」

「急にじゃねえよ! さっきから、ずっと呼んでるじゃねえか! 全く……式の開始が迫っているからといって、緊張しすぎだぜ」


 呆れたようにリュカが溜め息を吐く。

 そこで俺が自分の手が、震えていることにも気が付いた。


「うむ……いつもなら否定しているところだが、今回はお前の言うことを認めよう。こんなに緊張するのは初めてかもしれない」


 ぐっと拳を握る。

 しかし、なかなか震えは治らなかった。


「まあ……お前の気持ちも分かるけどよ。この日のために、準備を頑張ってきたんだもんな? 元々、公務の量もバカ多かったっていうのに、その上、式の準備だなんて……心中お察しするぜ」

「当たり前だ。今日は失敗出来ないからな」


 アリシアとの結婚式。


 式の準備は膨大だった。

 招待客の選定。当日の会場設置の打ち合わせ。衣装や料理も、俺自身が目を通して確認した。

 そのせいで最近では、ほとんどまともに寝られていない。


 これも、今日という日を成功させるため。

 ここまでして、式が失敗するようでは目も当てられない。


「とうとう、この日がやってきたな」


 感慨深そうにリュカが言う。


「ここまで色々あったな」

「ああ」


 リュカの言葉に頷く。



 ──思えば、俺の人生は波乱から始まった。



 生まれてすぐに、膨大な魔力量を抱えていることが判明し。

 天賦の魔法の才が宿る一方、俺は慢性的に魔力暴走に苦しめられてきた。


 周囲は俺のことを化け物と言った。

 今は亡き母上も、その中の一人だ。

 食事会で魔力を暴走させてしまった俺に対し、彼女は『魔神の生まれ変わり』と罵った。


 口には出さないものの、母上が亡くなった責任を陛下は俺に求めた。


 今日の結婚式にも出席する予定だが、陛下はあまり関心がなさそうだった。

 勝手にしろ、とでも思っているのだろう。


 表向きには国中を挙げて祝われる結婚ではあるが、一部──特に城内には、俺の結婚を好ましく思っていない者もいる。


「俺一人なら、耐えられなかった。だが……俺にはアリシアがいる。彼女がいるから、ここまで頑張ってこられたんだ」


 彼女のことを考えると、気持ちが穏やかになる。


 料理を美味しそうに頬張る彼女。

 髪飾りのプレゼントをもらって、嬉しそうに微笑む彼女。

 夜、俺の手を根気強く握って、見守ってくれた彼女。

 それら全てが、かけがえのないものだ。


 彼女を見つけるまで、俺の人生は灰色に彩られていた。

 決められた人生。俺の先に続く道は王になるためにあり、それ以外には用意されていなかった。

 昔は、その重圧に負けそうになった。しかし、そんな俺の救いの光となってくれたのが、またしてもアリシアだった。


 俺の人生は彼女に出会うためにあり、これから共に歩んでいくものだと断言出来る。


「俺は、彼女を幸せにする」


 顔を前に向ける。


「この先、彼女に障害があったら、俺が全てを払いのける。今日はそれを誓うための儀式だ。リュカ、これからもよろしく頼む。お前に助けられたことも多く──」

「ライナス殿下!」


 言葉を続けようとすると、突如ミレーユが慌ただしい様子で、控え室に駆け込んできた。


「どうした?」


 ミレーユの並々ならぬ様子に、俺とリュカは揃って顔をこわばらせる。


 彼女は膝に手を当て「はあっ、はあっ……」と息を整えながら、俺にこう言った。



「アリシア様が……アリシア様が(さら)われました!」

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